婚約と移民

第43話 紋章を通行証代わりに貰うのは裏がある

 次の日。


 宿屋の従業員に挨拶をすると、みんなさんからお肉ご馳走になりましたと全員総出で送ってくれた。


 全従業員が総出で送ってくれるなんて、王様くらいしかなかったと噂が聞こえるが、気にしない。


 宿屋を後にした僕達は、エイミーさんと一緒に子爵邸を訪れる。


「子爵様。今日でカートース街を出ようと思います」


「そうか。では以前依頼した分の報酬も払わないとな」


「いえ! そのお金で孤児員の子供達の生活をより良くして貰いたいんです。それとこの街に母子家庭で過ごしている人達も支援して貰いたいです」


「母子家庭?」


「ええ。この街に来る前に母子家庭で子供が沢山の家族がいました。そういう方への支援もお願いします」


「うむ。分かつた。必ずやそういう民達も助けると約束しよう――――と言いたい所だが、その件かは分からないが、一つお願いがあったのだ」


「お願いですか?」


「ああ。ホロくんはこれから西に向かうと言っていたね?」


「そうですね」


 カートース街の西に向かうと、いくつかの町を通って王都に着く。


 目標とかはないけど、王都に観光に行く予定だ。


「その途中でエイミーと一緒にとある集団を宥めて・・・欲しいのだ」


「とある集団?」


「ああ。ここから西に向かうと丘の上に、大昔戦時中に建てた砦があるんだが、そこを占拠した集団がいてな。武力で排除してもいいが、もしかしたらそこを占拠しているのが、ホロくんが言っていた母子家庭のような民かも知れないのだ」


「彼らはどうしてそこに?」


「…………彼らは貴族の圧政から逃げて来た民達なのだ。この街に来たのは良いが、わしの説得に応じなくてな。ホロくんなら彼らを説得出来るんじゃないかなと、お願いしたかったのじゃ」


 貴族の圧政か……。


「その貴族ってどこの貴族ですか?」


「ここから南に向かったの者達だ」


「違う国の民……」


「そうだ。我が国より南にあるアングラ王国からの移民なのじゃ」


 移民という言葉を聞いて、前世を思い出す。


 僕が住んでいた国は平和で移民とは遠い世界の話であった。


 それでも時折ニュースを目にするくらいには移民の問題は多かった。


 こんな世界だからこそ、住む場所を失くして移民となる者も多いだろう。


「分かりました。どの道、通る道ですからエイミーさんには色々お世話になりましたから、手伝える事なら手伝います」


「ありがたい。ではエイミーを宜しく頼む」


「はい」


 あれ?


 エイミーさん何で顔を赤らめるの?


「ホロ様。少し準備をして来ますわ」


 準備?


「あ、エリーさんも連れて行きますわ!」


 エイミーさんが妹を連れて部屋を後にする。


「ホロくん。これを預けておこう」


「これは?」


「困った時に使うといい」


 子爵様から渡されたのは子爵家の紋章だった。


「それを見せれば、王国内なら大抵の場所は通れるはずだよ」


「ありがとうございます!」


「それがあれば、通行証代わりとなるから、関税も必要ないし、スムーズに入れるはずじゃ」


 良いアイテムを手に入れた気がする!


 少しして、エイミーさん達が帰って来たが、あまり変わった感じはしない。


 まあ、女性は身支度に時間が掛かるものだからな。



 子爵様にも挨拶を交わし、グノーくん馬車に乗り込んで街を後にする。


「ホロ様の精霊様馬車はとても快適ですわ」


 普通の馬車は揺れも多いからな。


 うちのグノーくん馬車は殆ど揺れない。


 常にグノーくんが気を使ってくれるからだ。


「うちの召喚獣達が頑張ってくれてますから。本当に優しくて助かってますよ」


「ふふふっ。ホロ様のようですわ。それはそうと、ホロ様?」


「はい?」


「お父様から何か受け取りませんでしたか?」


「あ~、子爵様からストーク家の紋章を貰ったんです」


「お兄ちゃん!?」


「うふふふふ♪」


 え? なになに?


 驚く妹と満面の笑みを浮かべるエイミーさんに不安を覚えてしまう。


「お兄ちゃん……それで本当に良かったの?」


「え? 通行証代わりになるからって渡されたけど?」


「…………」


「?」


「お兄ちゃん? その紋章受けるのって――――――婚約を結ぶって意味だよ?」


 …………。


 …………。


「ええええ!?」


「はぁ……」


 思わず、紋章を投げそうになった。


 妹が目を光らせて、ハリセンを取り出して僕を睨まなければ、馬車の窓の外に投げた自信がある。




「お兄ちゃん? 一度受けた婚約を勝手に破棄するのは、エイミーさんにあまりにも失礼だよ?」


 だ、だって……。


 婚約だと知らなかったし……。


 エイミーさんは目がハートになって、声にならない声をあげているし。


 はぁ…………。




 ベシッ!


 いや、今叩かれるのは変でしょう!


「あっ。間違えて手が伸びてしまった」

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