【完結】ギャルに優しいオタク君【書籍化&コミカライズ決定】
138ネコ
高校1年生
第1話「マジで! オタク君やばくね!」
「ねぇねぇオタク君」
どこにでも居る、金髪ギャルの鳴海 優愛(なるみ ゆあ)高校1年生。
彼女がクラスメイトである小田倉 浩一(おたくら こういち)に話しかけたのは、ただの気まぐれだった。
放課後にいつも話す友達が居なかったので、暇つぶしにと、近くの席に居た小田倉に声をかけただけだった。
「えっ、オタク君って僕の事?」
「そうだよ。なんで?」
小田倉は返答に困った。
彼は確かにオタクではある。
だが、かつて中学時代はそれで馬鹿にされたこともあり、高校になってからは極力周りにバレないようにしてきたつもりだ。
だと言うのに、いきなりクラスメイトのギャルにオタク君呼ばわりされたのだ。
(オタク呼ばわりは酷いけど、オタク君って呼ばれるのは嬉しいかも)
彼はちょっとだけ、喜んだ。
見事にツ〇ッター漫画に毒されているオタクである。
「苗字が小田倉なだけで、オタクじゃないよ」
「でもオタク君、授業中に女の子の絵描いてたりするじゃん?」
「なっ!?」
小田倉ことオタク君は気づいていなかった。
自分の前や横の席から見えないようにしていても、自分の斜め後ろの席からは丸見えだったという事が。
幸いにして彼の席は窓際の後ろから二番目。気づいて居るのは彼女だけだ。
「そ、それで用事は何かな?」
本人はさり気ないつもりだが、必死に話題を変えているのは一目瞭然だ。
「それがさ、このネイル。ヤバくね?」
優愛は彼の動揺など気にもせず、そう言って、手を出した。
彼女にとって、オタク君が絵を描いている事など、どうでも良いからだ。
オタク君がオタク趣味でも別に良くない?
その程度の認識だ。
全く興味のない爪を見せられた上に「ヤバくね?」と言われ、言葉を失うオタク君。
人の事を「オタク君」と呼ぶ事の方がヤバくねと言いたい気持ちを、ぐっとこらえる。
「えっと、どうヤバいのかな?」
「これ自分で塗ってみたんだけど、どうよ?」
優愛の爪を見るオタク君。
爪にはカラフル、なんて形容詞では誤魔化せないような模様が出来ていた。
絵画の授業中に、色を混ぜて遊ぶのが楽しくなり、絵の具を無茶苦茶に混ぜて出来上がったような模様だ。
悪い意味でヤバイ。
「なんというか、独特な模様だね」
「あー、やっぱりか」
先ほどまでハイテンションで喋ってた優愛だが、困り顔で返答するオタク君を見て悟ったのだ。
悪い意味でヤバイと。
「実はさ、これの真似したんだけど上手くいかなくてさ」
テンションは下がっているが、それでも彼女のマシンガントークは止まらない。
ペラペラと良く分からない単語を織り交ぜた会話をしながらも、慣れた手つきで自分のスマホを操作し、とある画面をオタク君に見せつける。
「こんな感じにしようと思ったんだけどさ、中々上手くいかないんだよね」
「ふむ」
画面の中の爪は、オタク君が一目見て分かるくらい”ヤバイ”物だった。
夜空に輝く星たち、流れるような薄い青は天の川だろう。
角度を変えるたびに星たちがキラキラと輝いている。
それに対して優愛の爪は、魔女の鍋と言う表現が似合うだろう。
似ても似つかない代物だ。
「確かにヤバいですね」
特別ネイルに興味がないオタク君でも、見入ってしまうほどに。
「でしょ! ヤバイよね!」
先ほどまでテンションが下がっていたと思ったら、ネイルを褒められ、まるで自分の手柄のように自慢し始める優愛。
「そうだ。オタク君手先器用でしょ? これ作ってよ!」
「ちょっ、いくら絵が描けるからって、こんなのは……」
「あー……やっぱ無理だよね。ごめんね無理言っちゃって」
「出来るよ」
「えっ?」
「これくらいなら、出来るかなー」
彼は自尊心をくすぐられると調子に乗る、ちょろいオタクだった。
確かにネイルは綺麗に出来ている。職人技と言える。
だが、普段からプラモを塗装したりしている彼にとって、同じ物を作るのは難しくはない。
「マジで! オタク君やばくね!」
「そ、そうかな」
「ねぇオタク君、お願い。これと同じの作って」
両手を合わせ、拝むポーズをする優愛。
優愛が拝んだ拍子に、胸元と黒いブラがチラリと見えている。
(べ、別に興味ねーし)
必死に自分の心に嘘をつきながらもチラ見をするオタク君だが、傍から見ればガン見である。
もしこの教室に他の生徒が居ればバレバレな程に。
「良いけど、その代わり僕が絵を描いてた事とか誰かに喋ったりしないなら」
「本当に! うんうん、約束する! オタク君ありがとう!」
喜びの余り、オタク君の手を取り、思わず恋人握りをする優愛。
一通り喜びを表した後に、パキパキと音を立て、爪を外し始めた。
「えっ、ちょっと何してるの!?」
「ん? 爪剥がしてるんだけど?」
彼女が剥がしているのは付け爪である。
別にいきなりスプラッタな行動を取り始めたわけではない。
「えっと、この付け爪に、さっきの画像のネイルをすれば良いんだよね?」
「そうそう。あっ、そうだ。オタク君が柄を忘れないように画像送るからライン教えてよ」
「あまりやった事ないけど、登録はこれで良いのかな?」
「オッケー。それじゃあ後で画像送るからよろしくね!」
「おーい。優愛なにしてるの? さっさと帰ろうよ」
「うん、今行く。それじゃあオタク君、バイバイ」
「はい。さよなら」
友達に呼ばれ、テンションを上げながらバタバタと教室を出ていった優愛を見送るオタク君。
「それじゃあ、帰って作るかな」
やれやれと言った感じで呟くオタク君だが、女の子と手を繋ぐことも、仲良く話す事も小学生時代以来。
彼は今、ものすごくドキドキしていた。
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