閑話「星夏」
今回は優愛ルートのその後のお話となります。
季節的なものや、コミカライズの15話に合う内容を考えて書いてみました。
ちなみにサブタイトルの読み方は「星夏(せいか)」です。
↓以下本文
七月。
既に猛暑日が続く季節になってはいるが、それでも日が暮れれば気温は下がり、心地よい風が吹く。
陽は落ちて、暗闇を照らすための街灯が付き始めた頃。公園からは楽し気な親子が会話が聞こえてくる。
「パパ、見て見て。綺麗でしょ!」
「うん。綺麗だね。でも危ないからあまり振り回しちゃダメだよ」
「はーい」
元気よく返事をするも、両手に持った七色の光を放つ手持ち花火を勢いよく振り回す少女。
そんな少女を見て、困ったように笑みを浮かべる男性。オタク君こと小田倉浩一である。
危ないからダメだよと言いつつも、子供がそう簡単に言う事を聞いてくれるわけがないと、諦めにも似た感情で「こらこら」と、なんともやる気のない声で諫める振りをしている。
そんな浩一の小言に付き合うつもりは毛頭ありませんと言わんばかりに、手持ち花火を持って飛んだり跳ねたりと大はしゃぎの少女。
少女の名は小田倉星空(せいら)。小田倉という名字から分かる通り、小田倉浩一と、小田倉優愛の娘である。
花火を持ってはしゃぐ娘を見て、浩一が「名前の通り星空のようだ」などと親ばかっぷりを発揮している時だった。
背後から、不意にペシーンと頭をはたかれる浩一。
そして、花火の火が消えると同時に、浩一と同様にペシーンと少女の頭も叩かれる。
「全く。二人とも危ないでしょ!」
浩一と星空をはたいた主が、怒り半分、呆れ半分といった表情でため息を吐きながら額に手を当てる。
金髪ギャル……ではなく金髪ヤンママの小田倉優愛である。
叱られたというのに、浩一も星空も明るい声で「はーい」と返事をしては、新しい花火に火を点け再度振り回し始める星空。
そんな星空に「こらこら」と言いながら、ニコニコ笑顔で手に持ったスマホで写真を撮り始める浩一。
二人の様子を見て、盛大なため息を吐く優愛だが、どこか嬉しそうな表情が見え隠れしているあたり、きっとこのような光景は日常茶飯事なのだろう。
時折優愛の叱咤が響きつつも、幸せそうな家族の笑い声が響き渡る夜の公園。
そんな楽しい時間も、あっという間にお開きになる。星空が何個も花火を同時に付けて遊んだために、花火を消費する速度が普通の倍以上だったので。
花火の後片付けを終えると、おもむろに空を見上げる浩一。
浩一が見上げたのを見て、優愛と星空も、同じように夜空を見上げる。
「綺麗ですね」
「うん」
「あのね、今あそこで光って見えるのが夏の大三角で、青い部分が天の川なんだよ」
指を差し、ドヤ顔を見せる星空。
パパとママが自分じゃない方の星空に夢中になっているので、構って欲しくて星の説明をし始めたのだ。
そんな娘の様子があまりに可愛かったので、思わず抱きしめて抱っこをするオタク君。
「それじゃあ、あの織姫のところにある星座は分かるかな?」
「えっとね。こと座!」
そんな娘の答えに「そうだね」と答え、笑顔を見せる浩一。
そして、もう一度星を見上げる。
「実はもう一つ星座があるんだよ」
「えっ、そうなの?」
「うん。それは優愛座っていう星座なんだ」
「優愛座……ママの星座なの?」
「そうだよ」
浩一の言葉に、星空が「おぉ」と驚いた顔をして、優愛の顔と星座を何度も見比べる。
「じゃあ、パパの星座もあったりするの!?」
浩一に変わり、今度は優愛が答える。
「うん。彦星様があるでしょ? そこを繋げると、オタク君座になるんだよ」
「オタク君座?」
「浩一君の、昔のあだ名がオタク君だから」
「へー」
そう言って、興奮した様子で星を見上げる星空。
星空を挟み、少し照れたような表情で浩一と優愛が微笑み合う。
「そうだ!」
良い事思いついたと言わんばかりに目を輝かせ、星空が浩一の腕から降りると、右手は浩一と、左手は優愛と手を繋ぐ。
「じゃあね、あそこにある、天の川の星が星空座!」
浩一と優愛に手を繋いだまま、星空が天の川でひときわ輝く星、デネブを指さす。
「織姫と彦星は年に一回しか会えないけど、星空がこうすればパパとママはいつでも一緒にいられる!」
十年前にオタク君と優愛で作った星座に、新しい星座が加わった。
語り継がれる事はないであろう家族の星座。その輝きは、十年後も二十年後も色あせないだろう。
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