第33話「そうだね。じゃあ来年はもっと夏らしい事して遊ぼっか」
「これで完成っと」
夏休みももう終盤に差し掛かり、文化祭の準備期間ももわずかである。
この日、オタク君はクラスの手伝いを程々にして、第2文芸部の展示物の手伝いをしていた。
第2文芸部の展示物は、20年ほど前にインターネット上で流行ったロボット。その等身大模型の展示である。
スカスカなボディ、ヘラの腕、股間部に取り付けられた謎の銃口、トドメにアホっぽい6角形の顔。
そう、先●者である。
かつては全国どこの学校にも、オタク系の部室には1台は置いてあったであろう先●者。
時代の流れと共に、今ではその姿もめっきり見なくなった。
そんな懐かしの先●者が今ここに復活したのである。
「ところで、これなんのロボットなの?」
当然の疑問をオタク君が口にする。オタク君が生まれる以前のネタなので分からないのは仕方がないというものだ。
「拙者たちが生まれる前に、ネットで流行ったネタでござるよ」
「小田倉氏、これですぞ」
パソコンのディスプレイに表示されたテキストを、オタク君が読み上げる。
全て読み上げ終わったころには、オタク君は苦笑いを浮かべていた。
今の子の感性には合わないようだ。
「それで、なんでこれを展示物にしようと思ったの?」
「オタクを前面に出し過ぎず、それでいて分かる人間には分かるようにですぞ」
「とエンジンが言うから、めんどくさいので拙者もそれで良いといった次第でござる」
「全く。適当だな」
全くだ。そう言って3人揃って笑う。
彼らにとって大事な事は、何を作るではなく、誰と作るだ。
だから、展示物の内容に不満は何もなかった。
「クラスの展示の手伝いばかりで、こっちは疎かにしちゃって悪かったね」
「気にしなくて良いですぞ」
「そうでござる。最後は手伝ってくれたから十分でござるよ」
「そっか。2人共もし困った事があったらいつでも手伝うから言ってね」
「了解でござる」
「その時は頼らせてもらいますぞ」
この時の約束は、思ったよりも早く果たされる事になる。
だが、それはもう少し先の話である。
「おや、小田倉氏のお迎えですな」
「そうでござるな」
パタパタと足音が部室へ近づいてくる。
どうやらチョバムとエンジンはその足音だけで誰が来ているか分かっているようだ。
「オタク君いる?」
ノックも無しに、遠慮なくドアが開かれる。
開けたのは優愛である。今日は一人のようだ。
「優愛さんどうしました?」
「うん。衣装が破れちゃった子が居るんだけど、オタク君なら直せないかと思って」
「そうなんだ。それはちょっと見て見ないと分からないな」
「小田倉殿、拙者たちはもう少ししたら帰るから行って来るでござるよ」
「こっちはもうやる事ないですからな」
「分かった。じゃあ2人ともまたね」
優愛に手を引かれ、オタク君が部室から出ていく。
菩薩のような笑顔で2人を見送るチョバムとエンジンだった。
優愛に手を引かれながら、廊下を歩くオタク君。
どの教室からも、文化祭準備でワイワイガヤガヤと騒ぐ声が聞こえる。
外からは運動部の掛け声と虫の鳴き声が聞こえ、夏休みだというのに校内は喧噪に包まれている。
優愛は不意に立ち止まり、窓から外を眺める。
「あーあ。あと3日で夏休みも終わりとかヤバくない?」
「そうですね。長いようであっという間でしたね」
「なんか夏らしい事もっとしたかったなぁ」
まだ遊び足りないといった様子の優愛。
実際夏休みの終盤はずっと宿題の監視をされていたのだから、仕方がない。
「それなら、また来年がありますよ」
「そうだね。じゃあ来年はもっと夏らしい事して遊ぼっか」
「はい」
来年の夏も一緒に遊ぼう。
それは、最低でもあと1年は仲良く一緒に居ようねという約束。
勿論、オタク君はそこまで深く考えずに返事をしているのだろう。
「そうだ。夏も良いけど、秋には美味しいもの食べて、冬には雪合戦しよう。一緒にリコが泣くまで雪玉当ててやろう!」
「ははっ、程々にしましょうね」
こうしてオタク君の夏休みは終わっていく。
文化祭まで、もうすぐである。
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