第113話「人を好きになるって、どんな気持ちなんだ?」

 委員長はオタク君と天体観測に。

 優愛はテントで村田姉妹と恋バナを。

 そしてリコはというと。


「へぇ、コテージの中はこうなってるんだ」


「うん。テントって虫が出そうでどうしても無理ー」


 去年のクラスメイトの友人二人のコテージにお邪魔していた。

 大自然のテントというのは新鮮で良かったが、コテージというのもお洒落でリコ的には悪くないようだ。

 色々と見て周ろうとするリコを、唐突にリコの友人が抑え込み、半ば無理やりに座らせる。

 そして向かい側に座るリコの友人達。


「それで、リコは小田倉君とどこまで行ったの?」


「はぁ? 急に何をいってるんだ?」


 唐突にオタク君の名前を出され、しかもどこまで行ったか聞かれ質問に質問で返してしまうリコ。

 

「あっ、ちなみに行ったは場所とかの意味じゃないからね」


「いや、そうじゃなくてだな」


「だってリコ、小田倉君の事好きでしょ?」 


「なんでだよ!?」


 リコに「なんでだよ」と言われ、リコの友達は顔を見合わせる。


「なんでって」


「リコは小田倉君の事になると、呆れたりせずにムキになるじゃん?」


 彼女たちは以前は「瑠璃子」と呼んでいたが、今は「リコ」と呼べるくらいまでリコと仲良くなっていた。

 今はクラスが変わってしまったが、それだけの時間を一緒にいたのだ。

 下手をすれば優愛やオタク君よりも一緒の時間は長いかもしれない。

 

 なので、リコがどんな話題でどんな対応するかも、大体わかっていた。

 周りが弄ったりすればするほど、塩対応をするリコ。

 だが、オタク君絡みの話題だけは別である。

 ムキになって声を荒げるのだ。


「いや、そんな事は……」


 友人二人に指摘され「うっ」となりながらも言い返そうとするリコ。

 だが、今しがた声を荒げたばかりである。


「そんな事あるよ。だって一年の最初の頃リコクラスで浮いてたじゃん?」


「そんなリコをシンデレラのように変身させて救ってれば、好きになるのは当然っしょ?」


 イジメというとリコは絶対に否定するので、マイルドな言い方をするリコの友人達。

 二人は立ち上がると、まるで悲劇のお姫様と、それを助けに来た王子様のようなポーズをそれぞれ取る。

 そんな二人の友人の動きに対し、思わず声を荒げて反論しそうになるリコ。


(くっ、確かにこいつらのいう通りだ)


 リコ、オタク君絡みになると、声を荒げている事をやっと自覚したようだ。

 だが、ここで自覚しましたという反応をすればおもちゃにされるのは目に見えている。

 軽くため息を吐き、興味ありませんといわんばかりの表情を作るリコ。


「それで好きになったというのは短絡過ぎじゃね?」


 リコの反応に、口を開け「ほー」というリコの友人達。 

 これなら誤魔化せると確信したリコが饒舌に語る。


「大体、最終的になんとかしたの優愛じゃん」


 ふっ、勝った。

 そう思い口角が上がりそうなのを必死に抑えるリコ。

 そんなリコの前に、ドンと鏡が置かれる。


「……なっ!!」


 そこには、ニヤニヤしながら顔を赤らめるリコの姿が映っていた。


「違ッ! 別に小田倉の事考えて赤くなったわけじゃないからな!!」 


「いや、ウチらまだ何も言ってないし」


 言い包めようとする前にリコが自爆しただけである。

 もはや言い訳不可能である。


「あっ……いやっ……その」


 顔を赤くし、目をぐるぐると回すリコ。

 完全に思考が定まっていない。


「別にそれで良いんじゃない?」


「えっ?」


 弄られると思っていたリコ。

 だが、かけられた言葉は違っていた。


「小田倉君を好きで良いんじゃない?」 


「ってか、そんな態度だといつまで経っても小田倉君落とせないよ?」


 いつもは何かとからかって来る友人。

 そんな友人が柔らかい笑みで、リコを諭すようにいう。

 空気が変わった事に、三人とも気づく。もはやふざける場面ではないと。

 

 観念したリコが、握りこぶしに寝間着のズボン巻き込みながら、目を逸らし、ボソっと呟くようにいう。


「人を好きになるって、どんな気持ちなんだ?」


((あるぇ~???))


 リコの言葉に、一瞬だけ思考が飛びかける友人たち。

 リコが恋愛経験者でない事くらいは分かっていた。

 だが、ここまで初心うぶとは思ってもみなかったのだ。


「初恋とかした事がないから、分からないんだ」


 予想外の展開である。

 リコと一緒にオタク君へのアプローチ方法を考えようとしていた二人だが、まさかの「好きになるってなぁに?」からである。

 

「それはほら、一緒にいるとドキドキとかしたり?」


「こう、手を握って欲しいとかなんかそういうのない?」


 好きとは何か。

 答えに窮するリコの友人たち。

 そんなのは、感覚的に知っている前提なのだから。


「して欲しい……あぁ、そういえば」


 友人たちの言葉に、リコしばしの長考。

 そして思いついたように手を打った。


「おっ、何かある?」


「その……小田倉に頭を撫でられたら、ドキドキして、もっとして欲しいと、思った、かな」 


 はにかんだ顔を赤らめながら「好きになるってこんな気持ちか?」というリコ。

 

((ンンン???))


 またもやリコの言葉に、一瞬だけ思考が飛びかける友人たち

 もはや観念したリコが、友人たちの状況など気にも留めず語り続ける。


「初めて小田倉と映画に行った時に、感動して泣きそうになってたらアイツ頭撫でてきてさ……」


(えっ、どういう事なん?)


(いや、知らんし!)


 この調子なら不意に手が触れ合ったとか、そんな甘酸っぱいものを想像していた友人たち。

 フタを開けてみれば、リコの口からはアグレッシブなオタク君の話が飛び出てくる。


 彼女たちもオタク君とはなんどか会った事があり、雑談程度に話した事はある。

 しかし、彼女たちと話したオタク君と、今リコの口から語られるオタク君のイメージが全く合わずに思わず絶句である。

 まぁ、実際はリコが「どうしてもっていうなら、してもいいぞ」などと誘導尋問のような言い方でさせた事ですら、オタク君自らやったように語っているせいでもあるが。


 本当は、優愛や委員長にはいえないオタク君との思い出を誰かに語りたかったのだろう。

 就寝時間になるまで、リコの口が止まる事はなかった。 

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