KONTON World

0. 奪われる

志井しいさん…」

 フラれたすぐに、須貝が現れた…。

 須貝すかいは、ただの友達。

 それ以上でもなく、それ以下でもない。

「はい…?」

 多分、泣いている俺が不憫に思ったんだろうな。

 そんな顔で俺に近付いて、軽々と抱きかかえる。

「禁忌の魔術は使っちゃいけないって言ったのに…」

「それでも、好き…だった、から…」

 とめどなく流れてしまう涙が、須貝の顔にかかってしまうくらい近くて、

「今でも、好きだって言えたの…?」

 優しく見つめる目に嘘は言えなくて、頷いた。

「よく頑張りました…」

 頬の辺りに、柔らかい感触が。

「須貝…?」

 頬にキス、したよな…?

 その衝撃が強過ぎたのか、止まらなかった涙は一気に止まった。

「泣き止みましたね…」

「いきなり、そんなことされたら止まるだろっ」

 腕の中でジタバタして怒る俺のことなどお構いなしに須貝は微笑んだ。

「じゃあ、帰りましょうかっ」

「おろせっ…てばっ!」

「嫌です…」

 その日以来、須貝はただの友達から小さくなった俺のお手伝いさんとなった。

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