第163話(委員長ルート)「こう、カップルが多いと」
クリスマスの商店街を、歩くオタク君と委員長。
普段と違う髪型が気になるのか、時折前髪を見たり、軽くいじったりしながら。
会話を弾ませていたオタク君と委員長だが、不意にオタク君の言葉が止まる。
どうしたのと言いたげに、首を傾げ「ん?」とオタク君を見つめる委員長。
「いやぁ、やっぱりこの時期だからカップルが多いなと思って」
「あぁ……うん、クリスマスだもんね」
軽く辺りを見回し、そうだねと同意する委員長。
(周りから見たら、私と小田倉君もカップルに見えるかな?)
そんな事を考え、ちょっとだけ顔を赤らめる委員長。
委員長が恥ずかしさから顔を俯かせたのを、オタク君は見透かさなかった。
(あっ、変な事言っちゃったかな)
まるで意識してるみたいな言い方をしてしまったかもしれない。
このままでは変な空気になりかねないので、払拭するためにオタク君は言葉を続ける。
「こう、カップルが多いと」
「多いと?」
僕たちもカップルみたいですね。
そんな期待を瞳に宿しながら、委員長がじっとオタク君の顔を見る。
「リア充爆発しろって感じですよね」
「あっ、うん……」
「この前までは一緒に『リア充イッテヨシですぞ』とか言ってたエンジンが、今日はそのリア充側になってるしね」
「あはは、そうだね」
委員長の歯切れが悪い返事に、無理にテンションを上げて誤魔化そうとするオタク君。
なんとか笑ってくれた委員長にホッとしているが、委員長の目が笑っていない事には全く気付いていない様子である。
「全く、リア充爆発しろー」
「そうだそうだ。リア充爆発しろー」
一緒に声を上げて、笑い合う。
傍から見れば、オタク君たちも爆発する側である。
オタク君に同調して「リア充爆発しろ」と言ってる委員長。
(あああああああ、どうしよう。これじゃあ小田倉君とただの友達にしか見えないよ)
恋人同士になれなくても、せめてカップルらしいことが出来ればと、一縷の望みを胸にしていた委員長。
だが、今はオタク君と話せば話すほど、そんな空気とは程遠くなっていく。
笑ってオタク君と話している委員長だが、内心は気が気でない。
どうしたら良いか、どうすれば良いか。不安と焦りだけが募っていく。
「雪光さん、大丈夫ですか?」
考え事ばかりしている委員長の様子に気づかないオタク君ではない。
オタク君は、気の利く性格なので。
「もしかして、体調が悪かったりしますか?」
ついでに鈍感なので。
「あっ、ううん。そうじゃないんだけど」
心配そうに見つめるオタク君。
普段とは違った装いだからだろうか、オタク君に見つめられると委員長の胸は高鳴っていく。
誤魔化そうにも、素直になろうにも、上手いことが言えない自分へのもどかしさから、委員長の言葉が詰まる。
(どうしよう。このままだと泣いちゃうかも)
目の端に、涙が溜まっていく感覚が分かった。
「えっとね……そのね……」
「雪光さん」
「あ、うん。ごめんね。そのね……」
「大丈夫ですから。僕はいくらでも待つので、ゆっくりで良いですよ」
「あっ……」
心配ないよと笑顔を見せるオタク君。
その笑顔を見て、委員長の中で何かが吹っ切れた。
いや、吹っ切れたのでない。考える事を放棄した。
「今日だけで良いので……私の恋人になってください」
「えっ、僕なんかで良いの?」
オタク君の問いに、委員長は言葉が出なかった。
今の言葉で彼女の中の勇気を全て使い切ってしまったからだろう。
なので、返事の代わりに、小さくコクンとだけ頷いた。
頷く委員長に合わせて、ハーフツインが揺れる。
その揺れが収まるまでの数秒。
「えっと、僕で宜しければ」
少しだけ恥ずかしそうに顔を掻きながら、困ったような、照れたような、色んな感情の入り混じった笑顔でオタク君が答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます