第2章 ①

 翌朝迎えに来たのはあの子ども――真雪ではなく、三澤だった。彼の運転する車に乗せられて、弘毅は司令部の東藤の元に向かった。


「よく眠れたか?」


「んな訳ねぇだろ」


 十数年ぶりの故郷であったが、夜の街へ出ることすらできなかった。この街は余りにも峻との思い出があり過ぎたのだ。


 それと同時に、深い悲しみを宿していた。


 峻を失った街。そして峻のいる街。弘毅にはこの十数年間、足を向けることすらできなかった街だった。


 今回も単に通過するだけのつもりだった。それを無理やり停泊させられたのだ。


 来たくはなかった。峻と過ごした街。求めるものすべてを失った街。唯一ですべてだった存在――峻。


「お前さんの気持ちも分からんでもないがな」


「分かってたまるかよ」


 握りこぶしした手に力が入る。


 その弘毅の目の端にふと映るものがあった。何げなく目を向けてギョッとした。


「な…っ」


 そこはまるで戦火の跡のようだった。あちこち焼け崩れた建物が街全体ではないがそこかしこに見えた。


「あのクローン人間の仕業だ。死傷者も大勢いる」


 言葉を失う弘毅に、三澤は苦笑交じりだった。


「お前さんのやることはいつも派手だな」


 プイッとそっぽを向く。


「やっこさん、毎日のように現れては街を破壊してくれてるぜ。ま、今のところ日に一区画程度の被害で済んでいるがな」


「峻か…?」


 恐る恐る聞く弘毅に、チラリと視線を投げて三澤は少し声音を堅くする。


「実験体S-01と呼んでいる」


「何だよ、それ」


「人の名前なんかで呼べるかよ。ましてや峻なんてな。あれは心を持たない化け物だ」


「…」


 弘毅は街の風景から視線を逸らした。とても見ていられるものではなかった。



   * * *



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