第3章 ⑤


 まだキーの高い声。しかしその声には艶やかな色が混じっていた。それは弘毅が触れる度に甘く上がる。


 左肩の怪我に負担をかけないようにと細心の注意を払いながらも、弘毅は性急に先を進めてく。


 知識はあっても身体自体はまだ子どものもので、弘毅は優しく抱き締めながら真雪の身体に刺激を与えていった。ひとつひとつ教え込むように。


 衣類を脱がせるのは至極簡単で、抵抗もほとんどなかった。


 峻以外の者に自分がこんなことをするなど思ってもみなかった。感情と身体的欲望とは別の中枢から成るものなのか。


 それとも――。


 小さな子どもの身体を抱くことに罪悪感がないわけではない。しかしこの子どもらしからぬ言動からか、それとも他に原因があるからなのか、その罪悪感すらも打ち消す何かが弘毅を突き動かした。


 甘い声が耳に心地よかった。その声をもっと聞きたかった。


 肩を砕かれた痛みにすら耐え、こぼさなかった涙が、簡単に頬を伝う。


 いやいやと首を振る真雪に気づいて、弘毅は体勢を変えると、その唇に自分の唇を重ねる。見上げてくる瞳がこれまでと違ってひどく儚げで、それでいて艶やかな色を帯びていた。


 その瞳にゾクリとしたものを感じる。


 もう止められなかった。


 真雪は不自由な身体で弘毅に縋り付いてくる。その小さな身体を優しく抱き締めて。


 ――峻…峻…!


 口に出せない名前を呟く。


 弘毅は目の前の小さな存在に、失ったものを重ねた。


 切ない思いをぶつけた。


 それしか、できなくて。


「…ごめんな…」


 呟く言葉はひどく苦しかった。



   * * *



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