推し活相手の同期が僕のコアファンだった。

荒音 ジャック

推し活相手の同期が僕のコアファンだった。

 僕(やつがれ)の名前は衝動 アリア、【インデックス】に所属するVtuberで、亜麻色ロングヘアで顔の右半分に火傷跡があり、藍色のフードが付いたダッフルコートと黒のズボンを穿いて、いつもフードを被っている少女のアバターを使っていて、今日はモエさんこと、同期の炬虎炉(こころ) モエルと久しぶりにコラボをするんだけど、早くもプレッシャーに押しつぶされそう……


 原因は僕が【インデックス】の13期生になってすぐのこと、同期のモエさんと仲良くなりたかった僕は早速コラボ配信のお誘いを送った。


 ちょうど他の同期と予定が取れなかったこともあって、タイミングとしては完璧だったんだけど、そこで事件は起きた。


 モエさんは黒髪ショートヘアの猫の獣人の少女で、白のタートルネックのミリタリージャケットと黒のプリーツミニスカートとパンストを穿いた。ちょっとクールな面持ちをしているアバターで、得意なゲームはFPSと僕のイメージでは女性としては珍しいジャンルのゲームを得意としている。


 で……起こった事件なんだけど、僕はFPSが苦手でその時のコラボ配信でモエさんの足を引っ張りまくってしまったんだ。その日の戦績は放送事故レベルで酷いモノだった。


・その時の最後のやり取り


アリア「ごめんなさい! ごめんなさい! 足を引っ張ってばかりで本当にごめんなさい!」


モエル「どんな達人でもこんな日はあるからいいよ。じゃあ、今日はもう時間だからこれでね」


 最後のやり取りに関してはもうRPGで出てくる厄介なデバフ使う敵キャラ相手にボコボコにされたようなダメージを受けたよ。


 モエさんは普段から誰に対しても素っ気ない態度を取ることが多くて【インデックス】内でもそのことは有名だけど、FPSプレイヤーとしてのスキル高さと歌い手としての歌唱力の高さから歌枠配信の再生数がすごく高く人気がある。


 逆にその素っ気なさがモエさんの魅力でもあると僕は感じていて、ツイッターで生配信のスケジュールをいつも調べてはリアタイ視聴をして、グッズやパソコンやスマホの壁紙も集めるほどだ。


 そんなある日、僕の心は推し活だけでは満足できないモノへと変わっていることに気づいた。


 とはいえ、僕はそう言った経験がなかったため、自分の求めている答えが出るかは解らないけど、経験がありそうな年長者の意見を聞こうと思い、ある人に相談することにした。


 それは先々週のコラボ配信でのこと、配信が終了してデスクトップの画面に僕のアバターの隣に映っている。その時のコラボ相手の銀髪ショートヘアの青眼のシュッとしたクールな面持ちの茶色を基調としたチェック柄の探偵帽を被った茶色のロングコートを纏った男の人に配信が終了していることを確認したうえで「すみません参歩(さんぽ)さん、聞きたいことがあるんですけどいいですか?」と尋ねた。


 この人の名前は土手川(ひじてがわ) 参歩……【インデックス】の1期生で、Vtuber歴10年以上の大ベテラン配信者で、僕も含めた後輩や新参者を気にかけてくれるいい上司の見本のような人だ。


僕の問いに「どうした? 悩み事か?」と参歩さんは聞き返してきたため、僕は悩みを打ち明けた。


「実は……ある人に恋をしてしまって、この気持ちをどう伝えればいいか解らないんです」


 単刀直入な僕の言葉に参歩さんは「へえ……ちなみに相手はどんな人? インデックスのメンバーだったりする?」と尋ねてきた。


「……言わないですか? 絶対に変って言わないですか?」


 僕の確認するような問いに、参歩さんは「あのなぁ……ただでさえ変人揃いのこの【インデックス】に10年もいるんだぞ? それに今までいろんな奴らを見てきてるんだ。俺からしてみれば変人こそ常人だ。どんな人が好みだなんて言ってきても変だとは言わないよ」と貫禄のある言い回しでそう言ってきた。


 参歩さんの年齢は知らないけど、確かに参歩さんは【インデックス】に入る前までは、僕と同じように社会人として働いていた。


 人生経験の豊富さで言えば【インデックス】のメンバーの中では一番と言っても過言ではないだろう。


 だからこそ、僕は参歩さんに自分の中でずっと悩んでいたことを打ち明けることが出来たのかもしれない。


「実は……同期のモエさんのことが好きなんです」


 この時、僕は心の中で酷く後悔した。


(ああ、言った……ついに言ってしまった……今までノーマルを装ってやってきたのに、百合だの変だのとか絶対言われる)


 しかし、心の中でそんなことを思っていた僕とは裏腹に参歩さんはこう言った。


「ふーん、モエちゃんのことがね……いつから?」


 まるで、普通に恋愛相談に乗るかのように参歩さんは僕にそう尋ねてきた。


「……変じゃないですか? 女の子が女の子を好きになるって」


 僕は参歩さんにそう尋ねると、参歩さんは呆れたような声で「さっきも言ったろ? どんな人か好みだなんて言ってきても変だと言わないって」と言って、続けてこう言った。


「言っておくが。俺が高校生の時なんかレズやホモなんて少数とはいえ、その辺に普通にいたぞ? 実際、俺が執筆してる小説で出てくるそう言った類のモノもそいつらを参考にしていたからな」


 そして、参歩さんは僕にこんなアドバイスをしてきた。


「まあ、最初はコラボ配信からきっかけを作るのがいいんじゃないか? モエちゃんはインドア派だからその方が自然に近づけるだろ」


 しかし、僕はコラボ配信で痛い目を見ているため、そのことを参歩さんに話す。


「僕とモエさんは得意なジャンルのゲームで被っているのが無いので難しいです。この前もFPSのコラボ配信で終始足引っ張っちゃって……」


 そのことを知った参歩さんは「じゃあ、配信の最後にやってる晩酌雑談タイムに凸しに行くのはどうだ? 酒が入っていれば会話も弾むだろ?」と提案してきたものの、その案にも問題があった。


「僕はお酒あまり得意ではないので、すぐに潰れて寝落ちする未来しか見えないです」


 僕は参歩さんにそう言うと、思い出したかのように「ああ、そういえばそうだった……社長とお酒が飲める歳の13期生メンバーと一緒に行った飲み会で真っ先に潰れてたな」とその時のことを口に出す。


 そう、僕はお酒が飲める歳ではあるけど、かなり弱い……どれぐらい弱いかと言うと、まずビールが飲めないし、ハイボールも苦手……ワインだと度数が強くてむせるレベルで、参歩さんが言っていた飲み会でもチューハイを一杯飲んだだけで真っ先に潰れてしまい、その場から自宅が一番近い同期にお持ち帰りされたのだ。


 正直言って、同期の家で目を覚ました時は酷く困惑した……だって飲み会の時の記憶がほとんどないんだもん。


 それでも、そんな僕に参歩さんは「ああ、でも向こうに合わせてお酒を飲む必要もないんじゃないか? 君はジュースを飲みながらお話するというのも手だと思うが……」と提案してきたが、僕は訝しんだ。


「流石にそれだとモエさんがあまりいい気がしないと思うんですけど……」


 僕はそう言うも参歩さんは今まで新参者や後輩たちとのコミュニケーションを疎かにするような人ではないため、こんなことを教えてくれた。


「大丈夫だよ。モエちゃんは良識のある酒飲みだから……お酒が苦手な人に無理に勧めたりはしない」


 そして、それでも僕は気にしていることを察したのか? こんなことを提案してきた。


「そういえば……君はツイッターに自分の手料理の写真をアップするほどの料理上手だったよね? 晩酌雑談タイムに入った時にモエちゃんがよく飲む赤ワインに合う料理の話でもしたらどうかな?」


 更に参歩さんは「もし、直球勝負をする勇気があるならオフコラで肴を作って晩酌雑談配信するのもありだと思うけど?」と提案してきたため、僕は「ちょっと考えてみます……相談に乗ってくれてありがとうございました」と言うと、参歩さんは「まあ、頑張って!」と応援の一言を送ってからこの日はお開きになった。


 それで結局どうしたのかと言うと、僕は勇気を出して直球勝負に出た。モエさんにDMで「ワインに合うおつまみ作るのでオフコラでホラゲー配信しませんか?」と送ったところ、ものの見事に「おk! ちょうど誰かとサシ飲みしようと思ってた」と返って来たため、今はモエさんの自宅で配信の準備をしている。


 そして配信が始まり、既に開始前から赤ワインを一杯飲んでいたモエさんとのオフコラ配信が始まった。


モエル「皆さんこんばんわぁ、今日はアリアとちょっとアダルトに飲みながら配信していくよ」


 開幕早々にモエさんの挨拶で始まり、デスクトップにはホラゲーのスタート画面と右下に僕とモエさんのアバターが映っている。


 モエさんが「ちょっと音量調節するね」と言って調整をしようとしたその時、とんでもないことが起こった。


 酔っていたせいでクリックする場所を間違えたのか? ホラゲーのスタート画面が消え、パソコンのホーム画面が映る。


 僕が驚いたのはそのホーム画面でなんと南国のビーチを背景に水色に白の水玉が付いたビキニ姿の僕が映っている壁紙が使われていたのだ!


 モエさんは「あっ! やっべ!」と言って慌てて画面を戻すも既に遅く。僕は思わず「モエさんどうして限定配布された僕の壁紙使ってるの?」と尋ねると、モエさんは観念したかのように、コメント欄が騒いでるのを他所にぶっちゃけた。


「だって私、アリアのことがラブってレベルの大ファンなんだもん。ボイスとかも沢山持ってるからね?」


 この時、僕は嬉しさのあまりモエさんにこのことを話した。


「そうだったの! 実は僕もモエさんのこと好きでグッズ沢山集めてたんだ」


 ソレを聞いたモエさんは酔っていたせいか? 「じゃあ、いっそのこと……お付き合いしちゃう?」と尋ねてきたため、僕は嬉しさのあまり「……不束者ですが、よろしくお願いします」と照れくささを感じながら答えた。


こうして、僕とモエさんの関係は一歩進めたのだった。

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