新入社員

亮の職場、DUN製薬の営業部では

朝から女子社員が噂をしていて

落ち着きが無かった。

「今から新入社員が入ってくるわよ」

女子社員たちが騒ぎ始めた。

営業3課には三人の男が配属され

窓際に三人が並び挨拶をした。


「松平亮です」

「大橋純一です」

「木村悟です」

三人が挨拶を終えると課長の渡辺が三人の肩を叩いた。

「当社は、営業部の中に3つの課があり我が

営業3課は主に病院に新薬を営業する課だ」


「あのう、普通の薬局への営業は無いんですか?」

亮は手を上げて渡辺に聞いた。

「市販薬の薬局への営業は子会社の

DUN薬品販売が営業をしている、

早速三人には先輩に付いて医療用の新薬、

新製品を営業してもらう。

とても大事なポジションだ。三人ともよろしく頼むよ」


「宜しくお願いいたします」

亮が顔を上げて回りを見渡すとその中に、

一際目立つ美人大原智子がいた。


翌日、池袋近くにあるダイニングで歓迎会をすると、

亮はほとんど誰とも話をせず同僚の大橋、

木村の脇にいた。

そこに、大原智子がビールを注ぎに来た。


「松平さん27歳なんですね。私24歳。ええと」

智子は指を折った。

「日本の薬学部6年アメリカで4年です」

「そうか・・・」

「アメリカのどこ?」

智子は体を乗り出した。


「アメリカのボストンです」

「ええとボストンって何があったっけ?」

日本にあまりなじみがない東海岸の

ボストンを智子はあまり知らなかった


「ええと大学とレッドソックス。とても

古くて静かでいい街です。ただとても寒いですよ」

「大学ってどんな大学があるの?」

「ラバー大学、ボストン大学、

マサチューセッツ大学、マサチューセッツ工科大学、

ハーバード大学、ハーバード・ビジネス・スクール、

エマーソン大学、ボストン音楽院、

タフツ大学など約40校、人口65万人の都市に

学生が25万人住んでいます」


「わあすごい。それで何の勉強をして来たの?」

「経済学です」

「薬学部を出て経済学?」

智子の頭の中では経済学と薬学部はつながらず

首を傾げた。


「それでどうしてうちに入社したの?」

智子は亮が何を言っているか理解できなかった。

「でも営業より研究室向きね」

「ええまあ」

亮に興味がある智子は色々な質問をした。


「ねえ、家は何処?」

「目白です」

「近いわね。私は練馬よ。目白のどこ?」

「目白駅を降りて目白通りを渡った

住宅街のテニスコートの近くです」

「テニスやるの?」

「時々やります」

「社員旅行へ行ったらやろうよ」

亮に興味がある智子は遠回りに亮を誘った。


「今日これからどうするの?」

「9時には帰ります」

「そうなんだ・・・」

智子は詰まらなそうに木村と大橋のところへ行き、

結局亮はお開きの9時に帰って行った。


~~~~~

亮たちの最初の仕事は病院周りの営業で、

事務局へ行きアポを取って担当医

と会える時間が来るまで看護師が

歩く姿を観て色々な想いをめぐらしていた。


「看護師さんはふくらはぎが太い人が多い。

うっ血のせいか?

立ち仕事のせいで老廃物が溜まっているのか・・・」

亮は看護師たちの為の着圧

ソックスとマッサージを考えていた。


「毎日ご苦労様」

毎日来る亮に背が高くショートボブの

美人の看護師が声をかけてきた。

「こんにちは」

亮は立ち上がって看護師に挨拶をした。

「営業うまく行っている?」

看護師は親しげに話しかけた。


「なかなか新薬は取引してくれませんね」

「そう、何か知りたいことがあったら

聞いてね。私内科の池田直子」

直子は胸を突き出し胸章を見せた。

「ありがとうございます」

亮は立ち上がり深々と頭を下げた。


~~~~~~

会社に戻った亮に大橋純一が声をかけた。

「松平さん、営業上手くいっています?」

「いいえ」

年上の亮に大橋が静かに聞くと亮は首を横に振った。

「たまには飲みに行きませんか?木村も一緒に」

「ええ」

亮は乗り気じゃなかった。


「良いじゃないですか、

どこを営業したか情報交換もあるし」

亮はそう言われるとうなずいた。

大橋は木村を誘うと三人は高田馬場の

鶏料理店「勝」に入りビールで乾杯をした。


「今日、取引が成立しました。これで5軒目」

ビールを飲み干すと大橋が嬉しそうに話をした。

「おおお」

木村は手を叩いた。

「木村君は?」

「3軒だよ。街のクリニック

ばかりだけどね。大橋君すごいね」


「父がちょっと手を貸してくれたんだよね」

四菱銀行の取締役の息子大橋は自慢げに答えた。

「松平さんはどうですか?」

「松平でいいですよ。

年上でも同期ですから。それが病院の

先生が中々話を聞いてくれなくて・・・」


亮は同僚に松平さんと呼ばれるのは

くすぐったく首を横に振った。

「病院にコネ無いんですか?1件くらい」

大橋はアメリカ留学していた

亮はもっと知り合いが多いと思っていた。


「とりあえず、早く二人に

追いつくように頑張ってみます」

大橋は「頑張ります」

しか言わない亮に少し腹が立った。


「話は変わるけど大原先輩、いい女だよな」

大橋は木村と亮に顔を近づけ小さな声で言った。

「うんうん、あの長くて綺麗な足がたまらない」

木村がニヤニヤと笑った。


「この前の二次会、脇に座って大原さんの

太腿を触っても何も言わなかった。

今度はできそうな気がする」


「本当か?」

木村は女馴れしている

大橋がうらやましかった。

「大原さん、あんなに美人なのに

付き合っている男性いないんですかね?」

亮は気になっている大原の情報を聞いた。


概して調子のいい奴ほど裏情報に

詳しいものだと亮はわかっていた。

「どこかの金持ちイケメンと付き

合っていて、社内の男には興味が無いという噂さ」

「なるほど」

亮は大橋の言っていた事に納得した。


「俺、絶対大原さんを落として見せるからな」

大橋はそう言って大原が自分の下に

なってあえぐ姿を想像していた。

「大橋君、会社一の美人を金持ちの

イケメンと取り合うんですか?しかも年上を」


木村は大橋には大原を口説き

落とすのは到底無理だとわかっていた。

「大丈夫さ俺に抱かれたら女は

イチコロだよ。このデカマラとテクニックで」

木村は大橋の自慢話を聞くのが

嫌になってオドオドと亮に聞いた。


「ところで松平・・・

君って彼女いるんですか?」

「まあ一応」

亮は絵里子とアメリカの女性たちの

事を頭に浮かべて微笑んだ。

「当然ですよね、相手はブロンド?巨乳?」

「身長が173cm、髪はブラウン、巨乳」

「顔は?」


「キーラ・ナイトレイ似」

「嘘でしょう、パイレーツ・オブ・カリビアンの

彼女が巨乳だったら凄いですよ」

木村は身長はともかく顔はそんなに

似ているとは思っていなかった。


亮は仕方なしにスマフォの写真を見せた。

「ああ、なんて事だ」

写真は本人だけじゃなくて亮と

一緒の写真も写っていた。

「これ誰ですか?」

次のページの写真を見た木村が指を指した。


「パティです」

「これは?」

「白石尚子さん」

「白石尚子って・・・あのアイドル?」

「はい、みんなには内緒にしてください、

後でお礼します」

「わ、わかりました」


木村は髪を7、3に分けて黒ぶちメガネをかけていて

堅物そうな亮がそれなりの格好をすれば

もっと女性にもてるんじゃないかと思っていた。


「さて男同士じゃつまらないな、女の子を呼ぼう。

後輩が目白のテニスコートで練習をしているはずだ」

早大卒の大橋は人付き合いの

苦手そうな亮をからかうつもりで

テニス同好会の後輩を呼び出した。


「先輩、ご無沙汰しています」

しばらくして女性が三人やって来た。

「早かったね、関根さん」

「すみません、今から飲みに行こうと

馬場駅に向かって歩いていたんですよ」

大橋は10分足らずで女性が三人も

集まるとは思わなかった。


「紹介します。俺の同期の木村君と松平君です」

女性三人を木村と松平を紹介した。

「梅宮葵です」

「小畑加奈です」

「関根麻理恵です」

大橋と関根は深い関係であるらしく何も

言わずに麻理恵は大橋の脇に座った。


「三人とも今年3年生で来年は就活だね」

「はい」

大橋の話に一瞬だが三人の顔が曇った。

「やっぱり心配だよね、就活」

木村は三人に気遣った。

「インターンシップは参加した方が良いぞ。

上手くやれば早めに内定が取れる。

 特に外資系は絶対だな」

大橋は先輩面して偉そうに言っていた。


「そうですか、頑張ります」

就職話が終わると葵は亮に比べ

若く見え親しみやすそうな

木村に話しかけた。

「木村さんは出身どちらですか?」

「名古屋、白石区です」

「わあ、私岡崎です」

葵が言うと木村が答えた。


「おお、岡崎はおじさんが住んでるよ」

「本当!」

木村と葵が手を握り合った。


「ええと、松平さんの出身は?」

加奈は仕方なしに亮に質問した。

「東京の目白です」

「近いですね私は落合です」

その先、話の展開が無く亮が黙ったままでいると

加奈は話題を作ろうともう一度亮に話かけた。

「私テニス同好会なんですけど、

松平さんはテニスできますか?」

「ええ、やりますよ。普通に」

「本当ですか?」

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