殉職
僕の名前は
僕には両親がいない。生まれたとき僕は孤児院にいたらしい。そこで僕はある若い夫婦に引き取られた。両親の名前は、義父が
両親と血のつながらない関係だということを知ったのは、僕が高校生のころ。多感な時期だからちょっとしたことで腹を立てたりして、物を壊したりしていた。それを見かねた母が、
「なんでそんなにイライラしてるの?」
言うと、
「僕は親父やお袋に全然にていない。性格も外見も。本当に実の親か?」
さすがにこれ以上隠せなかったのだろう、母は、
「実はね、あんたは養子なの。京介が孤児院にいたときわたしとお義父さんで引き取ったの」
「やっぱり血のつながりはないのか! おかしいと思ったんだ! じゃあ、他人じゃないか!」
おふくろは辛そうな表情をしていた。いいざまだ!
「そんなこと言わないの。わたしたちと京介は確かに血のつながりはないけれど、その分たくさん愛情をそそいできたつもりよ」
僕は血縁関係がないことを知って悲しくなった。僕の実の両親はどこにいるんだ。
僕の学生時代はこんな感じだった。いま思えば酷いことを言ったものだなぁと。いくらガキだったとはいえ。
友人は複数いる。男性も女性も。男性はいままで知り合ってきたやつらで、女性は元カノが友達になったという感じ。たまに彼らとは電話をしたり、遊びにいったりする。妻の千尋も自由にやっているから、僕も自由にやっている。
職業は千歳の陸上自衛隊員。非常に厳しい環境で働いている。僕の義父も自衛隊員だった。いまは退職していてなにをしているのかはわからない。そもそも、義父の仕事に興味がない。
僕の趣味はからだを鍛えること。プロテインを少し飲んで鍛える。自己満足といえばそれまでだが。自衛隊に入隊しようと思ったのは、義父が勧めてくれたことが大きい。なんといっても経済的に安定しているから。でも、当時は夢があり、俳優になりたかった。いま思えば自衛隊でよかったと思う。俳優も売れればいいが、そう簡単に売れないだろう。義父の勧めと僕の判断は間違っていなかったと思う。要は公務員になることを勧めてきたということだ。他には役所、警察官など。
仕事中は迷彩柄の恰好だが、プライベートはジャージやTシャツなど楽な恰好で過ごしている。なるべくストレスを溜めない生活を送るようにしている。息子の佑真も僕の真似をして楽な恰好で一緒にいる。息子とは古本屋に行ったり、妻の千尋も一緒の場合は、温水プールやカラオケなどにいくことが多い。
千尋は32歳だけに色気がムンムンしている。他の男どもに声をかけられないか心配。
僕の性格は嫉妬深いし、負けず嫌い。だから、自分が大事にしている物や人を取られそうになると怒る。千尋のことはとても大切に思っているから、彼女を傷つけようとするやつは容赦しない。この前、同僚が僕らが住んでいるアパートに遊びに来た。そいつは僕がトイレに行っている隙に千尋の傍に行き、今度デートしない? という現場を見てしまった。僕としてはそいつのことを信頼していただけにショックだった。それとともに怒りも湧き上がってきた。
「貴様! 俺の奥さんに何やってるんだ! 帰れ!」
と、罵声を浴びせた。そいつは言い訳がましく、
「いやいや、4人でご飯でも食べに行こうっていう話をしていただけだ」
「じゃあ、何でそんなにくっついて話す必要があるんだ! すぐに離れろ!」
おずおずと同僚は妻の傍から離れ、元いた椅子に戻った。
「まあ、立山。そんなに怒るなって。手を出したわけじゃないからさ」
「当たり前だ! 手を出したらお前をボコボコにする!」
僕の妻の立山千尋は、出るところは出ていて、引き締まるところは引き締まっている。スタイル抜群だ。茶髪のロングヘア―。身長も女性にしては高いほうだと思う。170㎝くらいかな。出身はアメリカ合衆国。ご両親は父親が日本人で母親がアメリカ人。なので、奥さんはハーフ。22歳くらいまでアメリカに両親と同居していて、父親の転勤で日本に来た。千尋とは、マッチングアプリで知り合った。きっとうまくいかないだろうと思っていたが、千尋は積極的な女で驚いた。交友関係も広く、アメリカ人の友だちも男女問わず同い年くらいの友だちがいるようだ。日本に来てからも活発な性格が功を奏して友人は多いらしい。妻は今は専業主婦。僕と結婚するまえは持ち前の体格を生かしてレースクイーンをしていた。普段の服装は露出度が高いものを着ている。家のなかではいいが、外出するときは控えめにしてほしいと言ってある。僕が思う千尋のいいところは、気丈だけど優しいところ。短所は、喧嘩をしたら殴ってくるところ。逆に僕は暴力は振るわない。平和主義者だから。それを言うと笑われるけれど。本人が言うには、お金がたまったら花屋を経営したいと言っていた。
同僚は
「まあ、そう言うなよ。長い付き合いじゃないか」
「お前は俺が大切にしているものが何だか知ってるだろ?」
「ああ、知ってるよ。子どもと奥さんだろ?」
「わかってるじゃないか。なのになんでそれを壊そうとするんだ。ふざけんな!」
「いや、壊そうとしているわけじゃない。ただ、4人で食事をしたかっただけなんだ」
「さっきも言ったけど、じゃあなんでわざわざ近づくんだ。椅子に座ったまま話せばいいだろ」
そう言うと、内田は黙った。返す言葉がないのだ。ざまあみろ。気を付けてみていないと内田は何こそするかわからない。
いまは8月、千歳市は内陸の町なのでかなり暑い。
そんななか、駐屯地にある寮で自殺者がでたらしい……。いったいなぜ? 以前もおなじことがおきた。自衛隊がいやになってそのようなことをするのだろうか。それなら自殺じゃなく、退職したらいいだけのはなしだ。でも、当事者からしてみたら、そんな簡単に考えられないのかもしれない。
今日から演習のため、2泊3日で不在になる。自宅に帰れるのは3日目。僕は毎晩晩酌をするし、煙草も吸う。煙草は規制されないが、飲酒は規制されるので帰宅するまで飲めない。
演習の準備をみんなでして、自衛隊独特の車両に乗り発車した。
1時間くらい走行して徐々に眠くなってきた。助手席にいるのは内田輝人だ。僕らはジープに乗っていて対向車は大型トレーラー。僕は蛇行運転をしているのに気づいていない。そのまま対向車線をはみ出して大型トレーラーと正面衝突してしまった。時速80㎞くらいで。トレーラーはもっとスピードを出していたのではないだろうか。衝突した弾みで、ジープは大破した。この時点で僕は意識がなかった。
つぎに目覚めたときは、内田がそばにいて、
「おい! 立山、俺ら死んだみたいだ」
よくみると内田の足はなく、透けて見える。幽霊とやつか。
「まさか、そんな……」
「俺らはあの世にいる、そう俺らは死んだんだ。殉職というやつだ」
そこで僕も内田もフッと消えてなくなった……。
(終)
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