第3章 ⑧
寝苦しくて目を覚ました。身体は疲れているのに、左肩が痛くて仕方がなかった。
もしもの時の為に部分麻酔しかしていなかったのが、切れてきたのだろう。傷口が激しく熱を持っているのが分かった。
呼吸をする度にズキズキと傷に響いた。
それでも身体を休めなければならなかった。休息が一番の回復の道だから。目を閉じて何とか眠ろうと試みる。
その中、ふと、何かの気配を感じた。
夕方にやって来ていた弘毅は、真雪が眠るまで側にいてくれると約束したが、帰らなかったのだろうかと考えて目を開けてみた。
その眼前に見えたもの。
「あれ、僕…?」
そんな訳がないと、思わず跳び起きた。その弾みでズキリと肩が痛んだ。
痛みに耐えて見やったそこにいたのは、あのクローン人間だった。冷たく真雪を見下ろしていた。
「人間って不便だよね。治るのにどれくらい時間がかかるの?」
言葉にどこか楽しそうな色を見つけた。
「どうやって入ってきた?」
口に出してから、馬鹿な事を聞いたと思い直す。
いくら警備を固めても、このクローン人間に対抗できる人間なんている訳がない。
警備を請け負ってくれただろう人達の安否が気遣われる。
「君、動けないんだね。いつもボクの邪魔ばかりして、鬱陶しかったんだ。殺すなら今だよね」
その言葉に、逃げようと身を引きかけたが、クローン人間の方が動きが速く、負傷している左肩をつかまれた。
「う、ああ――っ」
握り締める力は尋常ではなかった。真雪はその痛みに気を失いかける。が、クローン人間はそれを許さなかった。真雪の顎を捕らえ、上を向かせる。
「コウキと、したの?」
驚いてクローン人間の顔を見やる。暗くてその表情は見えなかった。
「ボクもね、ずっと昔にね。いつも優しくしてくれたよ、コウキ…」
真雪はクローン人間の手を振り払うように顔を背ける。その真雪の襟首を捕らえるクローン人間。
「だけどコウキ、ボクを捨てた。ボクを暗くて寒い所に閉じ込めて」
ギリッと、力が込められた。その手を何とか離そうと掴むものの、肩の痛みの為に力が入らなかった。
「ね、ボクがどれだけ寂しかったと思う? 分からないよね、君には」
クローン人間は真雪の襟首を掴んだまま持ち上げると、そのまま壁に向けて投げ付けた。
「う…ぐ…っ」
背中から壁に激突した。一瞬、息が詰まる。うつむいて咳き込むと何とか呼吸が戻った。その真雪の前に影が立つ。
見上げるとクローン人間。
――逃げられない、今の身体では。
ゾッと、背筋を過ぎるもの。
クローン人間の手がゆっくり伸びてきて、真雪の首を掴み、そのまま上に引き上げる。
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