Perfect Fiction ~パーフェクト・フィクション~
@asuka_kirisame
第1話 I was born to…
目の前にあったのは、それはそれはキレイなお月様だった。
薄灰色の、暗く淀む夜空にぽつりと浮かぶ正円の満月。
都市の強い電気の明るみにも負けず、それは煌々と黄金のやわらかな光を放っていた。
長い夢から目覚め、ぼやけた意識と視界の中でさえ、その光は美しく輝く。
まるで、死にかけの自分に救いの手を差し伸べてくれているかのように。
その時の私にわかることといえばそれだけだった。
ここがどこで、自分はだれで、一体どこからやってきたのか…。
何も思い出せない。
だがそれもどうでもいいことだ。どうせこの按配じゃ長くはもたない。なんとなくでもわかる。
脈打つたび全身に波紋のように広がる鈍い痛みと、漂う腐臭、虫の音。
気づいた時には路地裏に積もる廃棄物の山の中から、幅5メートルほどの横長い夜空を見つめていた。
どう考えても、大丈夫な状況ではないはずなのに、なぜか不安など少しも感じなかった。
それどころかこの状況に歓喜に似た感覚さえ覚えていた。
何か重い呪縛から解き放たれた様な解放感と達成感。
私は狂ってしまったのだろうか。
眼中にあの美しい月さえ存在しているのであればそれでいいと思ってしまっていた。
あの人に出会うあの瞬間までは…。
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