第14話 侯爵様が大事な話をしにやってきた
タウンハウスで過ごす事、一ヶ月ちょっと。
人にも環境にも慣れて、私の方は快適に過ごしていた。
あの日以来、困ったお客さんが訪れることはないし、キティも元気いっぱいだから言うことはない。
ただし、今日のメルさんは朝からとてもソワソワしていた。
大切なお客様がお見えになるからだ。
「息災か?アシーナ」
「侯爵様!お会いしたかったです」
玄関ホールで出迎えた、オルドリッジ侯爵家のヨハネス様に、まずはカーテシーをしてから、腰に抱きついていた。
貴婦人がこんな事をしてはみっともないけど、ヨハネス様は特別だ。
「侯爵様ではないだろう」
「はい、おじい様」
頭を撫でてくれたヨハネス様を見上げると、その視線は自慢げな顔でメルさんの方を向いていた。
「お祖父様。ようこそお越しくださいました。僕は貴方の事を心から尊敬していますし、心から愛しています。しかしながら言わせていただきます。それは大人気ないのではないですか」
「どこぞのバカものが、アシーナを王都に連れて行ったと聞いて心配していたんだ。困っていることはないか?」
「はい。みなさん、とてもよくしてくれます」
「そうかそうか。今日は、アシーナに大切な話があって、来たんだ。座って話そうか」
「はい」
ヨハネス様から話があるとは、メルさんから聞いてはいた。
客間に移動すると、私とヨハネス様の分のお茶が用意されて、二人を残してみんな退室していった。
「アシーナ、僕は植物園の方にいるから。また後で」
「はい」
メルさんもすぐに部屋から出て行ったから、どんな話をされるのかと、若干、身構えてはいた。
「まず、アシーナに話さなければならないことは、二十歳の誕生日を迎えた日に、正式に子爵家の財産を受け継げるということだ」
この国では、寄親貴族などの後見人がいれば未成年でも家督を継げるけど、私の生家であるアドニス子爵家は、ヨハネス様が一時的に管理されていた。
貴族社会では15歳で社交界にお披露目となり、16歳から結婚が可能となるが、成人年齢、完全な大人として全ての責任を負う歳は二十歳となっている。
私が二十歳の誕生日を迎えるのは、およそ10ヶ月後。
「そのお金は、アシーナの好きなように使うといい。望むのなら、子爵家をアシーナが継ぐ事もできる」
そこで、疑問が生まれた。
「それは、伯爵夫人でありながら、子爵家の当主になるということですか?」
「今のままなら、アシーナが二十歳を迎えたと同時に、自動的に婚姻関係は解消される」
ヨハネス様の言葉に、はて?と、首を傾げていた。
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