3. 召喚、その前に

 それなりのレベルのコ、という話で落ち着いた。

「じゃあ、隣の飲み屋で待っててくれない?」

「了解…」

 須貝すかいが『CLOSE』の看板を持つので、ようやく地に足がついた。

 そして、俺は出居でいさんを店先まで見送る。

「またのお越しを」

「では、よろしく…」

 須貝が看板の取り替えをして、『CLOSE』の看板の隣に『30』と張り紙をする。

「出居さん、武器屋ココは武器屋ですから」

「わかってるよ…」

 俺には聞こえなかったが、出居さんが須貝の耳元で何か囁いたらしく、出居さんの後ろ姿に憤りを鼻息で片付けて、振り返って俺を見る時にはいつもの須貝に戻っていた。

志井しいさん、そのうち死んじゃいますよ…」

「いいんだよ…」

 ため息交じりに言って、店内に戻って召喚の準備を始める。

 確かに、死んじゃうかも知れない。

 何も目的なく生きてる俺みたいなのは…。

 死んじゃってもいいんだよ。

「どうでもいいんだよ…」

「どうでもよくないですよ」

 須貝の憤りは収まっていなかったのか、須貝の気に障ることを言ったのか。

 きっと両方だと思うけど、後者が強めだな…。

 今の俺では、いくら薄っぺらい須貝の不意打ちでも対応しきれない。

 須貝に胸ぐら掴まれて、俺の体は少しふわっと持ち上がる。

武器屋ココの経営者、志井さんなんですから」

 俺じゃなくて、お店の心配…?

「ボク、無職になっちゃうじゃないですかっ!」

 そんなこと知らんわぃっ

 でも、俺のこと心配してくれる須貝を漠然と期待していた…。

 何だよ。このガッカリ感。

「どうにかなるだろ、そんなもん…」

 集中。集中…。

 店のド真ん中まで歩き、正座。

「今日は日給にしておくから…」

 一般的なごくごく普通の黒いペン(油性)で魔方陣を書き込む。

「須貝、帰っていいぞ…」

「嫌です」

 拒否すると思った。

「じゃあ、出て来たらヨロシク」

「はい」

「おやすみ…」

「志井さん、おやすみなさい…」

 ヒトの三大欲求。

 食欲・睡眠欲・性欲。

 俺の場合、現在はお子様体型の為、食欲・睡眠欲が大半を占める。

 残念ながら、性欲はバイトくんのせいで足りている。

「チューいらんわっ」

「痛い…」

 色気づく歳相応の体型ではないので、カラダが拒否する。

 そうでなくても、須貝とは…。

 須貝は叩かれた頬を撫でながら、俺のことを真っ直ぐ見る。

「ボクのこと、嫌いですか…?」

「うん…」

 嫌いって言ってるのに…。

 こうやって添い寝してくれるのは、保護者感覚だと自分自身に言い聞かせる。

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