第46話 学園祭と新たな仲間
冒険者の集いが結成されてから一か月が過ぎた。
ライの成長は著しく、先日もう一度鑑定を使ってみたら、剣術がBになっていた。いつの間にか一つ才能が上がったみたいだ。どのような判定が為されているかは分からないが、努力すればするほど早く才能が上がるのは間違いないだろう。
あの事件以降、実技の際は模擬戦を行わず、基本動作を行うことになった。そして、仲がいい奴と組んで派閥同士での争いは避けるよう配慮されたうえでの授業となった。あの先生は結局何も罰せられなかったようだ。俺たち第二王子派が言わなければただの事故として処理されるからな。だが、ラザロの実家には公式に抗議が王族から来たらしい。事故で済まされているとはいえ、何もお咎めなしとは出来ないということだ。
とりあえずは第一王子派閥の動きが沈静化されたと言っていいだろう。なんといっても筆頭が抗議されたのだからな。だからといって油断できる状況ではない。未だ大勢は第一王子派であって、俺たちではないからだ。
アレクとミゲルも随分ライとフィーネのことが気に入ったらしく色々な情報を教えている。ミゲルが魔法を使えることは話したから、その影響か、マリア、フィーネ、ミゲルの3人で談笑していることが多い。ミゲルのあの性格の悪いモードは俺だけが対象のようだ。使い分けてるのが腹立つ!
冒険者の集いという名前がついていてもやることはただの鍛錬だ。ライの弱点はフェイクのぎこちなさと経験だ。その弱点を克服するため、模擬戦をこれでもかと行った。フェイクの勉強は俺とアレクとの模擬戦で学んでもらった。ライが目をキラキラさせて『カッコいい!』って言った時はさすがに照れたもんだ。
そんな鍛錬漬けだった俺たちにもついにビッグイベントが訪れた!
学園祭だ。
発表された時、Aクラス全体が熱気に包まれた。
学園祭とは、学園創立当時から行われていることで、国を挙げての一大イベントだ。一般参加も認められていて、多くの国民が訪れる。持ち物検査などを行ったうえでの実施となる。国内でここまで貴族が集まる祭りも少ないからな。
学園祭は、二日に渡って行われる。
一日目は、剣闘大会。クラス対抗の団体戦で行われ、順位を決める。それぞれの学年ごとに行われ、一日会場が熱気に包まれることになる。出店なども呼び込み、多くの来場客でいっぱいになる一大イベントだ。エルドルド一家も見に来るらしく割と緊張している。
俺は当然団体戦に出場することになった。メンバーは3人。俺、ライ、ギルバートだ。ギルバートと言う奴は、将国の出身でいつも一人の謎の多い人物だ。だが、実技で見た剣技はなかなかのものだった。才能はAで十分に強い。
なんで立候補したのかは俺にも分からない。が、大きな戦力であることは間違いない。
2日目は、後夜祭的なものだな。一日目の剣闘大会に出場していた人も楽しめるよう、2日目は更にお祭り状態になる。
◆
「な、なぁ!」
「ん? なんだ? ってうおっ!?」
誰かと思い後ろを向くと至近距離にギルバートの顔があった。
今はすべての授業が終わった後の放課後。ライたちしか残っていない状態だった。そして、俺もこれから同好会に向かうとこだった。
「そんなに驚かないでくれ」
そう言ってはにかむ彼はいつもとは違って見えた。いつもはムスッとして、怖いイメージしかない。
「お願いがあるんだ。今時間あるか?」
剣闘大会の事だろうか? 俺とギルバートの接点といったらそれくらいしかない。でも、ライは必要ではなさそうだな。顔に書いてある。
「あ、あぁ。あるぞ。おい! ライ 先に行っててくれ!」
「分かった!」
ライたちはギルバートとの会話を聞いていたようで、すっと教室を出ていった。
ギルバート君からの願いとは何だろう。
「同好会に入れてほしい」
「え゛、えーーーーーー!」
強面ギルバートからそんな文言が来るとは思っていなかった......
「ちょ、 うるさい!」
「あ、あ、悪い。なんでだ? 今まであんま接点なかっただろ? 俺たち」
「そうなんだけどな。そ、その! 剣闘大会もあるし、鍛えたいと思ってな」
「それが俺たちの居る同好会に入ることに繋がるのか?」
「あ、あぁ」
「そ、そうか。一度皆に聞いてみてからになるがいいか?」
「あ、あぁ! いいぞ」
食い気味にズイッと体を近づけてくるギルバート。もしかして人見知りなのか!? さっきから動きがどこかぎこちなく見える。
「ちょ、近い近い!」
「あ、悪い悪い!」
「それにしてもなんでいつも一人なんだ? ずっと気になってたんだが」
急にもじもじとして頬を赤らめるギルバート。これはもしや......?
「そ、それは、、、俺が人見知りだからだ……」
「やっぱりかぁ」
「悪いか? 人見知りで。こんな見た目だしあんまり話しかけられないんだよ!」
そう言うギルバートはいつもとは様相が異なっていた。人が刺さりそうなほどつんつんした髪に吊り上がった目。強靭な肉体も相まって、前世で言う所のヤンキーみたいなイメージだ。普段はムスッとした表情を浮かべて機嫌が悪そうにしているから話しかけられないのも当然だろう。いつものギルバートが戻ってきた感じだ。
「それは分かってるんだな。ギルバートは普段笑ってないだろ?」
「一人で笑顔だともっとまずいだろが!!!」
「アハハハッ。ごめん。確かにそうだな」
「ホントにしっかりしてくれよ。今日でさえも話しかけるの躊躇ったんだからな!?」
「ウハハハハハッ」
「ちょ、何笑ってんだよ!!!」
「ご、ごめん!! あまりにも見た目と中身に差がありすぎて!!」
「しょうがないだろっ!! そうなっちまったんだから」
「よし、そう言うことならギルバートの友達作りに協力してあげないこともない」
「ほ、本当か!?」
案外慣れたら可愛いものだな。正直今は何も怖くない。
「あぁ。多分受け入れられるだろうからな。まずは、同好会からだ」
「助かるよ! カイル」
おうおう。分かったから俺の手をブンブンするのをやめてくれないか。分かってると思うけど、お前、力強すぎて俺の手取れる!!!
「イタイイタイ!」
「す、すまん! つい嬉しすぎてっ」
頭をぼりぼりと掻いて、照れてますと言わんばかりの態度をとるギルバート。
「ギルバートの照れてる姿とか誰に需要あんだよっ」
「はぁ!? 別に照れたっていいじゃないかよ!」
「アハハハッ」
「おい! 笑うな!」
そこから軽く談笑して、同好会のメンバーに紹介することにした。
ギルバートなら受け入れられるだろう。
それにしても強面の奴が人見知りなんて誰が気づくんだよ!
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