第39話 第二王子の実力
少ししてライの番が回ってきた。正直今の段階でのライはあまり強くない。だが、騎士団長に鍛えられているのなら少しは戦えるはずだ。だが相手も気になるところだ。ライの剣術がCであるのに対して相手はBである。才能の差は中々覆せない。同年であるなら尚更だ。
「よろしくね。ラザロ」
「……」
相手の名前はラザロ・フォン・アバンスノット。第一王子派筆頭の侯爵家だ。金髪茶眼で顔立ちも整っているが、その眼はライを蔑んでいるようにしか見えない。ライ自身も何度か顔を合わせたことがあるのだろう。侯爵家であるなら剣術指導はしっかりしているはずだから、ライの勝機はほぼ無いに等しい。
「初めっ!」
ライが走り出した。
自分の間合いに入ったライは、ただの振り下ろしではなく、フェイクも織り交ぜて、相手を惑わせようとする。しかし、それだけではラザロには通用しない。
ライのフェイクは足さばきを見れば一瞬で判断がつく。俺なら、一回一回フェイクをいれる際に、足さばきを変えるが、その技術を身につけるのはなかなかに難しい。
「どうしました? その程度ですか? ライノルド王子?」
「ま、だまだ!」
徐々にライの息が激しくなってきた。それもそのはずだ。フェイクをいれる分だけ、多く動かなければならない。頭も使わなくてはならない。対してラザロはライの足を見て避けるだけであるから、心身ともにそこまで疲弊していない。恐らくすぐに決着はつけられるだろう。だがラザロがそうしないのはここでライに恥をかかせるためなのかもしれない。
そこからは、ラザロの一方的な試合が始まった。
じっくりと痛めつけるかのようにライに木剣を打ち込んでいく。
「どうしたどうしたぁぁぁぁ! そんなものでは王にはなれないぞぉ?????」
罵倒の言葉の数々。普通なら先生が止める所であるだろうが、どうやら先生までもがグルであるようだ。痛めつけられているのを見てニヤニヤしているのがその証拠だろう。
「先生っ! なんで止めないんですか......?」
「なんだ貴様は? 引っ込んでろ。まだ模擬戦の最中だろうがっ!」
それはお前が満足したいからだろうが! こんなのを模擬戦とは言わないだろう!
「これは模擬戦ではありません。ただのいじめです!」
「いじめぇ? 立派な授業だぞ?」
「もういいですっ!」
どいつもこいつも性格が捻じ曲がってる......
「おい! お前! もうやめろ!」
「なんだ? あぁ、貴様はエルドルド家の息子だったか。反吐が出るわ。貴族とは選ばれし者がなるのだ。お前の父親にはその資格はないっ!」
「ふざけるのもいい加減にしろよ? 人を嬲っておいて何が貴族だ! 只のくそ野郎じゃないか」
「――ッ!!」
俺がその言葉を言い終わると同時にライを投げ捨て俺のもとに走り出して剣を振り下ろす。ライには厳しいかもしれないが今の俺には止まって見える。
その剣を自分の持つ木剣で受け止め突き飛ばす。
カンカンと乾いた音を鳴らしながら剣を打ち合う。
ある程度こいつの実力は把握できた。確かに強くはあるが、俺にとっては取るに足らない存在だ。
実力を見極めた俺は、ラザロの剣を受け流し、剣を持っている手首を思い切り打つ。
衝撃で剣を落としたラザロに対して間髪を入れず回し蹴りを放つ。
頭に衝撃を加えられたラザロは吹き飛ばされ気を失った。
正直ライの方が重症だ。
「おい! ライ! 大丈夫か?」
「あ、あぁ。カイルか。幻滅したよね。ぼ、僕ね。どれだけやっても強くならないんだ......」
そりゃそうだ。ライは【大器晩成】のスキルのせいで、本来の才能が抑制されている段階なのだから。努力してもすぐには強くなれないのがこのスキルのつらい所だ。だが、ライが信じられない程の努力をしていることもまた分かる。必死にフェイクをいれたり、どうにかラザロと対等に戦おうとしていた。手にもマメができており、基本の型は完璧と言っていいほどまでに洗練されていた。
「幻滅なんかすると思うか? お前はこれから強くなる。例え何年かかろうとも。強くなれる。俺が保証する」
「僕が強くなる……か。そうなればいいなぁ...... カイル、いつか僕は君の隣で一緒に戦いたい」
「あぁ、いいぞ。お前と隣で戦おうじゃないか」
「ありが、とう......」
そう言って、ライは気を失った。
「先生っ! ライノルドを保健室に運びます!」
「好きにしろ!」
先生はラザロの方で手一杯だった。それもそうだろう。俺がそうしたんだから。ラザロに何かあれば先生の首が飛びかねない。ただ、ラザロにもプライドがあるから、子爵家の息子に負けたことなどという愚行を広めたりしないだろう。
◆
実技は途中で終了となり、ライとラザロは保健室で見てもらうことになった。ライは大事には至らなかった。気を失ったのを確認した俺がこっそり光魔法で大事になりそうなところは治したからだ。魔法が使えることはまだ秘密だ。剣に加えて魔法まで使えるとなれば、国の道具にされかねない。その事態はまだ容認できないため、魔法を使うのはやめておこうとエルドルド家で話し合った。
魔法の授業も当然切り上げられ、マリアとフィーネも保健室に駆け付けた。勿論、ラザロとは別部屋だ。
「ちょっとカイル! 説明しなさいよっ! なんでライがこんな目にあってるの!? ねぇ!?」
「落ち着いてくれ! フィーネ」
「落ち着けるわけないじゃない!!!!! ライは私の婚約者よ? 婚約者をこんなにしたのはどこのどいつよ!?」
「フィーネ! 落ち着かないと話さないよ?」
「ほら、落ち着きましょう!? フィーネさん」
フィーネは頭に血をのぼらせてカンカンに怒っていた。この状況で話してしまえば、なにか突発的に行動を起こすかもしれない。相手は侯爵家だ。侯爵家どうしで争えば国にとっても悪い影響しかない。だからこそ、フィーネは落ち着いた状態で聞かなければならない。
しばらくして、フィーネが落ち着きを取り戻した。
「落ち着いたわ。さっきはごめんなさい」
「いや、フィーネの気持ちは理解できる。早速結論から言うと、模擬戦でボコボコにされたんだ。ライは。」
「誰に?」
「ラザロだ」
「ラザロってあのアバンスノット侯爵家のっ!」
「あぁ、現段階では剣術の腕はラザロの方が上だな」
「どうしてこんなになるまで先生は止めなかったの!?」
「先生もグルなのだろう。第一王子派閥だと思う」
「そんなのっ!」
「あぁ。これ以上やると危なそうだったから、俺が割り込んでラザロを気絶させた」
「えっ? そんなことしたらあなたの家が!!」
「大丈夫だよ。うちは簡単には潰されないさ。ラザロにとって、俺に倒されたという事実はなかったことにしたいものだろう。従って、侯爵家として動くことは今の所はないと思う。どんな状況であれ俺はライを助けようと思っていたがな」
「そうなの。でもこれは大ごとだわ。私もお父様には伝えておく。大丈夫、伝えるだけだから」
そこから程なくしてライが目覚めた。フィーネがペタペタと体を触って大丈夫かを確かめて、ライがモジモジするという一幕があったが、ライは大事には至らなかった。
カイルの中では、今回を機に、ほぼライに味方をすることが決まっていた。
それは、第一王子派閥に政治を任せるとまずいということをカイルが認識したからに他ならなかった。
そして友人であるライを傷つけた第一王子派閥に与するなど考えられなかったからでもある。
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