少年の異世界転生記。前世の記憶で支援無双。

わたかず

3話目

 リクトが、冒険者ギルドの用事を終わらせると、素材屋と道具屋がある、町の北区(商店街)へと向かった。手持ちの素材を整理しながら、必要な素材・アイテム等を買い足していく。気が付くと、辺りはすっかり夕刻に差し掛かろうとしていた。


 日が沈み、暗闇が辺りを覆い始めると、リーフリンデの街灯と建物の中に明かりが灯さた。そして、その様を見たリクトは、北区(商店街)での買い物を止めると、南区へと足を向けた。


 南区は、宿泊施設と飲食店が軒を連ねた場所で、夜になると繁華街へと様変わり、沢山の人で賑わっていた。


 リクトが南区に入ると、真っ直ぐに一軒のお店へと向かった。


 そこは、飲食街の中央付近にある2階建てのお店でした。

 玄関の上には、《1階[焼肉食堂]2階[宿屋]》と、シンプルに書かれた看板を掲げていた。

 玄関を開け1階の[焼肉食堂]に入ると、中から肉汁の焼けた、香ばしい匂いが漂ってくる。


 焼肉食堂の料理は、肉と野菜を使った物が中心で、ハーブや香辛料を使い、スパイシーでピリ辛な美味しい肉料理を出す店です。他にも、冒険者向けに大皿料理を取り揃え、安い金額でたらふく食べられるのも人気でした。


 リクトが食堂のカウンターに向かうと、あちこちから肉の焼けた、芳ばしい匂いが漂よい、その匂いを嗅いだだけで、ヨダレが出そうになった。


「「クスクス、口元ゆるゆるで喉が鳴ってるよ」」


 鈴を転がしたような、可愛らしい声が、カウンター越しに聞こえる。

リクトは、声がする方に顔を向けると、手をお腹に当て口を開いた。


「こんなに、食欲を刺激されたら、相手が誰だろうと白旗を上げるよ。」


「「貴方が、食い意地の張った、ガマン出来ないお子様だって事じゃないの?」」


 可愛らしい声をハモらせながら、リクトに口擊をしかけた。


「相変わらず、フィリシアとフェリシアは毒を吐くね。」


 いつものやり取りに、笑顔で声の主に答える。


「「毒を吐くなんて失礼な、私達は、いつも思いやりがあり、優しさ溢れるこの店の看板娘・・・よ?」」


「何故、最後は溜めからの疑問形?僕は、馬鹿にされた様な気がするんだけどな?」


 双子の看板娘は、首を傾げ笑顔でハモりながら答えた。


「「気のせいじゃない?」」


 美少女が笑顔で首を傾げる様を見て、思わず見とれてしまいそうになったが・・・顔に出そうになるのを必死に堪えた。そして、直ぐに気を取り直すと話し掛けた。


「その、可愛い仕草と笑顔でそう言われたら、そうかもしれないって思うから、凄いよね。」


 少女達は、お互いを見て不思議そうな顔をした。


「「それは、リクトの思い過ごしよ。私達は、自分に正直に生きてるからストレートに話してるだけ。」」


 先ほどからリクトと話しているのは、この店の看板娘のフィリシアとフェリシア、ハーフエルフの双子の少女で13才。


 焼肉食堂で働く、笑顔が可愛い活発な女の子。10才の時から働き、今では食堂のマスコット的存在になっている。又、彼女達の毒舌目当てに通う人も少なくはない。


 二人ともエルフの特徴を受け継いでいて、尖ったエルフ耳と整った顔立ち、スタイルはスレンダーで、淡い銀色の髪が特徴的です。ちなみに、フィリシアが姉、フェリシアが妹です。



「「それで、リクトは何を食べるの?」」

双子姉妹がオーダーを聞くと、リクトはメニュー表を見ないで答えた。

「それじゃあ、本日のステーキ定食をお願いするよ。」


「「はい、オーダーを承りました。本日のステーキ定食ですね、少々お待ち下さい。」」


 姉妹は、オーダーを確認すると、息の合った動作で調理場へと向かった。


 流石、双子だね・・・言葉と動きがシンクロしていて、いつ見ても感心するよ。


 あれで、もう少し愛想が良かったらなあ・・・。


 昔はもっと愛嬌があって、可愛かったのに・・・いつから、あんな毒を吐くようになっちゃったんだろ?


 暫く、昔の可愛かった頃の姉妹を思いだしては、今の姉妹を見て残念がっていた。すると不意に後ろから、冷気に乗った殺気が飛んで来た・・・。


 ゾクゾクッ!と、背筋に何か冷たいものが通り過ぎ思わず振り返る。

 するとそこには、氷の女王も震え上がりそうな冷たい表情をしたフィリシアが、熱々のステーキを片手に仁王立ちしていた。


「何か、失礼な事を考えて無かった?」


 更に冷ややかな目で睨まれ、リクトは黙ったまま首を横に振ることしか出来なかった。


「リクト、何かお姉ちゃんを怒らせる事したの?」


 フェリシアがライスとサラダを持ってやってきた。


「リクトが、何かいかがわしい事を考えていたから、追求していた。」


「えっ?そんなの考えて無いよ!?無実だよ!!」


「顔がいやらしかった。」


「お腹が減った。ペコペコの顔だよ!」


「何か必死過ぎて、余計確信に変わった。」


「ひどっ!!」


 リクトが、ショックを受けた瞬間、お腹からステーキを催促する音が鳴った。


「はいはい、お姉ちゃんもそこまでにして、リクトに食事をさせてあげたら?」


 フェリシアが、ライスとサラダをリクトの前に置くと、フィリシアも無言でステーキを置いた。


「妹に免じて、許して上げる。」


 目の前にご馳走を並べられ、再度お腹が鳴ると、言い掛かりをつけられていた事も忘れてしまい、思わず「ご免なさいとありがとう」を繰り返し言っていた。


 やっぱり、空腹の時に並べられたご馳走には、勝てる気がしないよ~。


「これ以上待たせて、暴れられても困るから、食べても良いわよ」


 つっけんどんに言うと、他のお客さんの所へ向かった。


「それじゃ、ごゆっくりね。」


 フェリシアも一言だけ言うと、姉の後を追った。


 1人残されたリクトは、ようやく訪れた晩御飯の時間に感謝をして、熱々のステーキにかぶりつき、夢中になって食べ始めた。


 はふっ♪はふっ♪あちちっ・・・んぐんぐもぐもぐ。


 はぁ~~~♪美味しい♪付け合わせの野菜は、口の中に溜まってきた肉の脂を取ってくれて、さっぱりした状態で何度でも肉を食べられてサイコー!ライスも肉汁が染みてメチャウマ♪ステーキ定食サイコー!!


 肉・肉・野菜・肉・野菜・ライス・肉・ライス・肉・肉・肉!


 と、無心にがっついて食べ、気が付くと幸せの時間は、あっと言う間に終わっていた。


「ご馳走さまでした。」


 両手を合わせ、感謝の言葉を言うと、料理の余韻に浸りながらも、会計を済ませると、2階の宿屋へと向かった。

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