閑話「オタク君の妹がこんなに可愛いわけがない」
オタク君の家のベルが鳴り響く。
音が鳴ると、ドタドタと音を立ててオタク君が玄関へ向かう。
そんなオタク君をコッソリ覗き込むのは、オタク君の妹の希真理である。
「オタク君おっす」
「こんにちわ。外暑いですから、中へどうぞどうぞ」
「はーい」
「お邪魔します」
オタク君に促され、家に入ってくる優愛とリコ。
(あの人が、リコさんの言ってた優愛さんか)
「あれ、そっちの子誰? オタク君の妹?」
居間からばれないようにコッソリ覗いているつもりだが、普通にバレバレである。
早速優愛にバレたようだ。
「えっと、オタク君の妹の、何ちゃんだったっけ?」
オタク君の妹に名前を聞こうとするが、目が合うと引っ込まれてしまう優愛。
完全に怯えられている。
仕方なく、隣に立つオタク君に名前を聞く。
「希真理です」
「おー、キマリちゃんか。キマリちゃんこんにちわ」
希真理が隠れた場所までズケズケと歩いて行く優愛。
しゃがみ込み、目線を合わせて挨拶をする。
「こ、こんにちわ」
流石にここで逃げるのは失礼と思ったのか、警戒しながらも挨拶を返す希真理。
「良いね良いね。初々しい反応マジ可愛いんだけど。リコも見習ったら?」
「そうか、そっくりそのまま返すよ」
優愛は希真理のそんな反応が気に入ったのか、捕まえて抱きしめる。
反応に戸惑いながらも、優愛の服装チェックをする希真理。
(この人、本当にリコさんが言った通りブラ出してる)
優愛の来ている服は、片方が肩の出ているワンオフショルダーという服だ。
本来は見せブラでも紐ぐらいしか見えないが、優愛はブラもちゃんと見せている。
いや、見せてはいけないのだが。
(オタクのお兄ちゃんと、この人が本当に友達なのか確かめなきゃ)
「今日は宿題をしに来たんですよね?」
「そうだよ。なに、キマリちゃんも一緒にする?」
「宿題はもう終わらせたので、高校のお話が聞きたいです。私もお兄ちゃんと同じ高校に行きたいので!」
「あー、もう終わらせたんだ。偉いね」
「そうだね。希真理はちゃんと宿題終わらせて偉いよね。優愛」
少しだけ苦い顔をする優愛。とんだやぶ蛇だった。
助けを求めようにも、オタク君もほぼ宿題は終わっている。
「じゃあ希真理ちゃんに高校の話をしながら、宿題しようか」
このまま話を続ければ自分が不利になるだけだと悟り、ドタバタとオタク君の部屋へ駆けていく優愛。
その後をため息を吐きながらついて行くリコ。
「希真理、飲み物とか持って行くから手伝ってくれ」
「はいはい」
「ってか、高校僕と一緒の所って、お前ならもっと上目指せるだろ?」
「別に、上とか興味ないし。どうせなら可愛い格好とかしたいから、自由な校風のお兄ちゃんの学校選ぶだけだし」
冷たくあしらった感じで言いながらも、内心では大好きなお兄ちゃんとお話が出来てテンションが上がる希真理。
オタク君が飲み物とお菓子を、希真理が人数分のグラスと手拭きをお盆に入れて運んでいく。
「あー、リコがオタク君のベッドで本読み始めてる!」
「アタシはもう宿題終わったからね。優愛がんばー」
「うぜぇ。こうなったらプロレスか? プロレスするか?」
「迷惑だから人の家で暴れないの」
「カーッ!! オタク君も何か言ってやってよ」
「とりあえず宿題を始めましょうか」
ぶつぶつと文句を言いながらも、宿題を出して始める優愛。
隣に座り、分からないところがあれば都度教えるオタク君。
希真理は2人が真面目に宿題をやっているので、何も口を挟めずに居た。
(今の所、お兄ちゃんが優愛さんのお世話しているようにしか見えないけど)
希真理、大体正解である。
最近では、優愛がオタク君と出かける時は髪のセットからメイクまで、大体オタク君がやってたりする。
優愛としては自分でやるよりも良い感じに仕上がるし、オタク君としても練習になるからと言っているが、どうかと思う。
リコとしてもそんな2人に言いたいことはあるが、3人で出かける時は自分もやって貰っているからあまり強く言えない。
なんなら、リコとオタク君の2人で出かける時に、家に来てやって貰ったりするくらいだ。
「オタク君のおかげで宿題が捗る捗る。マジ感謝。えっへへ」
オタク君の腕にしがみつく優愛。
右腕に優愛を感じながらも、オタク君は次のページを開いて解説を始めていく。
(凄い、お兄ちゃんあんな状態でも平常心を保ってる!)
希真理からはそう見えるかもしれないが、実際のオタク君はいっぱいいっぱいだ。
顔も赤くしながら、しどろもどろになりつつ早口口調になっている。
そして抱き着いた優愛はというと、顔を真っ赤にしながら、口元を緩ませていた。
恥ずかしいならやらなければ良いのだが、恥ずかしくてもやってしまうのが恋心というヤツなのだろう。
(優愛さんも、あんな胸を押し当てて。すごい)
希真理からは優愛の姿も平常心に見えるようだ。
恐ろしいまでの鈍感である。誰に似たのやら。
多分兄のオタク君に似たのだろう。
(そういえばリコさんもお兄ちゃんに気があるんじゃないかと思ったけど、漫画を読んでるだけだ)
そんな事は無い。
リコはリコで、オタク君のベッドでオタク君のぬくもり的な物を感じながら、顔を真っ赤にして口元を緩ませていたりする。
もはや漫画の内容は頭に入っていない。
(優愛がこの前匂い擦りつけてたけど、今日は小田倉、アタシの匂いを感じて寝るのかな)
もはやマーキング行為である。
顔の前に漫画を置いて、にやけた表情をバレないようにしているが、バレバレである……本来なら。
だがそう、今この状況では、そんな事に気付ける人間は居ないのである。
(リコさん、前に来た時もお兄ちゃんと部屋で2人きりになっても何もしていなかったし。大丈夫だよね)
残念だが、オタク君の膝の上に座り頭をなでられていた。
優愛とリコの気持ちに全く気付かない希真理。
彼女が下した結論。それは。
(そうか、つまり優愛さんとリコさんは、オタクに優しいギャル!)
ある意味正解だが、ある意味間違っていた。
(オタクに優しいギャルなんて、都市伝説と思ってたけど、実在したんだ)
お兄ちゃん大好きツンデレ妹の方が、よっぽど都市伝説である。
その後、優愛がある程度宿題を終わらせてから4人で色んな事を話した。
夕方まで遊び、その日は解散となった。
翌日。
(お兄ちゃんが私になびかなかったのは、本当はギャルが好きだったからだ!)
「ただいま」
「お兄ちゃんお帰り」
「……希真理、今のお前の姿を見たら母さん泣くぞ」
オタク君が帰宅すると、そこにはヤマンバと化した妹がいた。
「……はい」
オタク君にガチトーンで言われ、しょんぼりしながら洗面所で化粧を落とす希真理。
お兄ちゃんの気を引きたいがための行動だった。
そんな妹を見て、おしゃれをしたい年頃なんだろうな。
今度ちゃんとした化粧の仕方でも教えてやるか。
そんな風に考えるオタク君だった。
「今度こそ、お兄ちゃんの気を引いて見せるんだから」
素直になれば良いだけなのだが、難しいお年頃なのだろう。
オタク君の妹は思春期である。
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