夢現夜行

第1話

「なんてこった」

 

 状況は最悪だった。


 目の前に迫る異形の化け物に、持っている武器はプラスチックのカラーバット。


 ――これ攻撃力いくつ?


 全く馬鹿げている。どうしてこんなことになってしまったのか。いやもうわかってるさ。これはもう運命ってヤツだ。あたしの後ろに隠れた小さな影が服のすそをギュッと握る。緊張が伝わってくる。

 

 さてあたしの選択は――

 

 1.放っておいて逃げる。

 2.話し合いで解決する。


 ああもう。わかってるさ。答えは3番の「戦う」だ。


「全く馬鹿げてる。どうしてあたしはこうなんだ!」


 愚痴ったところで事態が変わるわけがない。

 化け物が吠える。イヤだな、マジ強そうだアレ。

 

 バットを構える。さて、こんなもんが役に立つのか、いや違うな。

 これは覚悟だ。あたしの覚悟。そうさこいつは只の棒っきれなんかじゃない。

 あたしは、集中する。イメージするのは――




 ――と、そこで目が覚めた。



 

 うわ……


 何て中途半端な夢だ。出来れば最後まで見せてほしい。アイキャッチのまま終わる夢ほど切ないものはないだろう。この場合、何処にクレーム出せばいいんだ?


「やぁ、お目覚めかい」


 と、その時陽気な声で一言。今度は醒めない悪夢のご登場だった。出来ればこっちのクレームも受け付けてほしいと切に願う。


神無かんな。前にも言ったけど、レディの寝室に忍び込むのはやめて欲しいんだけど……」

「いやそれ無理だから。君が僕を見なければいいだけのことさ。ところでレディって誰のこと?」


 嫌味な口調でクスクスと笑う。全く癪に障る。ふんだ。今に見てろこの悪魔め。


 さて何から話したらいいものか、まずこいつ――体長30センチの小悪魔こと、神無(かんな)は親父の部屋で会ってからずっとあたしのまわりに浮かんでいる。それはもう本当にずっと一緒で、食事や寝室はおろかトイレや風呂場までついてくる。親父の部屋での不思議な出来事からそろそろ2ヶ月、いい加減慣れてきたもののやはり鬱陶しいものは鬱陶しい。


 ……マジ返品効かないかな?これ


 神無という名前はあたしがつけた。名前を聞いても「それに何の意味があるんだい?」などとわけのわからないことを言って教えてくれなかったからだが、どうやら本人はその名前がいたくお気に入りのようで上機嫌でその名前を受け入れた。よっぽど「ポチ」とか「タマ」にしてやろうかと思ったが、何となく「神無」という言葉が頭に浮かんできたのだから仕方がない。

 

 ところで、こいつの性別は何なのだろうか。パッと見わからない。わかるのは、中学生くらいの外見で、癪だけど、女のあたしですらハッとするほど整った顔をしていることくらいだ。

 試しに本人に聞いてみたところ、人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら、


「そんなの意味のない質問だよ。男かも知れないし、女なのかも知れない。君の自由に考えればいい。第一、性別が男か女のふたつしかないなんて誰が決めたんだい?」


 などと、のたまいやがった。

 あたしの精神衛生にかかわる問題だけにしつこく食い下がったが、のらりくらりとかわしながら、


「君の好きに考えればいい」


 と腹を抱えて笑い、全く取り合ってくれなかった。


 くそー滅茶苦茶面白がってやがる。


 いつかシメル。いつかって?さぁいつだろう。


 兄貴と一緒に朝食をとっている間、神無はフワフワと浮かびながらテレビニュースを面白そうに眺めていたかと思うと、兄貴やあたしの朝食を興味ぶかげにしげしげと見つめていたりする。滅茶苦茶鬱陶しい。更に厄介なことにこいつの存在はあたしにしか見えないらしいから始末におえない。

 全く、この歳になってティンカーベルを見るなんて思いもよらなかったが、どうやら世間はあたしほど無垢な心を持っていないらしく、口にすると変な人にされてしまいそうだったのでやめた。実はあの後、兄貴だけには少し話したんだが、本気で心配されてしまったので、今は気のせいだったことにして誤魔化している。


「兄貴、なんか小さい人が浮かんでるんだけどどうしよう?」


 とあたしの話を聞いた時の兄貴の顔は今思い出すだけでも切ない。

 そりゃ、頭では理解しているさ。そんなことはあり得ないってね。だけど見えてしまうものは仕方ないだろう。誰かあたしのこの気持をわかって欲しい。

 それにしても、あたしの目は本格的にイカれてしまったようで、神無だけじゃなく、普通の人には見えないものが見えてしまうようになっていた。例えば人が会話をするとフヨフヨと色々なものが浮かんでいるのが見えてしまう。言ってしまえばマンガの効果のようなもので、その場の雰囲気が何となくわかる。正直邪魔なことこの上ないが、


「眼鏡をかけてみたらいいよ」


 との神無の言葉に従ったところ、なるほど眼鏡越しにはあまり見えなくなったのでこれはこれで何とかなっている。

 ところでこいつは眼鏡をかけても消えてくれないので何とかして欲しいんだけど、誰かいい方法知らないかな。






「やぁひー坊。今日も可愛いね!」

 

 登校時のこと。いきなり後ろから抱きつかれた。

 ええい離れろ鬱陶しい。

 犯人はわかっている。全くこいつはあたしを何だと思ってやがるんだ。


「だって、ひー坊可愛すぎるんだもん」


 ああそうかい。

 

 喜多沢ひかり16歳。天野坂高校あまのさかこうこう一年生。身長は、この歳の平均的な女子生徒の約一割引き程度の大特価……いや自分で言ってて空しくなるからやめておこう。ああそこ、正確な計算なんてしなくてよし!


 ちなみにあたしに抱きついているこいつは天羽あまはねちひろといい、入学以来あたしに絡んでくる厄介者だ。人を抱き心地の良いぬいぐるみかなんかと勘違いしている不届きなやつである。


 はっきり言おう。こいつは超問題児だ。入学早々制服ではなくフリフリの服を着てきて注意されていたかと思うと、次の日にはまた別の服。また次の日には別の服と、アニメやゲームのキャラクターかなんかの服から、果てはメイド服まで次々とキワモノを連発し、物議を醸していた。本人曰く、


「おんなじ服ばかりじゃつまらないじゃん」


 とのこと。これがクラスメイトの中にも同調者を生んだりして、一時はかなり問題視されていたが、どういうわけか最近普通の制服を着てくるようになって先生方もホッと胸をなでおろしているといったところだ。だが、依然として超超問題児としてブラックリスト入りしていることはまず間違いない。


「ひー坊。今日の帰り、カラオケいかない?」

「いかない」

「えーなんでさー?」

「いきたくないから」


 素っ気なく返答を返す。「ひー坊」とはあたしのことらしい。初対面の時からこいつはこうだった。恐ろしいやつだ。ほとんどインスピレーションだけでクラスメイトの呼び名を次々と連発し、テロリストのように各地で問題を誘発している。ちなみに「くま」と名付けられた体の大きい……ええと何ってったっけ?とにかく「くま」君はしばらく学校に来なかった。


「いいじゃん。ねぇ椎子も行かない?」

「う、うん……そうだね……」


 ああ、こらこらそこ。飛び火しないの。

 

 と、そこで控え目な発言をした子は長谷川椎子はせがわしいこと言い、小学校以来のあたしの親友だ。非常に大人しい子で、あたしは「しぃちゃん」と呼んでいる。家が近所でいつも一緒に学校に通っており、クラスも一緒のため、朝はこうやって一緒になることが多い。なお、こういう押しの強い奴にはめっぽう弱く、押し切られてしまうことが多いので放っておけない。


 そんな感じで、いつものように、ちひろとあたしがいがみ合っていると、校内放送が流れ、全校生徒は講堂に集まるように伝達された。話はここから始まる。






 全校生徒が集まる中、異例の全校集会が始まった。天野坂の講堂はかなり大きいが、それでも全校生徒が入るとなるとかなり手狭になる。実際、こういった全校集会は校庭で行われることが多かったのだが、今回生徒が講堂に集められたということは、あまり外部に聞かれたくなかったのだろうとあたしは思っている。

 周りが騒然とする中、校長が講壇にのぼり、厳かに告げた内容は確かにあまり気持ちのいいものではなかった。


 男子生徒の自殺――


 かいつまんで言うと、一昨日の夜、我が校の男子生徒が飛び降り自殺をしたらしい。学校としては現在事実関係を確認中とのこと。

 うちの学校に限ってイジメなどなかったと「確信している」が、その事件の取材のためマスコミがやってくる可能性があるから「毅然とした態度でもって」接して欲しい。くれぐれも「無責任な噂」を鵜呑みにして軽はずみな言動は慎むようにといった内容だ。こう言われると何となくキナ臭く感じてしまうわけで、逆に想像力をたくましくする人間が出てきてもおかしくない。逆効果では?とか思えてしまうのはあたしだけだろうか。

 

 案の定、教室に帰った後、クラス中はその話題で持ちきりだった。誰が自殺したのか、そもそも原因は何だったのか。いやホント、こういうときの横のつながりは相当強い。HRが終わるころには、自殺した生徒の名前もすぐに耳にすることができた。


 仕入れてきたのは勿論こいつ。


「自殺した生徒の名前は、谷口比呂人たにぐちひろひと。お隣の1Bだね。なーんかコンピューター研究会に所属していた奴っていうのがちょいとイジメっぽくてヤバげだけど、ひー坊知ってる?」


「いや」


 はっきり言って知らない。まぁ隣のクラスの男子生徒なんざ「サッカー部のA君」とか、「野球部のB君」とか他の女子が騒いでいる程度の人間しか知らないから仕方ないと言えば仕方ないが……


「え?うそ……」

「ん?椎子なんか知ってんの?」

「ううん、たぶん違う。そんなわけない……」

「そんなわけって?」


 確かめる前にチャイムが鳴り、1時限目が始まった。


 結局何が違うのかよくわからなかったが……いや待てよ。さっき一瞬覗いたあの感情、あれはたしか……

 

 そして1時限目の終わる直前のこと。しぃちゃんは真っ青な顔をして気分が悪くなったと言って、保健室に連れられて行った。


「ふふーん。何か知ってるよね。アレ」

 

 好奇心むき出しの顔でちひろが言う。 

 ピピピと逆立つロクデナシレーダー。ああ、本当にこいつ人間じゃなかったんだ。

 さて、問題は何を知っているかだ。悩み事なら相談して欲しい。ホントそう思う。

 

 あたしたちはずっとそうしてきたじゃないか。






「悪いね美月みつき、付き合わせちゃって」

「いいえ、これもクラス委員の役目ですから」

 

 結局、昼休みになるまで、しぃちゃんは返ってこなかったため、昼休み、あたしはクラスの副委員長の倉橋美月くらはしみつきと一緒に、しぃちゃんの様子を見に保健室に行くことにした。

 本来なら、こういった仕事は保健委員の役目になるはずなのだが、どこにも見当たらないところを見ると、昼休みが始まったらさっさとどっかへ行ってしまったらしい。まぁ、くじ引きで決めたクラス委員なんて得てしてこんなもんだ。「クラス委員の役目」なんて真顔で言える美月の方がおかしいんだろう。


 美月と一緒に保健室へと廊下を歩く。それだけで、すれ違う学生の視線を感じてしまうのがたまらない。まぁ、慣れたとはいえ、大したものだよ。


 倉橋美月は美人だ。しかも、そんじょそこらの美人ではない。学年で1,2を争うくらい頭も良い上、人当たりも良く、誰とでも自然に接することが出来る為、クラスメイトの信頼も厚い。


 非の打ちどころのない優等生


 それが美月を端的に表すのにふさわしい言葉だろう。普通、誰にでも欠点ってもんがあるもんなんだが、今のところ、そんなものは美月にはまるで見当たらない。まさに完璧。いや驚いたよ。本当にこんな奴が存在するんだなってね。


 だけど、それ以上に驚いたのは、美月の相手の方だった。この美月と中学の頃から付き合っているって噂の相手が、うちのクラスの委員長、若宮宏樹わかみやひろきだ。


 実は、こいつのことをあたしはよく知っている。


 まぁ、言ってしまえば、ガキンチョのころ、色々とやり合った仲ってことだ。


 近所に住んでいる悪ガキの一人だったんだが、校区が違うとかで、中学校では別の学校に行ってしまった。その中学校の間に何があったかは知らないが、妙に立派な奴になってやがったってわけだ。だけどまぁ、何となく想像はつくね。


 あたしは隣を歩く美月を見る。


「どうかしましたか?」

「いや、何でもない」


 そりゃ、こんな立派な彼女が出来たら人間変わるってもんさ。


 ただ、宏樹と話していると、妙に美月の視線を感じることがあるんだよな。気のせいならいいけど……


 と、あれこれ考えている内に保健室に着いた。しぃちゃんは思ったより元気なようで、あたしの顔を見ると照れくさそうに微笑んで見せた。


「ごめんね。心配かけちゃって」

「ああ、いいよ。で、なにがあったのさ?」


 単刀直入。あたしには変化球は投げられない。


「うん……」

「よかったら話していただけませんか?」


 と、軽く手を添える美月。今、後光が差して見えましたが気のせいでしょうか?


役者ものが違うね」


 うるさい黙れ。この悪魔。

 しばらくして、気持ちの整理がついたのか、しぃちゃんは少しずつ話し始めた。


「谷口君とはね。いつもチャットで話していたの」

「谷口って…・・・自殺したってやつ?」

「うん」


 しぃちゃんの話によると、谷口としぃちゃんはいつも夜の10時ごろにパソコンでチャットをしていたらしい。パソコンの前で悪戦苦闘していた時に、色々と教えてもらったことがきっかけで仲良くなったとのことだ。


「でもね。チャットの相手が谷口君だなんて知らなかったの。彼、いつもHiroって名乗っていたから、ハンドルネームしか知らなかった。でも一昨日おとつい、いきなり谷口君から話しかけられて、それでHiroは僕だって……」


 そりゃまぁ、チャットで本名を使っていない人間なんていくらでも居るだろう。というか本名を使っている人間のほうが少ないんじゃないだろうか。あたしだってそうだ。


「それでね、言われたの。良かったら付き合ってくれないかって……わたし、混乱してて、どうしていいかわからないから、ごめんなさいって言っちゃった……」


 なるほど


 やっと理解できた。

 要するに谷口が自分のせいで自殺したのではないかと思っているわけだ。

 

 いや、何て言うか……


 無意識のうちに、あたしは深く息を吐いていた。

 美月も同感なのだろう。ずっと押し黙ってはいるが同じことを考えているのかもしれない。

 明らかに筋違いだ。いや確かに自分がその立場だったらどう思うかを考えるとわからなくもないが、客観的に見てイジメなどとは全く別だ。


 そう、この自殺には恐らく加害者はいない。


「でもそれは――」

「だけどね」


 言いかけたあたしの言葉を遮る声。話はまだ終わっていなかった。

 そこでようやくあたしは自分の間違いに気づいた。この声に混じっているのは「後悔」なんかじゃなかった。もちろんそれもあるが、それよりも明確に見える感情――

それはおそらく「恐怖」

 

 震えるように肩を抱く。明らかに、しぃちゃんは何かに脅えていた。


「だけどね昨日、私はどうしても仲直りしたくていつもの時間に谷口君を待っていたの。いつもの10時、そしたら谷口君、やっぱり時間どおりにチャットルームに入ってきて話しかけてくれた。昨日はゴメン。付き合ってくれなくてもいいから、また明日から話そうって言ってくれた。だからわたし嬉しくって。うんいいよ。また明日会いましょうって……返答しちゃった」

「……それは確かに昨日の夜でしたか?」

「うん。昨日」


 ゾクリと背筋が寒くなる。

 いや待て。それはオカシイ。時間が合わない。それが谷口であるはずがない。校長は何て言った?そう、谷口比呂人は自殺しているはずだ。そいつがチャットなんか出来るはずがない。もしそれが谷口比呂人だとするとそれは――


「わたしね。ずっと考えてたの。でもどうしてもわからないの。ねぇ、ひかりちゃん。あれは誰なんだと思う?わたしと学校でのことを知っていて、いつもの時間にチャットルームに入ってきたHiro君は……谷口君じゃないの?」


 すがるような眼であたしを見る。


「そして今日もまたわたしはHiro君と話すことになるの?今日も?明日も?それはいつまで?ねぇ教えてひかりちゃん」


 情けない話だけど……


 あたしも美月もその場では黙って聞いている他なかった。






「なるほどよくわかった」


 教室に戻ったあたしと美月を出迎えたこいつが若宮宏樹。あたしの仇敵だ。まぁそれは過去の話で、今では立派な1Aのクラス委員長で人望も厚い。


「それで美月はどう思う?」

「普通に考えれば、誰かがHiroの名を借りて椎子さんに悪戯をしていると考えるのが妥当でしょうね。もしくは自殺した谷口比呂人がHiroではなかったか……亡くなった方が生き返るはずがありませんもの」


 まぁ普通そうだろ。世の中に幽霊なんか……

 あたしの頭上をフワフワと漂っている悪魔を見つめることしばし……

 多分いないだろ。多分。


「そうだな。なら話は簡単だ。椎子がチャットをやめればいい。Hiroもそれで出なくなる。谷口のことは気の毒だが、悪戯に使われることを彼も望んではいないだろう」


 滅茶苦茶まっとうな意見だが、問題がある。


 それは本当にそれが谷口だったらどうなるかということだ。あれから色々考えたが、あたしはその可能性を否定できないでいる。


 仮にそれが単なる悪戯だとしよう。どういう方法をとったにせよ、少なくともそいつは、しぃちゃんと谷口のことを相当詳しく知っている奴なのは間違いない。それも谷口がしぃちゃんに告白してから昨晩までの僅かの間にその出来事を知り、かつ谷口のハンドルネームを使用することが可能でなくてはならない。

 そんな奴本当に存在するんだろうか。ただ、例えそれが幽霊じゃなかったとしても、不気味以外の何ものでもない。しいちゃんが怯えるのも無理もない事だった。


 だけどさ、そんな悪戯する奴、はっきり言ってあたしは気に入らないね。


「それなんだけどさ宏樹。どうも今夜はしぃちゃんの家、お母さん居ないらしいんだよ。だからあたしは泊まり込むつもりでいるんだが……」

「待て、その先は言うな。何となくわかる。お前、そいつをとっちめる気でいるだろ?」


 ありゃ、やっぱりわかる?中学の時は別れたとはいえ、付き合い長いからね。お互い。


 はぁ、と宏樹はため息をついた。


「お前、昔っから全く変わってないな。その小さな体の何処にそんなエネルギーがあるんだ?」

「小さいは余計だ。それでさ、あんたんちも近いだろ?だから一緒に泊らない?」


 ――瞬間、空気が凍りついたような気がした。


 ありゃ?


「……待て。それはどういう意味だ?」

「いや、そのまんまの意味だけど……」

「そのまんまって……そりゃマズイだろ、色々と……」


 チラチラと美月を見ながら宏樹。ああそっか、そりゃマズイよね。確かに……


「本当にお二人とも仲がよろしいのですね」


 クスクスと笑いながら美月。

 しまった誤解されたか。さてどうしよう。


「それでしたら、宏樹さん。私に考えがあるのですが……」


 結局――


 美月のその言葉で話は決まった。

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