竹の板




 いつの間にこんな字を書けるようになったんだ。

 鉄労は字の上手さに暫し胸を熱くさせてのち、剣牙の部屋へ向かうべく階段を上った。


(しかし今更手紙にして伝えなくても)


 よく言えば見守り、悪く言えば放任。

 家の外のことは息子の好きにさせているが、家の中はそうではない。

 起きた時はおはよう、眠る時はおやすみなさい、家を出る時は行ってきます、帰って来た時はただいまと、ご飯を食べる時はいただきます、食べ終わったらごちそうさまと挨拶はきちんとする。

 家に帰って来てからの靴揃え、うがい手洗いをする。

 洗濯物を出す時はポケットの調査をしておく。

 夕食は必ず一緒に食べる。

 食べ終わった食器は必ず台所のシンク台に持って来て水を浸けておく。

 守らない場合に一度だけきつめに注意すれば、大嫌いなてめえに言われたくねえんだよと直接言われているのだ。

 今更手紙にして伝えなくても重々承知している。

 悲しくはない。微塵も。


(俺は大好きだからな)


 一方通行結構結構。






「鉄牙。体操服のポケットに竹の板が入っていたぞ」


 部屋の扉越しに伝えれば、剣牙が出て来て無言で手を差し向けて来たので、鉄労は掌に竹の板を置いた。


「どうもすみませんでした」


 喧嘩を売っているような顔にしか見えないが、鉄労は気にせず気をつけろと軽く注意をして、その場を立ち去った。






「どうすっか」


 扉を閉じた剣牙は竹の板がそこそこ溜まっている箱に入れて、腕立て伏せを再開した。














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