閑話「オタクに優しいギャルが部に居るモブ(拙者)達はどうすりゃいいでござるか?」

 雪がちらつき始める2月。

 放課後の第2文芸部。

 暖房を点けたばかりの部室の温度は、氷点下に近い温度である。

 吐く息も白く、身も凍る寒さの中、オタク君、チョバム、エンジンはオタク会話で熱く盛り上がっていた。


「いやー、今回も『魔法少女みらくる☆くるりん』素晴らしかったですな」


「女児向けアニメとはいえ、迫力のある戦闘シーンに濃厚なシナリオ、半端ないでござる」


 彼らの話題は、日曜の朝にやっている女児とおっきいお友達に大人気のアニメ『魔法少女みらくる☆くるりん』である。

 天真爛漫で笑顔の絶えない炎の魔法少女くるりん。通称リンちゃん。

 冷静沈着でいつも無表情な雷の魔法少女くるるん。通称ルンちゃん。


 この2人の魔法少女が素手と魔法で戦う話なのだが、少年漫画のアニメに負けないくらいの戦闘シーンに、昼ドラに負けないくらいのドロドロ展開をしているため、良くも悪くも話題に上がる作品である。


 当然、オタク君達も毎週欠かさず見ている。

 なので、月曜の放課後に第2文芸部で彼らが話す話題は『魔法少女みらくる☆くるりん』である。


「いや~、あれだけくるるんに酷く拒絶されたのに、大事な仲間だと言って助けに向かったリンちゃんは最高だね。天使だよ」


「流石小田倉氏ですぞ、良く分かってるですぞ」


 腕を組み、うんうんと頷きながら語るオタク君。

 その言葉に、満足そうに頷くエンジン。彼もまた、リンちゃんが大好きであった。


 盛り上がる2人に対し、何言ってんだオメーと言わんばかりの冷めた表情のチョバム。

 彼が好きなのは、ルンちゃんだった。


「何言ってるでござる。天使はルンちゃんでござるよ。わざわざ危ない所からリンちゃんを遠ざける為に心を鬼にしたのに台無しでござるよ」


 フンと鼻で笑いながら、やれやれと首を振るチョバム。

 その態度と発言が、エンジンの心に火を点けた。


「はっはっは、ルンちゃんなんてただの量産型厨二キャラですな。大体ルンちゃんの相手が踊り狂う必殺技『雷の魔法ダンシングクレイジー』って狂ってるのはどっちだ、ですぞ」


「エンジン殿は面白い事を言うでござるな。あえて言うなら狂ってるのはエンジン殿でござるよ」


 にこやかに会話をしながら、笑顔で席を立つチョバムとエンジン。  


「あ”あ”?」

「あ”あ”?」


 そして取っ組み合いの喧嘩が始まった。

 お互いオタクなのだから、相手の好きな物を乏してはいけない。

 当たり前の事ではあるが、彼らがそれを理解し行動するにはまだ若すぎる。


「ちょっと、2人ともやめなって」


 そんな彼らを毎回仲裁するのがオタク君の役目である。

 呆れたような顔で、間に入り止めさせる。

 拗ねたようにお互い顔を逸らし、椅子に座る。第2文芸部のよくある光景である。


 チョバムとエンジン。彼らはとにかく趣味が合う。

 好きなアニメ、好きなゲーム、好きな声優。大抵が一緒なのだ。

 だが、好きなキャラになると毎回真っ二つに意見が分かれ、このような罵り合いに発展したりする。


 とは言え、しばらくすればすぐに仲直りして楽しそうに話すので問題はない。

 そんなのに毎回巻き込まれるオタク君としては、たまったものではないだろうが。


「おっすオタク君」


「おーい、小田倉」


 いつもの如く、無遠慮に開け広げられる第2文芸部のドア。

 開けたのは優愛である。その隣にはリコも一緒である。


 そのまま2人はズケズケと第2文芸部の部室に入って行く。これもまた第2文芸部のよくある光景である。

 

「あれ、2人ともまた喧嘩したの?」


「今度は何があったんだ?」


 チョバムとエンジンの様子に気付いた優愛とリコが尋ねるが、返事は来ない。

 無視をしているのではなく、単純に「女児アニメの事で喧嘩した」と言いづらいだけである。

 なので、オタク君がフォローを入れる。


「ははっ、ちょっとアニメの話題で熱が入り過ぎちゃってね」


「そっか」


 いつもの事なので、優愛達は特に気にしていないようだ。

 とりあえず大事ではないと判断し、いつものように他愛のない会話を始める。


 アレを買いたいからバイトしたいなとか、最近新しくスイーツのお店が出来たから一緒に行こう等。

 時折チョバムやエンジンも会話に交じりながらの雑談である。


 最初の頃はギャルの対応にあたふたしていたチョバムとエンジンも、今はそこそこに慣れてきている。

 優愛やリコとの会話は『オタク君に優しいギャル』の設定作りに大いに役立つため、チョバムとエンジンとしては彼女達との雑談は貴重な資料である。


 チャイムが鳴るまで、まだしばらく時間はある。

 だが、オタク君は優愛とリコと共に帰るようだ。

 先ほどの雑談で話していた新しいお店に、話していたら優愛が行きたくなったからである。


「それじゃあチョバム、エンジン、先に帰るね」


「お疲れ様ですぞ」


「また明日でござる」


 そのままドアへ向かう3人。途中で優愛が振り返る。


「そうそう、また同人誌ってやつ? 作るなら手伝うからいつでも言ってね」


「その時はまたお願いするでござる」


「その時はもうちょっと上手くなりたいから、エンジンペン入れのテクニックとかもっと教えてよ」


「分かったですぞ」


「それと次出すのはギャルは無しにして、優愛を除け者にしよっか」


「おっ? リコ喧嘩か?」


 チョバムとエンジンに続き、優愛とリコを宥めながら第2文芸部の部室を出て行くオタク君。

 3人が出て行くと、部室は静かになった。


 何となくオタク会話で盛り上がる気にもなれないチョバムとエンジン。


「そういえば、第2文芸部のツ●ッター、たまにはショート漫画をUPしてみるでござるか」


「そうですな」


 コミフェ以降、サークル「第2文芸部」は地味にフォロワー数を伸ばしている。

 だが、出回ったのはまだ100部。


 どんなタイプの本を出したか知ってもらうために、ショート漫画をたまに描いてはUPしたりしている。

 人気はそこそこで「真に迫ったものを感じる」と評判である。


「小田倉殿達を元にネーム作ったでござるよ」


「ふむ、それでは早速描きますぞ」


 静まり返った第2文芸部で、筆を走らせる音だけが小さく響く。

 チョバムはネームの続きを描き、エンジンは出来た分のネームを清書していく。


「最近……チョバム氏のネーム、綺麗で見やすくなったですぞ」



「……拙者があれこれ描かなくても、エンジン殿がちゃんと描いてくれるから、シンプルになっただけでござるよ」


 そう言って、しばしの無言。


「……さっきはああいったでござるが、拙者リンちゃんも好きでござるよ」


「某も、ルンちゃんは好きですぞ」


 そして、またしばしの無言。


「次は、リンちゃんとルンちゃんのショート漫画なんてどうでござるか?」


「良いですな」


 なんだかんだで、趣味が合うから仲良しである。 

 後日、喧嘩をしながら彼らが描いた『魔法少女みらくる☆くるりん』のショート漫画は、万バズする程人気が出た。

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