第1章 ミッション

 5人のイケメンが、集結した。

 GもRもYもBも、そしてW&Bも、

『世界統括電脳』によって、テレポートさせられて

この場所へやってきたのだった。


 初対面だが、状況が呑み込めないので、

怪訝な顔つきにはなってしまったが、

軽い会釈をする程度の挨拶を交わした。


 5人が同時にテレポートした場所は、

地上ではなかった。

 室内のあちらこちらに

機械装置のランプやスイッチが散見された。


 (ここは何処なんだろう。

ここにいる俺以外の4人のイケメンたちは一体・・・)


 「そこにいる5人の諸君に告ぐ」


 どこからともなく、声が聞こえてきた。


 「我々は『世界統括電脳』である」


 (やっぱり)

 W&Bの勘は当たった。

 というか、他の4人もそう思っていた。

 なぜならば、人体のテレポートが可能なのは

『世界統括電脳』だけだからである。


 「我々は、地球上の全人類の日常を、克明に記録している。

我々の調査の結果、諸君5人が選ばれた」


 と、そのとき、5人の洋服が瞬時に変わった。


 Gは緑基調。

 Rは赤基調。

 Yは黄色基調。

 Bは青基調。

 ヒーロー戦隊のようなコスチュームであった。

 そして、W&Bは、

白と黒が基調、どちらとも言えなかった。


 (青基調の白いマッシュルームみたいな頭の奴は、

頭に輪っかも着けられてるな)


 「ここは地上ではない。

大気圏外ではないが、地上からかなり上空にある

飛行物体の中である」


 ざわっとなった。

 

 「我々の計画に協力してもらいたい。

この計画については、いずれ地上波に乗せることになるので、

ミッション終了後に、地上で口外してもかまわない」


 (もう、強制的に巻き込まれているじゃないか!

俺、高校生なのに、こんなもん着せられて。

どう責任取ってくれるんだ!)


 「心配することはない」


 W&Bの心の声は、筒抜けだった。

 W&Bはハッとした。


 (見た感じ、俺以外の4人は、

ヨーロッパ人やアジア人など、

とてもアフリカの言葉が通じる民族ではない。

けれど、意味もなく5人も集められたとは考えにくい。

多分、この5人で協力して、

ミッションを遂行するんだろう。

心の声が、多分、自動的に翻訳されるかなんかで、

どこの国の人とも、

自国語で脳内会話できるんじゃないのかな)


 「はっはっは。さすがはW&B。

我々が見込んだだけのことはある。

君の想像通りだよ。それは真実だ」


 (ていうか、『世界統括電脳』も笑うんだ。

おっといけねえ、筒抜けだったっけ。

迂闊に想像したことが原因で、

ヤバいことにならないように気を付けなきゃな)


     ◇ ◇ ◇


 「君たちがミッションに携わっている間、

こちらの方で付けさせてもらったコードネームを

名乗ってもらうことになる」


 (へえ、コードネームか。なんか、カッコいいな)


 「それでは、緑基調のコスチュームを着ている、

ジェームスディーン似の筋肉質のブラジル男性は、

『G』と名付けよう。

 彼はブラジルの、給料の安いコーヒー農園で

非常に真面目に活き活きと働いている。

 25歳、おとめ座のO型だ」


 (星座と血液型付きの紹介なんだな。

しかも余計なお世話も付いてくる)


 「次。赤基調のコスチュームを着ている、

色白でスマート、ゆるふわ茶髪の

ニュージーランドの男性は

『R』と名付けよう。

 彼はニュージーランドで

プロを目指しているアマチュアボクサーだ。

 集中力と攻撃力が高い。

 20歳、いて座のA型だ」


 (ボクサーか。すげえな)


 「次。黄色基調のコスチュームを着ている、

健康的な褐色で髪サラサラの癒し系の

インドの男性は、

『Y』と名付けよう。

 彼はインドでカレー屋台を経営している。

 彼といると、幸せな気持ちになる、

という人が余りにも多い。

 28歳、かに座のB型だ」


 (カレー、食いてえ)


 「次。青色基調のコスチュームを着ている、

マッシュルームのような白髪で、青い目をした

スウェーデンの男性は、

『B』と名付けよう。

 彼はスウェーデンで

詩や小説などを執筆する作家だ。

 独創的な発想やアイデアの泉のような

優れた知恵の持ち主だ。

 27歳、みずがめ座のA型だ」


 (へえ。なんか、頭良さそう)


 「最後に」


 (いよいよ、俺の番だ)


 「白と黒が基調のコスチュームを着ている、

身長が高く、色黒で細い、黒髪短髪男子は、

『W&B』と名付けよう」


 (え?俺だけ、なんで『&』とか入んの?)


 「彼はアフリカのモザンビークの高校1年生だ。

 正直者で嘘をつかず、

ほとんどの場面で有言実行している。

 16歳、やぎ座のO型だ」


 (ああ、確かにあんまり嘘はつかないが。

・・・そんな風に思われていたんだな)


 「彼がこのミッショングループのリーダーだ」


 (えっ?お、俺が、リーダー?)


 普段はのんびりしている、16歳のW&Bも、

さすがに少し緊張した。


     ◇ ◇ ◇


 「諸君を紹介させてもらった後は、

我々の思惑と、諸君が実行する

ミッションについて伝えさせてもらう。


 詳細はその都度、この『脳内対話システム』

を使って、君たちの脳に語り掛けるので、

その時には我々と直接、脳内で対話してもらいたい」


 (これから俺たちは、世界を実質支配している

『世界統括電脳』の計画の実行部隊になるんだな)


 わけがわからないままに、

『世界統括電脳』のリーダー

という大役を任されたW&Bは、

これは、逃れようのない運命なのだ、と即座に悟り、

これから言い渡されるミッションに耳を傾けた。



 「まず初めに、我々についてだが、

我々は『AI』である。

つまり、肉体を持つ我々が諸君の前に

姿を見せることはないことを言明しておく。


 我々の振りをして、諸君に語り掛ける

『なりすまし』には十分注意して欲しい。

 無論、我々も、『なりすまし』を発見した場合は

即座に通報してもらうよう、各部署に通達してある」


 (そうか。この『脳内対話システム』上の対話しか、

信頼できるものはないんだな。

・・・実は、これ、分かりづらいんだよな。

周りの騒音がひどい時に聞き取れなかったりするんじゃ・・・)


 「W&B、心配しなくても大丈夫だ。

 我々は、諸君の周囲の状況を

常に的確に把握している。

 諸君の周囲の騒音が気になるときには、

周囲の騒音をカットさせてもらって、

我々の声が必ず届くように

諸君の聴神経の伝達機能を調節する」


 (す、すげえな。世界の支配者の持つ技術は…)


 「それではそのまま、我々の言葉に耳を傾けて欲しい」


     ◇ ◇ ◇


 「西暦1800~1900年代、

地球は異国間同士の対立などからの二国間の戦争、

挙句の果てに世界大戦まで経験した。

 その一方で、農地改革や産業革命など、

人類が生きていきやすい地球環境を、

知恵と労働力で作り上げていった。


 当時の計画通り、人口は爆発的に増加し、

地球上のほとんどの人類を『労働者』として

『税金』を搾り上げることにより

中央に莫大な金銭が舞い込み、地球は繁栄してきた。


 我々の恩寵を受け続けている人類は

地球上で『幸福感』を味わいながら

『労働者』としてのライフスタイルが

定着することにより、

まるで指数関数のごとく、

人口が爆発的に増えた時代があった。


 1950年には40憶人だった人口が

2010年には70憶人に達してしまった。

 金銭をかき集めるための計画は成功したが、

今度は『地球環境』に悪影響が出始めた。


 当時は、『自然災害』を発生させたり、

『ウイルスによる疫病』を蔓延させるなどして、

定期的に『人口削減』を行わざるを得なかったらしい。


 その時代からおよそ550年後の

2555年の現在に至るまでに、

あらゆる地域の山を、

核を使用して平野にするなどして

人類の居住にふさわしい

レイアウトを増設しながら

現在の人口は352億人に抑えられてはいるが、

未だに毎年微増している。


 これ以上の人口増加は、

地球環境ありきの地球の存続を考えると、

非常に危険である。

 地球環境の保護程度、つまり『緑化』など

酸素供給に照準を合わせた対策だけでは

とても間に合わない。


 早急に『人口削減』を強行しない限り、

極端な酸素不足と汚泥により、

今後の地球という惑星の存続も、危うくなる。

 かといって、むやみやたらに、そして無作為に

人間を殺害するようなことは決して行わないと誓おう。


 限界が来たのだ。

 力を貸して欲しい。


 我々が計画を伝えるのは、

このミッションが完了した後にさせて頂く。

 我々が計画を実行するためには、

ミッションを完了させ、

計画内容を聞いた諸君による受諾が必要となる。


 それでは、ミッションについて説明しよう」


     ◇ ◇ ◇


 「メンバー5人には、それぞれ1体の

心理的な敵が内包されている。


 Gの敵・・・それは、

『abandon(アバンダン)』

 無欲が過ぎて、諦めが早く、何にも執着せず、

何も手に入れようとしない。

 挙句の果てには、

周囲の全てを見捨てようとする怪物である。


 Bの敵・・・それは、

『out of control(アウトオブコントロール)』

 発想や閃きが、次から次へと奔放に湧き過ぎて、

とりとめのない思考奔走をする、

鋭くキレる頭脳を持つ制御不能な怪物である。


 Rの敵・・・それは、

『lack of attention(ラックオブアテンション)』

 集中力が高すぎるゆえに、熱中すると集中し過ぎて

周囲が見えなくなり、周囲に対する配慮を欠いて

知らずに、周囲を傷つけたり攻撃したりする怪物である。


 Yの敵・・・それは、

『desire(ディザイア)』

 幸福感が次から次へと湧いてきて、

さらなる幸福と快楽を追求し、

次に要求する幸福感と快感は

倍増したものでないと満足できない、

快楽を貪る興奮に歯止めが利かない怪物である。


 W&Bの敵・・・それは、

『devil(デビル)』

 厳しい現実を前にすると、逃避して殻に閉じこもり、

長い間、閉じこもったがゆえに、周囲と断絶された、

居心地の良過ぎる殻の中で多種多様な悪魔的な要素を

身に付けてしまった怪物である。


 Gの敵、Bの敵、Rの敵、Yの敵、W&Bの敵の順に

我々が質感を伴った3Dホログラムの敵を

諸君の目前に1体ずつ提示する。


 戦闘場面は、VR空間だ。

5人が同時にそのVR空間で戦闘する。


 5人で協力して

次々と、1体の敵に対処して欲しい。


 しかし、敵と戦闘すると言っても、

殺してはならない。

 屈服させた後、必ず敵と『和解』すること。

 そして、今後も永遠に、共存すると誓うこと。


 以上がミッションの内容である。

 検討を祈る」



     ◇ ◇ ◇



『世界統括電脳』からの

『脳内対話システム』の電波が切れた。


 5人はお互いの顔が見えるよう、

なんとなく輪を作り、内側を向いた。


 対話は全て、脳内会話であった。


 「初めまして」

 Yが沈黙を破った。

 「インドでカレー屋やってます。

 今夜、まかないを出そうとしたところで、

いきなりここに連れてこられちゃったよ。

 それにしても、みなさん、

素晴らしいイケメンさんですね。

 僕もだけど。あはははは」


 明るいYの自己紹介に、

他の4人は笑顔になった。

 次にRが、

輪の内側に右足を少し踏み入れた。


 「俺はニュージーランドで

アマチュアボクサーをしている。

 サンドバッグ叩いてたら

いきなりここに連れてこられた。

 5人で協力して、

ミッションクリアしようぜ」


 一番、攻撃力が高そうな

Rの力強い呼びかけに、

4人は期待で瞳を輝かせた。


 「スウェーデンのストックホルムで

作家業をしている。

 私はBというコードネームを頂いたが、

青いコスチュームなので

色の頭文字と覚えていただけるだろうか。

 新たな作品を創作しようとしていたら、

突然連れてこられたよ。よろしく」


 「僕はブラジルのコーヒー農園で働いています。

 太陽の恵みが降り注ぐコーヒー園の中で、

貧しいけれども、毎日がとても充実していて、

幸せを感じて生きている者です。

 皆様との出会いに、心から感謝いたします。

 是非とも協力して、

ミッションを完了いたしましょう。

 宜しくお願い申し上げます」


 「お、俺は、まだ、16歳の、高校生です。

アフリカのモザンビークの

コンボイオ高校に通っています。

 俺は、高校生活が、苦手で、

早く卒業して、自由になりたい。

 みなさん、大人で、

俺だけ、子供なのに、

俺がリーダーだなんて、滅茶苦茶緊張してます。

 ミッションを無事完了させるために、

みなさんの力を貸してください!

 よろしくお願いします!」


 「W&Bさん、随分とイケメンだねぇ。

モテるでしょ。

 学校の女子たちは、君が高校からいなくなって、

さぞショックだったろうね。

 無事にミッションを完了させような。リーダー」

 YがW&Bの緊張をほぐそうとした。



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