第10話 何やら怪しい雰囲気を感じる

 ◆男爵館◆


「なるほど……この男がお嬢様を狙った輩という事ですね?」


「はっ! 既に尋問しております」


 既にボロボロになって、魂が飛んでいる男は、「私がやりました…………」と繰り返し言い放っていた。


「分かりました。この男の身柄はわたくしが預かりましょう」


「はっ!」


 ライノは子爵令嬢と一緒に来た執事に男を渡した。


「男爵様とお嬢様にはわたくしから報告しておきますので、この事は他言無用でお願いします」


「はっ!」


 ライノは挨拶を終え、外に出た。


「…………ちっ」


 次の瞬間。


 捕まった男がブルッと震えると、その場で倒れ込んだ。


 執事は冷たくなっていく男を見下ろして、右手に持った大きな針を仕舞う。


「……まったく、男爵もこんな事で失敗するなんて、使えませんね」


 執事の空しい声が響き渡った。




 ◇




 本日は屋敷で舞踏会が開かれる。


 何となく、黒い気配を感じるので、僕は舞踏会に潜りこむ事を決めた。


 【ネズミワールド】で。


 初心者の森の奥に【ネズミワールド】のブラックホールを設置すると、絶え間なくネズミが溢れ出る。


 あまりに溢れると前回のように噂になるので、必要な五百体は屋敷に、それ以上出てくるネズミは近くのモンスターに突撃させる。


 攻撃力は皆無なので、モンスターに一方的に踏まれて消えるはずだ。


 僕は妹と一緒に家で待機する。


 二画面プレイ出来るから常に妹に状況を説明しながら、監視出来る。


 ただ、すぐに飛んで行くとなると無理なので、その時はウルフくんに乗って行こうと思う。


 念の為、召喚獣達は一度撤退して貰っている。


 いつでも召喚出来るけど、念には念だ。


 あれだあれ、イベント時、特殊な結界が張られて召喚出来なくなるのが一番怖い。


 精霊達は召喚して待機、イーグルくんとフクロウくんも屋根の上で待機して貰っている。


 ネズミ達に指示を出すと、屋敷のあらゆる場所に入り込む。


 一階が受付で、二階の広間で舞踏会。


 三階は部屋が沢山あって、男爵の生活スペースや、今日参加した貴族達の泊まる場所になっている。


 それと、珍しく地下があった。


 地下は何となく暗くてジメジメしている。


 怪しい雰囲気しか感じないので、早速ネズミを潜らせて視界を共有していく。


 その時、視界に入った人にとても見覚えがあった。


 どうしてこんな場所に、子爵令嬢の執事が?


「誰だ!」


 執事がネズミに気付き、短剣を投げる。


 凄まじい速度で投げられたナイフにネズミが一瞬で消える。


「消えた……?」


 残念。


 実は天井にもう二匹潜らせているので、やられても見れるんだよな。


「…………男爵」


「ど、どうした?」


「誰か我々を嗅ぎ回っております。あのネズミは恐らく――――召喚獣でしょう」


「召喚獣!?」


「はい。【中級軍団召喚】に【ネズミワールド】というスキルがあります。そのスキルのネズミにそっくりでした。恐らく屋敷全体に潜らせているでしょう。地下も見つかっている可能性があります」


「な、なんじゃと! ど、ど、どうするのだ!?」


「ここは急いで事を進めた方がいいでしょう」


「分かった!」


 男爵は奥に進み、如何にも怪しい壺に向かって祈りを捧げる。


 禍々しい気配が立ち上る。


「よし! これでいいか!?」


「はい。これであれ・・がこの町を襲撃するのも時間の問題でしょう。後はネズミを送った者と、この町が全滅するのを待つだけです」


「わ、分かった! そ、それはそうと、子爵令嬢は貰えるんだろうな!?」


「もちろんです。これからお嬢様をこちらに連れて参ります」


「くふふ、よしよし……」


 何というゲスい表情を見せる男爵は欲望丸出しだ。


 どうやら、執事も子爵令嬢に恨みでもあるのだろうか。


 それはともかく、ここに何かが来ることは決まったね。


 ネズミ達!


 これから四方八方に散って、その何かを確認するんだ!


 ネズミ達が四方に散る事を確認して、現状を妹にも伝えると、妹の表情が曇り。


「心配するな。エリーの事は僕が守るから」


「うん……。でも無理はしないでね? お兄ちゃん」


「おう。まずその何か・・と対面してからかな。それはそうと、子爵令嬢の安全も確保しないとな」


「エイミーさんをお願いね?」


 一度顔を合わせているので、心配なのだろう。


 僕は妹の頭を優しく撫でる。



 その時。


 四方に散ったネズミがとある化け物・・・を見つけた。


 大きさはベア以上あり、ベアで3メートルとかだけど化け物は5メートルくらいある大きな熊? 狼? 熊に狼の顔を付けた感じのモンスターだった。


「見つけたよ」


「本当!?」


「ああ。とんでもなく強そう・・・だ」


「お兄ちゃん……」


「大丈夫だ。やれるだけの事はやるさ」


 まず現状を整理しよう。


 一つ目、こちらの町に向かって来ている化け物の退治。


 この化け物が町に着いたら、町が悲惨な事になりそうな予感がする。


 二つ目、執事によって地下に連れられて来た子爵令嬢のエイミーさんを守る事。



 このどちらも達成させるにはどうしたらいいのか、頭をフル回転させて作戦を考える。


 どちらにしても時間が足りない。


 その時、僕の頭に一つのアイデアが浮かんだ。


 出来るか分からないけど、やってみる価値があるかも知れない。


「よし、やってみよう」


「お兄ちゃん頑張って!」


 妹の声援があれば、百人力だな。

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