高校2年生

第78話「優愛さんもう起きてるのか、早いな」

『よし、今日の狩りはここまでだ。学生共はさっさとログアウトして新学期の準備してこい』


『えー、まだまだ狩り足りないっすよ』


 春休み最終日。

 パソコンに向かい合い、ネットゲームをしていたオタク君。

 だがネットゲームで所属しているギルドのギルドマスターの一声で、終了を告げられる。

 学生も多く所属しているギルドなので、こうしてギルドマスターがログアウトを促す事が多い。

 そうしないと、リアルに支障をきたす者も居るからである。


『新学期は始業式だけだから、特に準備必要ないけど』


 とは言え、促され素直に従わず、このようにごねる者もいる。

 ちなみにゴネているのはクラッチと言う名前のキャラで、オタク君である。

 小田倉浩一、略してクラッチ。安直なネーミングセンスである。


『おっ、相方良い事言うっすね。準備必要ないから狩りしましょうっす』


『ばっか、お前初日から遅刻してみろ。「お前調子に乗ってね?」とか不良に絡まれて、財布差し出す羽目になるぞ!』


 ギルドマスター、始業式に悲しい思い出があるのだろう。

 冗談なのかリアルなのか判断がつかず、流石に誰も突っ込めないでいる。

 気まずい沈黙が流れる。


『そういえば、明日は新学期記念衣装ガチャですよね』


 なので、オタク君があえて話題を出す。

 新学期記念衣装ガチャ。キャラの見た目が変更出来る衣装装備が手に入るガチャである。

 新学期に合わせ、ガチャの中身でセーラー服とブレザーが目玉商品として入れられているのが発表されている。


『あのセーラー服良いっすよね。めっちゃ欲しいっす。多分パンツは純白の白っすよ』


『確かに純白の白も良いけど、僕は薄い青の方が好きかな』


『あー、相方。これはちょっとパンツ談議が必要っすねこれ』


『アホな事言ってねぇでさっさとログアウトしろ。ちなみに俺は薄いピンクが好きだな』


 ギルドマスターの性癖暴露に対してあえて何も言わずに次々とログアウトしていくギルドメンバー、一種のギルドマスター弄りである。

 無言でログアウトするギルドメンバーに対し、ギルドマスターが何か言っているが気にせずオタク君もログアウトをする。


「新学期か、クラス替えどうなるかな」


 時刻は午後十時。

 寝るにはまだちょっと早い時間である。

 とはいえ、今から何かをやろうとすると確実に夜更かししてしまう。

 オタク君の通う高校は成績優秀な方ので不良などいないが、初日目から遅刻というのは流石に恥ずかしい。

 なので、明日の準備をして寝る事にしたようだ。


 翌日。

 早く寝れば、当然早い時間に目が覚めるものである。

 目覚ましが鳴るよりも早く起きたオタク君。

 十分な睡眠を取ったために、二度寝をしようという気にもならないのだろう。

 大きく伸びをして、ベッドから降りる。


「あれ? メールが来てる」


 携帯の画面を開くと、優愛からメッセージが来ていた。

 受信時間は今から一〇分ほど前である。 


『オタク君、起きてる?』


「優愛さんもう起きてるのか、早いな」


『起きてますよ』


『ねぇねぇ、良かったら一緒に学校行かない?』


 このまま部屋に居ても、時間までボーッとするくらいしかない。


『良いですよ。それじゃあ着替えて準備したら優愛さんの家に行きますね』


 ならば一緒に登校した方が楽しいと判断したようだ。


『ついでにリコさんにも聞いてみましょうか』


『うん。そうだね』


 現在、朝六時である。

 こんな時間にリコが起きているわけが。


『分かった。優愛の家出たら教えて、駅で待ってるわ』

 

 あった。

 新学期というのは、ワクワクで早く目が覚めてしまうものなのだろう。


 早速制服に着替え、洗面台で寝癖を直し学校に行く準備をするオタク君。


「こうちゃん、随分早いのね」


「うん。友達と一緒に登校しよって約束してたから」


「そうなの。朝早いから気を付けてね」


「分かってるよ。行ってきます」


 玄関のドアを開けると、外の冷気に一瞬だけ身震いする。

 まだ薄暗い中、オタク君は家を出た。

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