10. 自覚

 須貝すかいと一緒に住み始めたのは、元の姿の頃から。

 元々、家事全般がダメな俺に、

 世話焼きな須貝がたまに現れて片付けたり、料理作ってくれたりした。

 いつから一緒に住み始めたのかは、あまり憶えてない。

志井しいさん、待ってくださいっ」

「嫌だ」

 脱いだ服を振り回しつつ、風呂場に向かって歩く。パンツ一丁で。

 俺のその姿を見て、須貝はバスタオルをかけようと後ろから駆け寄る。

 このカラダになってから、須貝の母性を覚醒させてしまったのか。いや、父性か。

「今、オンナノコだって自覚くらい持ってくださいっ」

「持たねぇ」

 振り返り、須貝からバスタオルを奪い取る。

「一緒には入らんからな」

「当たり前じゃないですかっ」

 何で、そんなに顔を真っ赤に…?

 その顔に、ちょっとだけ俺のイタズラ心がくすぐられる。

「やっぱり、入るか…?」

「入りませんっ」

 須貝なら、どんな俺でもそう言ったら一緒にお風呂に入りそうな気がしたのだが。

 意外と、節度はあるんだな。感心。感心…。

「シャンプー…シャ…」

 シャワーが低い位置に置いてあったので、油断した。

「須貝っ!」

 ドアを開けて、

「すかっ…」

 もう一度、須貝と呼ぼうとしたら、

「いっ」

「ぉおっ…とっ」

 目の前に、須貝がいた。

 勢いよく開けた反動で、須貝に飛び込んでしまった。

 須貝が受け止めてくれたおかげで、転ばずに済んだ。

「志井さん、大丈夫ですか…?」

「すまん…」

 俯きながら、須貝から離れる。

 そして、須貝が持っているお風呂セットを奪い取った。

「ありがとう…」

「ケガはしてませんか…?」

「してない」

 じゃあ。と、ぶっきらぼうに言って、風呂場のドアを閉めた。

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