第8話 名前に覚えがあるスキルを使う時は注意しよう

 次の日。


 よく眠れたので、妹と朝食を取り、初心者の森にやって来た。


「お兄ちゃん、新しいスキル楽しみだね~」


「おう! 何せゴーレムくん達の仲間が増えるからね!」


「…………ふふっ」


「ん? どうしたの?」


「普通、中級を覚えたら下級ってもう使わないのに、お兄ちゃんは仲間だと言うから」


「進化して使えなくなるスキルなら分かるけど、【中級獣召喚】を使ってもゴーレムくん達はズットモだから」


「ズットモ……? それは何か分からないけど、とても素敵な響きね」


 自慢じゃないが、日本のネットゲームでは【従魔システム】というのがあって、一人三匹まで簡単に従魔に出来て、それぞれの名前を友達1号くん、友達2号くん、友達3号くんと名付けて、友達のように接していた。


 それゆえに、【鋼のメンタル】と呼ばれていたのは、懐かしい昔話だ。


「だろう? これからもゴーレムくん達とは一緒に冒険するんだからな。では中級はどんな子達が現れてくれるのか、【中級獣召喚】ポチっとな」


 【ステータスウィンドウ】でスキル【中級獣召喚】を押して全員召喚する。



 ――――――――――――――――


 【中級獣召喚】


 中級獣を召喚出来る。(全三種)


 ・ベア


 ・カエル


 ・フクロウ


 ――――――――――――――――



「おっきぃ…………」


「その発言、兄として許せません」


「えっ? 何を想像しているの?」


「…………」


 ベシッ!


 ――「何か良からぬ事を思ってる顔ね!」の声と一緒に、ハリセンの音が響き渡った。




 ベアは3メートルの大きさで、ヒグマが思い浮かぶくらい強そう。


 カエルは手のひらサイズだが、カエルの中では大きいよね。ただフォルムは可愛いので拒否感は全く出ず、目がクリクリして可愛らしい。


 フクロウはカエルより一回り大きいくらいで、僕達の肩に乗ってもあまり違和感がない。



 ゴーレムくん達に聞いた話では、なんと今でも【召喚獣強化】が持続しているらしく、この三体にも【召喚獣強化】を掛けてあげる。


 ベア達にもゴーレムくん達に合流して貰い、パーティーを組んで戦って貰わないとね。



「お兄ちゃん、さっきもう一つあるって言わなかった?」


「ああ、【中級軍団召喚】というらしい」


「軍団……?」


「三種類召喚出来るみたいで、基本的には一分くらいで消えるみたい」


「見たい見たい!」


「では選んでいいよ! 【ブタの行進】【ネズミワールド】【ザ・じー】」


「…………」


「どうしたの?」


「どれも見たくないかも」


「…………」


 妹が名前を聞いただけで肩を落とす。


「まあまあ、折角だから【ブタの行進】から見てみようよ」


「そ、そうね……」


 【ステータスウィンドウ】から【中級軍団召喚】を押すと、更に上記の三つの選択肢が表記されて【ブタの行進】を押す。


 僕の前に直径1メートルくらいのブラックホールのようなモノが出現し、中から――――――




「可愛い~!」




 子豚が大量に出て来た。


 出て来る子豚達。


 出て来る。


 沢山出てくる。


 サイズは50センチくらいの子豚達が止めどなく出てくる。


「お兄ちゃん? これいつまで出てくるの?」


「分からない……出てくる数はとても多いらしいけど、一分で消えるらしいし、出せるとこまで出してみたらいいんじゃないかな?」


「ふ~ん。まあ、思っていたよりは可愛くて良かった」


 向こうの知識があるだけに、大きい豚を想像していたけど、子豚で良かった。


 子豚はとてもキュートで可愛いからね。


 それにしてもずっと出てくるけど、どうしたらいいんだろうか?


 このまま放置してどこまで出てくるのか待ってみるか?




 ――――十分後。


「お兄ちゃん? 十分くらいずっと出てくるけど、本当に大丈夫!?」


「え、えっと…………一旦止めるか」


「その方がいいと思うわ」


 十分間解放したブラックホールを消すと、子豚達が一瞬で消えっていった。


 なるほど、ブラックホールを消すと出した召喚獣達も消えるのね。


「お兄ちゃん、もう二つも試そうよ~」


「そうだな。次は【ネズミワールド】だな」


 少し不安だけど、【ネズミワールド】を繰り出してみる。


 さっきよりも小さいブラックホールから、大量の子ネズミが出てくる。


「あら、ネズミ達も可愛らしいね」


「そうだな。しかも、どうやら出て来てから消えるまでの滞在時間が長いらしい」


「へぇー」


「代わりに戦闘力は皆無で、【視界共有】が出来るらしいよ」


「本当? 使ってみて!」


「分かつた」


 近くの子ネズミに視界を移す。


 感覚的にはパソコンを二つのディスプレイでやっている感覚で、自分の視界が見えているのに、もう一つの視界が見えるとても不思議なアハ体験だ。


 ネズミは何を……見……………………。


「お兄ちゃん? どうしたの?」


「…………」


「ちゃんと見えた?」


「…………うん。見えた」


「何が見えたの?」


「…………フリル」


「…………は?」


「妹よ。フリルはあまり似あ――――」


 ドゴォ!


 僕の顎にクリーンヒットする妹のパンチ。


「お兄ちゃんのバカぁああああ!」


 実はエリーってあのハンセルよりずっと強いんじゃない? めちゃ吹き飛んだんだけど……。




「さて、最後は【ザ・G】だね」


「…………今度は【視界共有】はないんでしょうね!?」


「ないよ! ただこの名前に少しだけ聞き覚えがあるんだよね」


「あるんだ? 私は初耳だけどね」


 もしもだ。


 このGが、向こうのあのGなら、きっと僕はこの後、妹に殺されるかも知れない。


「コホン、では行くよ?」


「今回はどんな可愛いモノが出てくるかしら」


 ワクワクしている妹をよそに、僕は【ザ・G】を押した。











 ああああああああああああ!


 当たって欲しくなかったああああああ!


 一面が真っ黒だよあああああああ!




 妹に吹き飛ばされたのは言うまでもない。






 こうして、僕は異世界で短い命を終――――――――






 わらないよ! まだ始まったばかりだよ!


 妹はガチ泣きして、丸一日口もきいてくれないよ!

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