死神派遣会社チューリップ ~あなたの愛する人を、殺させてください~

庭月穂稀

第一章 母胎岩像

第0話 0.2% に残った地獄


*この第0話には残酷な描写が含まれております。災害や残酷な描写が苦手な方、読んで少しでも体調が悪くなった方は読むのをやめてください。


*この話を読み飛ばしても、物語の進行には支障ありません。第1話から読んでいただいても十分楽しんでいただけると思います。


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 ドゴゴゴゴゴゴgゴゴゴggゴgゴgggggっごおおおおおおおおおお



 経験したことの無い、何もかもが壊れていくような音がする。


 同時に、平衡感覚も、視界も、痛みも、何もかもがごちゃ混ぜになるような振動が地下を駆け巡る。


「うわあああああああああああ!?」

[きゃああ,あああ、ああああ」

「ああああaaaaaaaooooo-]


 地震か、爆弾か、それ以外か、何が起こっているのかさっぱりわからない。


 ただ、響く悲鳴と轟く爆発音で耳の内側から心を引き裂かれていく。


 地下鉄のホームの電灯は全て消え、暗闇が視界に広がる。



 死ぬ。



 本能的に頭に両手を乗せながら、その単語だけが辛うじて理性的に発せられる。


 そして、理性の外で、心の中から一番大切な人が滲み出る。


「………めいッ!!」


 何よりも大切な、最愛の娘の笑顔を幻視して、最後かもしれない名前を叫ぶ。


 それを最後に私の意識はプツリと途切れた。














「―――っ」


 わたしは目をさます。


 あたりは暗い。


 ふらふらする足でゆっくり歩き出す。


 どんと、何かにぶつかって転んでしまった。


「…えっ?」


 私がつまずいたのは横たわっていた人間だった。


 私にけられたというのに、起き上がるそぶりはない。



 しんでる?



「い、いやぁッ!」


 私はそこから逃げ出す。


 ホームの階段にたどり着くまで何回もナニカにぶつかるが、それをたしかめることはしない。


 ただただ、この場所から離れたかった。


 必死に階段を上ると、上から白飛びした光が差し込んでいる。


 ようやく、ここから出れる。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 全身からは冷たい汗が噴き出して、息は絶え絶えになり喉がひりついている。


「ぅ!?」


 出た瞬間、とんでもない異臭に鼻を摘まむ。


 生ごみのような、鉄のような、埃のような。あと数秒吸い込んだら吐いていたのではないかと思うほどの、異臭。


 強烈な光と異臭に五感が奪われる。


 白ずんだ視界がようやく戻ってくる。


 戻ってくるが、視界には何も映らない。


「……?」


 いや、映っている。


 のっぺりと広く、薄暗い灰色の空と、それより濃い、黒、白、灰、茶、赤、緑。複数の色が混ざり合った泥色の地面。


 その二色だけが地平線を境に広がっている。


 それだけ。



 なに?


 完全に視界を取り戻して周囲を見渡すが、何もかもなくなっている。


 毎日利用していたバス停も、影を作っていた大きなビルも、家も、車も、木も草も。


 ひとも。


 すべて、消え去っている。


 遠くに人影が見える。


 ぽつりと揺らめくそれは煙のようだ。


 私と同じ生きた人だろうか。


 それすらも怪しい。



 …めい?


 いつもの癖であの子はいま何をしているのか考える。


 この時間なら、学校に…


 このじかん?がっこう?


 なにもないのだ。


 なにも。


 ………



「めいっ!?」


 私はとっさに走り出していた。


 もはや道もなく、建物もなく、影もない。


 そんな、ただの地を、記憶にすがって走る。



「はぁ、はぁ、、はぁっ、はぁ」


 息が吸えない。


 心臓がうるさい。


 めがあつい。


 からだが、つめたい。


 あたまが、こころ、が、やける。



 私は走った。走って、走って、走る。


 どこまでいっても、どこまでいったのか、どこなのか、わからない。


 それでも、めいがいるはずのところに、私たちの家に。


 今朝の寝ぼけためいの顔が、いってらっしゃいが。


 だいすきな、えがおが。


「めいっ、めい、めぃ………」




 分かっている。誰もいないことも、何もないことも。


「ぃ、い、ぃわ、あ、ああああああ、ああああああ”ああああ”ああ”ああ”あ”あ”あ”」


 めいが、死んでいることも。


「いやああああああああああああああああああああ」




 数時間前まで日常があった場所には


 ただ、絶望だけが残り


 地獄が蔓延っていた





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