片羽の鳳凰は青藍の空を恋う
相原罫
序
「寝ていなければ駄目だと、医師に言われたのであろう?」
「少しでも多くこの子に聞いておいて欲しくて。
私にはこれくらいしか、教えてあげられるものがありませんから」
白く細い手が
まだ柔らかい髪に結ばれた赤い飾り紐は、その子がまだ
「可哀想に。泣き疲れて眠ってしまいました」
我が子を愛おしげにあやす彼女自身泣きそうな顔をしていて、居た堪れなさに手を伸ばす。
触れた頰は、数年前に比べて随分
「まだ熱があるではないか」
「ええ。だからあまりお近付きにならないでください。うつしてしまったら困ります。この子にもそう言っているのですが、聞かなくて」
幼子は眠りの中にありながら、母の手をぎゅっと握って離さない。
我が子を見詰めて込み上げてくる感情は、何度改めたところで、当たり前の親のそれでしかない。
だからこそ、決めたことを口にするのが苦しかった。
「……この子が七つの歳を迎えたら、神の
「それは、」
顔を青くして腰を浮かせた彼女を
「
彼女は推し量るようにこちらを見詰めた後、
「……それが良いのかもしれませんね」
と囁くような声で答えた。
本当は誰より、自分自身が良いとは思っていない提案である。
叶うことなら、彼女も、我が子も、この腕の中にいつまでも置いておきたい。
そう願うのは当然ではないか。
「そうすれば、私が神の御許へ還っても、ずっと側にいられますものね」
その時をそう遠からずのこととして語る彼女の微笑みに、堪らなくなって細い肩を抱き寄せた。
掛け布団の上に突っ伏した幼子がむずがって声を上げたので、親たちは慌てて体を離す。
父母の願いを知る由もなく、幼子は眠り続けていた。
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