第132話「小田倉殿、別に変な物はいれてないでござるよ」
「小田倉殿、ハッピバースデーでござる」
「今日はお祝いですぞ」
今年も第2文芸部で行われる、ささやかなオタク君への誕生日パーティ。
しかしオタク君の誕生日は七月二十六日、夏休みに入ってからになる。
だが今はまだ夏休み前。なぜ一週間以上も間があるのに誕生日パーティを開いたのか?
文化祭の出し物だなんだで忙しく、男三人で誕生日パーティなど出来ないからである。
別に一緒に祝えば良いのではと思うかもしれないが、男同士でないと渡せない物もある。
女の子の前ではとても見せられないようなオタクグッズとか、ゲームとか、薄い本とか。
なので、優愛たちがいないタイミングで早めの誕生日パーティをする事になったのだ。
「二人ともありがとう!」
チョバムとエンジンがオタク君に、プレゼントを入れた箱を手渡す。
手渡された箱を、早速開封するオタク君。
はやる気持ちで開封したわけではなく、変な物が入れられていないかのチェックである。
「小田倉殿、別に変な物はいれてないでござるよ」
「全く。信頼して欲しいですな」
言葉とは裏腹に、ニヤニヤした顔でイタズラしていますと言わんばかりの表情のチョバムとエンジン。
高校生、ましてやオタク同士の誕生日プレゼントとは、何かイタズラをしてなんぼである。
去年オタク君に贈られたメイド服など序の口で、チョバム、エンジンの誕生日には内容は過激になっていった。
もちろん、オタク君もチョバムの誕生日にはエンジンと、エンジンの誕生日にはチョバムと一緒に悪ふざけを企んでいた。
「こらー!」
やればやり返されるのは当然。
オタク君は誕生日プレゼントの中から、一冊の本を取り出した。
「これはヤバいだろ!」
そう言ってチョバムとエンジンに見せつけたのは、妹物のえっちな本である。
実の妹がいるオタク君に渡すには、中々のチョイスである。もし妹に見つかった日には、どんな目で見られるか分からない。
そんなオタク君を指さし、チョバムとエンジンは大爆笑をしている。
オタク君も言葉とは裏腹に、声色は全く怒っていない。むしろ楽しんでいるまである。
誕生日にイタズラしていいのは、誕生日にイタズラをされる覚悟がある奴だけだ。
オタク君は覚悟のある人間だから笑っているのだろう。もちろんチョバムとエンジンも。
「本はともかく、工具類は凄く嬉しいよ」
オタク君への誕生日プレゼントは、デザインナイフやエアブラシといった、プラモデルやガレージキットを作ったり塗装したりするための道具である。
それらの道具はオタク君も当然持っているが、種類が違う。オタク君が持っているのは細かい作業をするための物ばかり。
今回チョバムやエンジンが贈った物は、オタク君が持っている道具より一回り以上大きい。
なので、これらを使い分ける事で、作業効率がアップする。オタク君にとってはかなり嬉しい贈り物である。
「でも良いの? 高かったでしょこれ」
「はっはっは、心配には及びませんぞ」
「何故なら拙者たちが自分用に買って一度も使わずに挫折しただけでござるからな!」
アニメや漫画に影響され、模型などに興味を持ち道具を買い揃えたが、封を開ける事もなく挫折。
オタクあるあるである。
一通り誕生日おめでとうと騒いだ後は、いつも通りの部活動。
「今流行りのバンドアニメ見てると、拙者も楽器やりたくなるでござる」
「小田倉氏がギター弾けるから、某ベースやるですぞ!」
「それなら、拙者はドラムでござるな!」
エンジンがエアギターのモノマネをし始めると、その隣でチョバムもエアドラムの真似をし始める。
そんな二人の様子に、オタク君は軽くため息を吐く。
「二人とも、どうせ三日坊主で終わるでしょ」
そんな事はないと言い返したいチョバムとエンジンだが、オタク君への誕生日プレゼントがそんな事あった証拠なので何も言い返せない。
この日は久しぶりに男三人だけ。なので気兼ねなく今ハマっているアニメやゲーム、そして同人活動の事を語り合った。
そして、語るのはそれだけではない。
「ところで、小田倉殿は、誰狙いでござるか?」
「誰狙いってなんだよ?」
「しらばっくれるなですぞ。鳴海氏に姫野氏に委員長氏。あぁ、めちゃ美氏もいるですなぁ?」
チョバムとエンジンがニヤニヤとオタク君を冷やかす。
友達が女の子と仲良くしていれば冷やかしたくなるのは、思春期男子であれば当然の事である。
例え、それがオタクであっても。
「はぁ!? そんなんじゃないし、それ言ったらエンジンだって村田さんの妹の方と仲良いじゃん!」
「小田倉氏!?」
自分ばかりが冷やかされるのは御免だと言わんばかりに、エンジンと村田詩音の関係を
「どどどどどど、どういう事でござるか!? エンジン殿、村田殿って鳴海殿の友人のあのギャルでござるか!?」
「チョバム氏、おちけつですぞ」
「この前、二人っきりでデートしてたじゃん。映画館で」
「別に、詩音さんとはまだそんな関係じゃないですぞ!?」
「エンジン殿が女の子を下の名前で呼んでるでござる!!!」
「まだって事は、エンジンは気があるって事か」
エンジンも負けじとオタク君の事を
オタク君がギャルを侍らかしているのはいつもの事なので。
それよりも自分と仲間だと思っていたエンジンがまさかギャルと親しくなっていた事の方が、チョバムにとって衝撃は大きい。
何を言ってもエンジンが劣勢に陥るだけだった。
「あー、あー、聞こえないですぞ」
結局下校のチャイムが鳴るまで、エンジン弄りは続いた。
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