第146話「冷凍おでんって名前で出そうと思うんだけど、どうかな?」

「試作品作ったけどどうかな?」


 夏休みの教室。

 オタク君は文化祭の屋台の出し物の試作品をクラスメイトに見せていた。


「冷凍おでんって名前で出そうと思うんだけど、どうかな?」


 一本の串に、上からいちご一粒、みかん一房、カットされたマンゴー、カットされたパイナップルがそれぞれ刺さっている。

 見た目はアニメ等で見かける、串にささったこんにゃく大根ちくわのおでんっぽい形である。

 

 ただフルーツを串に刺して冷凍しただけではあるが、クラスメイトからは割と好評である。

 見た目はカラフルで人目を引きやすく、食べるには時期的に丁度良く、更に作る手間もコストもかからない。

 当日の保存についても、クーラーボックスの中にドライアイスと一緒にいれて置くだけで長時間保存が出来て、場所も取らない。

 完全にケチのつけようがない一品である。


「暑いから、冷凍させたフルーツって凄く美味しく感じられるね」


「祭りとかの屋台で売り物になるレベルじゃん、これ」


 クラスメイトがオタク君の冷凍おでんを食べ、褒めていく。

 その反応に、オタク君も満足気である。


「オタク君、これなら屋台で出して億万長者狙えるじゃん!」


「流石にそこまでは無理ですよ」


 大げさにオタク君を褒めながら、冷凍おでんを頬張る優愛。

 キンキンに冷えたいちごを丸ごと口にし、口の中でその冷たさに悶えている。 

 そんな優愛の反応を見て、頷く男子たちがいた。

 男子たちは目配せすると、無言のまま立ち上がる。


「おい樽井、いきなり何をするんだ!?」


 立ち上がった浅井を、後ろから羽交い絞めにする樽井。


「何をするって、浅井、分かって言ってるんだろ。池安も当然分かってるよなぁ?」


「勿論だぜ。ほら浅井、口開けろよ」


「や、やめろおおおおおお!!」


 そう、古来よりあるお笑いの熱々おでんネタである。

 冷凍してあるので、当然熱々ではない。

 熱々ではないが、冷凍のいちごからはまるで湯気のように冷気が立ち昇っている。

 そんないちごを口にし、「あっつぅ!!!!」と叫びながら転げまわる浅井。芸人魂である。

 普段だったら冷ややかな目で見られるようなコントだが、場の空気のおかげかソコソコの笑いは取れているようだ。

 

 オタク君の作った冷凍おでん。

 クラスの誰もが「これを目玉商品にしようよ」という中、ちょっと待ったコールをかける者達がいた。


「確かに小田倉君の冷凍おでんは凄いけどさ」


「目玉にするっていうなら、ウチらの出し物見てから言ってくれる?」


 村田姉妹である。

 彼女たちの自信満々な発言で、クラスメイトの注目を集めた。

 クラスメイトが見守る中、村田姉妹が取り出したのは、鍋のようなものである。

 その鍋のような物に書かれた文字を見て、クラスメイトが明らかに力が抜けている。


「綿菓子って、普通過ぎじゃない?」


 綿菓子といえば祭の屋台の定番である。

 そんなありきたりな物で、冷凍おでんと張り合うのはまず無理だろう。

 クラスメイトの誰もがそう思った。

 だが、その考えはすぐさま改めさせられることになる。


「うっそ……」


「なにそれ!?」


 村田姉妹が綿菓子機の電源を入れ、綿菓子を作り始めた。

 出来るのは当然綿菓子である。

 だが、ただの綿菓子ではない。

 色鮮やかなカラフルな綿菓子が出来ているのだ。


「これは、色付きのザラメですか?」


「おっ、一目でわかるとは流石小田倉君だね」


 オタク君はメガネをクイッとやると、なるほどと感心した声をあげる。

 村田姉妹が次々と綿菓子を作っては、クラスメイトに手渡していく。

 色付きのザラメをランダムに何種類か入れてあるために、どれも違った模様で出来上がっていく。

 それを受け取ったクラスメイトが、どの綿菓子が綺麗かの品評や、スマホで写真を撮ったりと大はしゃぎである。

 その人気たるや、オタク君の冷凍おでんに引けを取らない程である。

 

「どうやらクラスの目玉商品はウチらの綿菓子で決定かな」


「そんな事ないし。ねぇリコもオタク君の冷凍おでんのが良いと思わない?」


「えっ、あ、あぁ。そうだな」


 優愛に話題を振られ、少し歯切れの悪い返事をするリコ。

 別にオタク君の冷凍おでんが劣ってると思っているわけではない。

 リコが気になっている点は別のところにあった。


(小田倉と優愛のヤツ、めちゃくちゃ肌焼けてるじゃん)


 台風のあった翌日、オタク君は優愛と海に行った。

 水着で海に行き、一日中遊んだのだ。当然日焼けで真っ黒である。

 そして二人セットでいきなり日焼けしていれば、勘ぐられるのは当然と言えよう。

 先ほどから一言も発せず、リコの隣で様子見をしている委員長も、リコと同じ心象である。

 それならストレートに「二人きりで海に行ったのか?」と問い詰めれば良いだけだと思うが、そうはいかない。

 

「そういえば、オタク君お祭りで屋台見てきたんだっけ?」


「はい。色々参考になるかなと思って」


「リコと委員長もお祭りで屋台を見て来たって言ってたよね」


「ま、まぁな」


「ふーん」


 屋台の出るお祭りは、オタク君の住んでる地域でしかまだやっていない。

 それなのに、地元のオタク君はともかく、リコや委員長までお祭りで屋台を見に行ったと言ってるのだ。

 それは一体いつどこで誰と。もし優愛がそれを追求したらオタク君と一緒に行った事を言わざる得なくなるだろう。

 だが、優愛も優愛で追及する事が出来ない。オタク君と二人きりで海に行っていたのがバレバレなので。

 それぞれが抜け駆けをした結果である。

 

「三人ともどうしたの?」


 肝心のオタク君は三人の様子に全く気付いていないようだが。

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