第1章 ④

「お前…っ」


「何をしてるんだよ。相手は怪物だ」


 怒鳴る子どもは、しかし弘毅を振り向かず、クローン人間の方を睨んでいた。ゆっくり近づいてくるクローン人間。


「邪魔、しないでよ」


 両手の平を握り締める子どもは、何も返さずクローン人間を睨む。平気そうな表情をしているが、その額には玉のような汗が浮かんでいた。


 弘毅を背にかばうように前へ出る。まるで近づくクローン人間から弘毅を守るかのように。


「君の超能力なんて怖くないよ。だってすぐにコウキがボクを人間に戻してくれるから」


 言って、再び弘毅に腕を伸ばしてくる。


「ね、コウキ」


 と、その時。


 バンッと言う銃声とともに、クローン人間の身体が真横に吹き飛んだ。身体の一部分――腰から腹へかけて粉々に砕け、再び赤い鮮血が飛び散った。


 振り向くと、もう一台ジープがあった。その横でライフル銃をかまえている人物と、立ってそれを指示している見覚えのある男がいた。


「峻ッ」


 弘毅が駆け寄ろうとするのを、また阻止される。


「ダメだっ」


「どけっ」


 払いのけようとするが、それよりも速く子どもの小さな拳が弘毅の鳩尾に食い込んだ。


「う…」


 気を失わないまでも、弘毅はその場にうずくまる。


 バチッ。


 と、弘毅の眼前でクローン人間の全身から炎が吹き上げた。


「う…わああぁぁっ」


 悲鳴が上がる。


「峻―――ッ」


 炎に包まれる峻の姿をしたクローン人間。その顔が炎の中で崩れて溶ける。峻の失われて行くその様を目の当たりにして、弘毅は鳩尾を押さえながらも炎の中へ飛び込んでいこうとする。


「ダメだっ」


 止めようとする子どもの手を振り払う。


「峻ッ」


 炎の中に飛び込もうとした寸前、弘毅は後頭部に鈍い痛みを感じた。そしてそのまま視界がぼやけて、意識が遠のいていった。


 遠くで、自分を呼ぶ峻の声が聞こえたような気がした。



   * * *




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る