第8話 プレゼント
「アシーナ、入ってもいいか?」
コンコンと扉をノックしたのは、メルキオールさんだ。
夕食の時に、後で部屋に行くと聞いていたのは、ついさっきの事だ。
湯浴みが終わった後にしばらくゆっくりしていると、普通に夕食に呼ばれて、普通にメルキオールさんと二人で食べて、“また後で”とそれぞれ部屋に戻ったばかりだった。
私の方は、キティに晩御飯をあげている最中で、器をキティと決めた定位置に置いたところだ。
「はい、どうぞ」
私の返事を待って入ってきたメルキオールさん……名前が長くてめんどくさくなったから、メルさんでいいか。
で、そのメルさんが部屋に入って来ると、少しだけ視線を彷徨わせていたけど、部屋の端っこでご飯を食べているキティを見て、口元を緩めていた。
それに気付いたら、私もなんだか嬉しくなる。
「プレゼントの事だけど、キティに首輪を用意したから、見てもらえるか?」
「わざわざ用意してくれたのですか?」
「勝手に悪いかなとも思ったが、これをつけていればたいていの所には連れて行けるから」
メルさんが嬉しそうに差し出してきたものを見る。
首輪の真ん中についたプレートにクラム伯爵家の家紋と、キティの名前が刻印されている。
それから、首輪には所々に青く光る石がはめ込まれていた。
何の石かは考えたくない。
「あの、これ……可愛らしいですが、とてもお高いやつでは?」
「キティに似合うと思って。よかったら、後でアシーナがつけてあげてくれ。それから明日にでも僕に見せてもらえるか?」
「はい、メルキオールさんのお望みなら」
キティにつけてあげたら、確かによく似合うだろうけど、いいのかな?
私が勝手に飼っている猫に、ここまでお金をかけてもらっても。
「あと、これはおそろいでアシーナの分も作ったんだ。こっちはブレスレットタイプだから、これももし良かったら、身につけてもらえたら嬉しい。ここに置いておく」
メルさんは私の返事を待たずに、近くにあったテーブルに小箱を置く。
「では、おやすみ。アシーナ、ゆっくり休んでくれ」
「え、あ、はい、メルキオールさんも。おやすみなさい」
これで用事は終わりなのかと、あっさりと部屋から出て行くメルさんの背中を見て、拍子抜けしていた。
エスメさんに言われたことを思ったよりも意識していたようで、自分で自分を笑うしかない。
私達は、夫婦であって、夫婦でない。
「あ……お礼を言うの忘れてた……」
いつの間にかご飯を終えたキティが、ベッドの上で丸くなっている。
「私も、もう寝よ……おやすみ、キティ」
キティに声をかけると、私もすぐにフカフカのベッドに横になって、夢の世界へと旅立っていた。
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