2 【ぞくち】~【そこび】

 目が覚める。腹が減った。

 昨日は久々の茄子と納豆に感動して、漁に出なかった。そのため食べる量自体は少なかった。

 録っておいた夏みかんをむき、口に入れる。

 何となくもう一度使えないかと思い、辞書を開く。【ら】のところを開いてみる。

「ラーメン!」

 何も起こらなかった。やはりそう都合よくはいかないか。

 とりあえず文字を読むだけでも気がまぎれるので、再び適当なページを開いてみる。

「底魚ね」

 食べ物というだけでなく、漁師としては魚の欄が気になった。「そこもの」とも言うが、アンコウなど高値で売れるやつもいる。

「……アンコウ?」

 なんと、目の前に大きなアンコウがいた。え、え?

「また使える……?」

 一日経ったらリセットされるのだろうか。でも、さっきは無理だった。ひょっとして、ランダムに開いたところだったらいける?

 まだよくわからないが、とにかくアンコウがいる。これはこのあたりではまず獲れないやつなので、とても貴重だ。

 残念ながら、このページには他に食料はなかった。

 さて、アンコウをどうしようか。せっかくの高級食材である、単なる焼き魚はもったいない。

 いろいろと考えて、まずは手ごろな石を集める。それを火の周りに丸く並べる。そして、海水を貯めた金庫をその上に乗せた。蓋を開ければ、鍋に見えなくもない。

 包丁で、夏ミカンの皮を削る。何となく香りが付くような気がする。

 何とか下処理もする。これは漁師として学んだ技術だ。まあ、自分が食べるものなので見た目はどうなったっていい。

 アンコウだけの出汁なしアンコウ鍋は少し寂しいが、しかし島に来てから一番まともな料理という気もする。

 煮立ってきた。海鳥の骨で作った櫛で、アンコウの身を突き刺す。そしてそれを口の名から運ぶ。

「うまい!」

 魚そのもののうまみが口の中に広がっていく。いやあ辞書さん、新鮮なものを出してくれますねえ。

 海藻などがとれれば、出汁的なものも可能かもしれない。まあそれより辞書で「だし」の載ったページを引ければいいのか。

 とりあえず明日も試していけたら、仮説は当たっているということだろう。なんだか、楽しみになってきた。



本日の辞書めし

・夏みかん

・アンコウの金庫鍋夏みかん風味


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る