第33話 ドジっ子受付嬢 メル
あんな奴の事は無視してとりあえず要件を済ませよう。
「すみません」
「は、はい! 要件は何でしょう?」
慌てたように要件を聞いてきた目の前の受付嬢さんは、大変可愛く感じた。まだ、歴が短いのかもしれない。金髪でくりくりとした目は庇護欲をそそられる。でも、さすがは王都の受付嬢といった所で、顔立ちがこれでもかってぐらいに整っている。さすがに、じっと見てると怒られるかもしれないな。ほどほどにしておこう。
「王都に移ってきたので、手続きをしたいのですが……」
「そ、そうでしたか。では、ギルドカードの提示をお願いします!」
「あ、はい! これですね」
「はい、ありがとうございますって、え、え―――――! A、Aランク――――ッ!!!」
「ちょっとメル! 声が大きいよ。すみません! きつく叱っておきますので!」
「あ、いえ。大丈夫ですよ。メルさん。気にしないでください! 慣れてますから」
「す、すみません!」
メルさんが全力で頭を下げている。土下座でもしかねない程に直角だ。もう一人の受付嬢の方は先輩なのかな。メルさんよりいくらか対応に慣れているように感じる。こんな15歳の子供がAランクだとそりゃ驚くと思う。何回も驚かれた経験があるから俺は慣れてるし、そこまで気にしていない。ただ、後ろで青ざめた顔をしてる屑もいるから、少しせいせいした気分だ。こらこらミゲル、嫌な笑みを浮かべない! 嫌われるよ?
「本当に大丈夫ですよ! それより手続きをお願いできますか?」
「高ランク冒険者の方は2階の個室で応対させて頂きます。ほら! メル! 連れて行って差し上げて!」
「わ、分かりました! ではご案内します!」
「ありがとうございます! メルさん」
「ポッ////////」
「メルさん?」
「メル~?」
「はっ! ご案内いたします!」
メルさんがボーっとしてたけど、さっきの事まだ引きずってるのかな。
高ランク冒険者は個室で応対してもらえるなんていい制度だと思う。大きな建物を持っている王都のギルドでこそ実現できることだな。地方のギルドはそんな対応してもらえなかったからな。この制度は冒険者にとっては大きなモチベーションになるし、うちの領地のギルドでも是非とも導入したいな。
「メルさん」
「は、はいぃ! な、何でしょう?」
「そんなに緊張しなくていいですよ。王都に勤めてまだ日が浅いんですか?」
「そうなんです。元々は地方の受付嬢として働いてたんですけど、そこではAランクの方が来たことがなかったんです! それにカイルさんの場合は、年齢が……」
「あぁ、よく言われるので気にしなくていいですよ。ちなみにこのミゲルも同じAランクです!」
「そ、そんな! Aランクの方を二人も応対するなんて!」
「だからそんなに緊張しなくて大丈夫ですって」
「そ、そうですよね。でも、少しは安心しました。お二方ともとても礼儀正しくてお話がしやすかったので」
「そうなんですね。それは良かったです!」
「はい! あ! ここです!」
メルさんに促されて入った個室は、応接室のような場所だった。ソファセットと花瓶が置かれていて、思っていたよりしっかりした内装だった。
「書類を用意してきますので少しだけお待ちください!」
「分かりました!」
そう言うとメルさんはパタパタと手を動かして忙しない様子で出ていった。可愛いなぁ。
「ミゲル、このシステム良くないか?」
「ええ、地方のギルドではありえないことですね。対応に差をつけることで冒険のモチベーションにも繋がりますし。良く練られたシステムです。それより、カイル様? メルさんを狙ったりしてないですよね?」
え? なんでバレた? だ、だって、綺麗じゃん! 照れる時の姿とか、綺麗な感じとギャップがあってなんというか、いいと思うんだ!
「え? なんでバレた? って顔してますね。見てれば分かります! まぁ私から見ても可愛らしい方だと思うので良いとは思いますがね。なんだか、将来カイル様は刺されそうですね!」
「刺されそうですね! って笑顔で言うな笑顔で! そういうミゲルはどうなのさ。誰か好きな人の一人でもできたのかい?」
「私ですか? そうですね……しいて言えば、カイル様ですかね」
「え?」
え? 何どういうこと? この子そんな感じの子だった? びっくり仰天なんだけど!
「ハハハッ! 冗談ですよ。今は好きな人はいません。昔はいましたけどね」
「えー? 何それ。気になるんだけど!」
「内緒です」
こいつの内緒です! の顔、需要ねぇー。なんだろうか。マジでこいつの素が見えない。いつになったら素になってくれるんだろうか。その好きだった子とやらに会ってみたいものだ。その子と会えば、ミゲルの素が見れるかもしれないしな。
コンコンッ
「入りますね!」
「はい! どうぞ!」
許可をすると、沢山の書類を抱えているメルさんが入ってきた。
「ふぅ…… あ、すみません! 重くって」
ふぅっと言いながら書類を机に置いた時、ちらっと胸が見えたのは僥倖だった。よくやったぞ! 名もなき書類たちよ!
「お疲れ様です」
ちらっとこっちを見るな。ミゲル! そして、ニヤニヤするな!
◆
その後は形式的な質問と、王都のギルドの仕組みについて教えてもらってお開きとなった。説明はとても分かりやすく、ああやって動揺していたのは稀なことなんだと認識した。どうやら高ランクの冒険者は、二階で対応することになっているそうで、あの部屋を利用することになるんだと。担当受付嬢はメルさんになったそうだ。どうやら俺たちが初の専属らしい。メルさんの評価の為にもいっぱい依頼をこなさないとね。ミゲル、アレク! 頼んだぞ!
その後はマリアのおいしいご飯を食べて、寝た。
マリアがムッとしていたのは何だったんだろうか…… そして、昔の可愛かったマリアはどこへ行ってしまったのだろうか......
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