読まれない作家は自分に推し活をする

土田一八

第1話 自分で読もう

 俺は今日もPCに向かい、チエックをする。昨日はどの位読まれたのかなぁ。投稿管理画面をクリックする。


「0」


 ん?


「0」


 もう一度見る。


「0」


 昨日も読まれていない‼


 最新話の投稿から既に一週間以上が経過していた。読まれているのは大体2,3日といった所か。俺は一話毎の文字数も多いし毎日UPなぞ専業作家でもないから無理なペースだし。新聞に毎日連載小説を書いている作家は凄いと俺は常々思っている。マンガみたいに多少は書き溜めもあるのだろうか…?かといって今更王道ものや恋愛ものに路線変更はできないし、したくもない。そもそも、俺は執筆以外にもする事が多い。執筆作品が多いのもあるが……。ネタが死んだにならないようにしている為だけどね。俺って集中すると浮かびもしないアイデアが浮かんでしまう性質らしい。1人暮らしではない事もあって集中というより一心不乱にタイピングができる環境ではなかった。そもそも、仕事でやっている訳ではないからね。割と家族から頼まれごとが入る。


 …まあ、いいや。俺は作品の執筆を続ける。

「ご飯だよー!」

 そういうタイミングで俺は呼ばれた。はあ。殆ど進まなかったなぁ。



 俺は両親とご飯を食べながらテレビを見る。ニュースが終わり母親はチャンネルを歌番組に回した。テレビの画面は大御所と呼ばれているあるベテラン演歌歌手がトークをしている所を映していた。

「この人も元気だねぇ」

 俺はポツリと言った。


「……私は高校には行かずに東北の寒村から東京に出まして先生の家に押しかけましてね、断れないように前もって布団を送る付けておいたんですよ。それで、強引に弟子にして貰いましてね……」


「うげぇ」

「そう言えば、汚ったない布団だった、て、その作曲家が言ってたわね」

 母親がエピソードを補足する。

「うへぇ」


「…それからなんとか先生のおかげでデビューは出来たんですが、今度はなかなかヒットしませんで、毎日毎日ラジオ局に私の歌をリクエストに書いたはがきを送り付けていました…」


「えっ⁉ご自身で毎日リクエストをしていたんですか?」

 司会者が驚いて大御所演歌歌手に聞き返した。

「そうです。何十通も毎日……来る日も来る日も書きました。それでなんとかラジオで歌が流れるようになりまして、やがて、音楽プロデューサーからお声がかかるようになりまして……」


 んっ?この人自分でリクエストを出していたんだ……。


 ………。

 ………。

 ………。

 ふむ。


 俺も閃いた。



 それから、仕事の行き帰り、電車の中で実践をする事にした。スマホで自分の小説を読む事にしたのだ。評価は付けられないが読まれた数は加算できる。すなわちポイントが入ると言う事だ。たかが知れてはいるが……。

 昭和の人は、はがきや切手にお金をかけて自分推しをしていたが、令和の人は余計なお金をかけずにスマホでポイントを稼いで将来的には換金できる。時代は物凄く変化している。


 ポイント稼ぎだけを考えて始めた事だったが副産物もあった。

「あ、ここ間違ってるじゃん」

 それは誤字脱字の発見やここを書き直せばよかったかな、などの効果があった。見つけた所はPCで修正する。話の続きもアイデアが生まれてくる。それ以外の物語のアイデアも浮かんでくる。中々の収穫だ。


 そんでもって数か月後……。


 あれっ?あんまり増えてはいないなぁ。まだはがき1枚分だが、それでも付与ポイントは増えていた。まあ、始めだから仕方ないのだが。俺は執筆ペースを増やす努力をした。


 そこそこには増えてはいるがお金に換えられる程には未だ至っていない。他の物語のアイデアも浮かんでしまい、投稿はストップしてしまっていた。する事も増えてしまったし……。やっぱりこの物語は再構成するか……。


 俺はまたやる事を見つけてしまいどんどん投稿から遠ざかっている。読む量は増やしているからポイントは増えている。なんだか悪循環に陥っているなぁ。と思いながら俺はスマホを取り出した。


                                  完

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