第82話「クラスのグループチャット作ろうぜ!」

 教室に、スーツを着た女性が入ってくる。

 新たな担任のようだ。軽く自己紹介をすると檀上で話を始める。


「学年が上がり、皆は二年生になりました。これから新入生が入ってきて後輩が出来ます」


 皆は二年生になったのだから、新入生の模範となるように~等、聞きなれたようなよくある話である。

 自由な校風故に生徒も教師も変わり者が多い学校ではあるが、この女教師はスーツをきっちりと着こなし、特に変哲のない普通の女教師のようだ。


 そもそもアロハティーチャーのような教師の方が少数派なのだから、当たり前である。

 大体の教師は、服装の自由と言っても、ネクタイが嫌だから付けないとかそんなレベルである。

 たまにスーツを洗濯し忘れ、私服で来てしまう。その程度だ。


 ただ、その程度ではあるが、私服で来た教師に。


「先生、私服のセンスめっちゃ良いじゃん!」


 と生徒から声をかけられたり、褒められたりもする。

 逆に教師からも、普通の学校では指導の対象となるような服装や髪型を褒めたりもするので教師と生徒の仲は基本良かったりする。

 誰もが褒められれば嬉しいものである。仲も良く、褒められるのならば勉強も頑張ろうという気にもなる。

 好循環である。


 叱るよりも褒めた方が気分が良いし、褒められた方が気分が良い。そう考えてこの学校へ赴任する教師も多い。

 この女教師は、服装どうこうではなく、多分そういった理由でこの学校を選んだのだろう。


 ありふれた教師の話なので、大半は軽く聞き流すような感じで聞いている中、オタク君は真面目に話を聞いていた。

 もしかしたら、大事な話もあるかもしれない。

 オタク君がチラリと視線を動かす。その先には既に話に飽きて机に突っ伏した優愛が居る。

 もし大事な話があったら、優愛は聞き逃してしまうだろう。なので自分が聞いておかねばという使命感である。


 今年はリコも居る。なので、もし大事な話があっても優愛に教えてくれる人は他に居るのだから、オタク君が頑張る必要はないが。

 教師の話が終わり、始業式があるので体育館に向かうため、リコが優愛を起こす。 

 この後、始業式でも優愛が爆睡をしていたのは言うまでもない。


 始業式が終わり、この日は授業はない。なので後はホームルームで終わりである。

 ホームルームで担任が一人づつ自己紹介をするように言うと、出席番号順に一人づつ自己紹介を始めて行く。

 普通に自己紹介をする者もいれば、お調子者なのかウケ狙いの者もいる。


「小田倉浩一です。よろしくお願いします」


 オタク君はと言うと、特に変わった自己紹介もする事なく、無難な感じである。

 続いて優愛、リコ、委員長が普通に自己紹介をしていくが、彼女達が自己紹介をするたびに一部男子がコソコソ話をし始めたりする。

 色恋沙汰も気になるお年頃という事なのだろう。


 そんな男子たちがホームルームが終わったらする事と言えば決まっている。


「クラスのグループチャット作ろうぜ!」


 建前は連絡があった際に、皆で共有できるようにだが、実際は気になるあの子の連絡先をゲットのためである。

 そして、気になる相手が居るのは、何も男子だけではない。


「良いね! 皆携帯持ってきてるよね?」


 女子も女子で、気になる相手がいたりいなかったりする。

 こうなると、嫌とは言えない雰囲気になる。

 陽キャの優愛は輪に入り自ら交換しに行くが、リコや委員長はちょっと戸惑った様子である。

 そして、ちょっとだけ苦い顔になるオタク君。中学時代にはこういったグループでハブられていたからである。

 だが、今は違う。


「優愛さん、僕もグループに招待お願いできますか」


「うん、良いよ」


 まだ他のクラスメイトに自分から声をかけたりは出来ないが、優愛を頼る事は覚えたようだ。

 まぁ……優愛狙いのクラスメイトが居る前で「オタク君オタク君」と優愛の方から来られると、後々変な因縁をつけられかねないと思ったからでもある。

 他の男子たちも、自分に合わせて優愛の方へ来ると思ったオタク君だが、彼らは遠巻きに見ているだけである。

 初日目だから、遠慮して話しかけられないのだろう。

 

「リコさんと委員長も一緒に登録しませんか?」


「ねぇねぇ、ウチらも入れて」


「お姉ちゃん、次ヨロ」 


 気が付けばオタク君の周りには優愛、リコ、委員長、村田姉妹が集まり、ハーレム状態である。


「これでよしと」


「ねぇねぇオタク君。この後どっか寄っていかない?」


「良いですけど、優愛さん大丈夫ですか?」


「さっきいっぱい寝たから余裕!」


 優愛は元気いっぱいのようだ。


「リコ達も行くでしょ?」


「……私も?」


「もちろん、委員長もだよ」


「ウチらも当然一緒に行くぜ」


「当然っしょ」


「オッケー、それじゃあ行こっか!」


 こうして、オタク君の二年目の高校生活が始まった。 

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