新世界

マスカレード

第1話 洗礼を受ける

 指先が震えた。


「何このコミック!!」


 自分の部屋で、壁を背にしてベッドの上で読んでいた白鳥花蓮は、漫画を手にしたままマットに突っ伏し、ほぉ~っとため息をついた。


 人生を凝縮したような苦楽ありの14冊の漫画は、大学に入ってから仲良くなった杉野早紀に借りたものだ。内容がBLと知って遠慮したのだが、花蓮には必要だからと言って押し付けられた。


 高校まで共学に通っていた早紀は、弟もいることから、男女の区別なく接する。初対面の男子とも物怖じしないで喋るし、腕などにも平気で触る。

 中高ともミッション系の女子校に通っていた花蓮には、恐れ多くて真似ができず、早紀と男子がじゃれ合う様を一歩離れた場所から見ているだけだ。

 察した早紀が、家から持ってきたものを見せながら言った。


「社会に出た時にどうするの? 男性と一緒に仕事をしないといけないのよ。まずは二次元で男性の言動を学んで、免疫をつけた方がいいわ」


 痛いところを突かれて反論もできず、果たしてBLで解決するのだろうかと疑問も抱いたが、せっかくなので試してみようと、持って帰って恐々恐るページを繰った。


 金曜日に借りた本を、土日をかけて読んだ。

 最初のうちは、びっくりして思わずページを閉じてしまうシーンもあり、怖いもの見たさに再度ページを開くことを繰り返す。慣れとは怖いもので、じっくりと状況を分析して、堪能できるぐらいには成長できた。

 じっくりとは言っても、アワアワしているのは相変わらずだが。


 本筋にしても、花蓮には想像できないことばかりが次々に起こり、夢中になって一気読みをしてしまうほど猛烈に惹かれた。

 重いシーンではその先のことが心配になり、本音をぶつけ合うシーンでは、こんなことをここまで言って大丈夫なのだろうかと本気で心配になる。苦労して幸せを掴んだシーンでは、濁流から一気に抜け出し、虹色の世界を見たような爽快感と感動を味わった。

 

 


 

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