第8話 『皐月という女』
僕は咄嗟に目を瞑った。バスが車に衝突だなんて、百対零でこちらが悪くなるだろう…あれ、おかしいな。衝突音が聞こえない。もしかしたら簪が上手く交わした?それとも、前にいた車の運転手がどこぞの車を使ったアクション系映画の主人公か何かだったのだろうか?
「いやいや、それはないでしょうよ。あれは完全にフィクションなんだからねぇ。」
「…皐月さん!」
皐月…もしかして、あの有名な皐月・アスファルド様でしょうか!?
「そう、何を隠そう私が天才魔法使いこと皐月・アスファルドだよ。二人とも危なかったねぇ。私が未来確変をしていないと今頃事故の加害者だよ、全く。世話の焼ける子達だなぁ。」
何やら僕たちを世話しているお姉さん的な感じで話しているが、僕は彼女とは完全に初対面である。
「ふふ。そんなこと思わなくとも、今から長い付き合いになるんだ。このお話に出てくる私は、お姉さん的なポジションに違いは無いはずだよ。」
「長い付き合い…?何故ですか?」
「そりゃあ、君達が人形退治をしているからね。子供達が頑張っているのに大人は何もしないなんておかしいだろう?だから、協力してあげようと思ってね!」
「それはありがたいです。というか、僕達を呼んだのってもしかして…」
「そう、何を隠そうこの私、皐月・アスファルド様が君達を呼んだんだよ。」
皐月・アスファルド。前述の通り、魔術を初めて開発した天才科学者の1人。死亡説や逮捕されている説などがテレビでは取り上げられていたが、まさかこんなにもサラッと登場するなんて思っていなかった。まあそれは置いておいて、彼女の能力の話をしよう。彼女は自分では魔法使いと言っているが、正直、大魔道士クラスの実力を持っている。彼女が使う魔術は限られたものがなく、全ての魔術。例えば今も使っているような相手の思考を読み取る能力や、先程僕達を事故から救ってくれたように時間を止めて未来を変換する能力など、上げだしたらキリがない。そんな彼女が僕達の味方をするというのだから、これから先は余裕である。
「いや、そうとも限らないよ。だって、世界的な天才の私にも人形の構造は理解出来ていないからね。きっと相当な技術者兼実力派が相手側にいるはずだ。」
「なるほど。それじゃあ、どうするんですか?」
「頭で叶わないなら武力でわからせればいい」
おいマジか。これが魔術を開発した天才の言う言葉ですか!?知的かと思っていたが、ゴリゴリ脳筋だったなんて。
「まあそんなことは置いておいて、なんで君たちを呼んだのかって話だ。まぁ私も協力するって話をしておこうと思ったのは確かなのだけれど、それじゃあ簪ちゃんに伝えるだけでいいよね。んでここからが本題だ。君達は有効な武器もなければ仲間もいない。だから2人、君達に紹介しておこうと思ってねぇ。じゃあ、私のラボに着いてきてくれ。」
新メンバー加入キター!というか、武器も貰えるのか!?戦闘経験がない僕はどんな武器なのかな。剣?槍?それとも弓!?どれもシビれるぜ!…おっと。僕としたことが取り乱してしまったようだ。
◇
皐月さんに連れられ、ようやく(正確には空間転移魔術で一瞬でラボに着いたのだが、折角久々に場面が切り替わったのだからしばらく歩きました的なことを言っておこうと思ったのだ)皐月さんのラボに着いた…というか、デカ過ぎないか?
「ようこそ。ここが私の研究所です。」
ドアは全て自動、セキュリティ万全。スパイ系の映画でよく見る赤外線レーザーもびっしり張り巡らされている。
「すごい…」
ここはフィクションですか?
「いいえ。」
そうですか。
「…というか皐月さん、さっきから僕の思考を読んで返答するのやめてもらっていいですか!?」
「いやぁ、使えるものは使いたいじゃない?だから君の脳内を全部把握しておこうと思ってねぇ。」
「ぼ、僕の脳内を!?やめてください。プライバシーの侵害で訴えますよ!?」
というか、僕の脳内を見られたらいろいろとまずい。
「…ちょっと、こっちに来てもらえるかな?簪ちゃんはここに残っていてくれ。」
◇
僕は何も無い部屋に連れられた(今回は空間転移も何も使っていないから、本当に歩きだ)。
「君、もしかして未来の人?」
いきなり核心的な質問をぶっ込まれた。
「いや、そういう訳ではないんですが…」
「じゃあ何故?なんでこんなに未来のことを知っている?君は死んだのか?なのに何故ここでまた生きている?」
「…僕にも分かりません。僕は、未来では死刑囚なんですよ。それで、僕が死刑執行された時に、気がついたら走馬灯を見ていた…的な感じでってぐはぁ!」
僕が喋っている途中に彼女が腹にグーを入れてきた。一体、この人は何がしたいんだろう。
「痛いかい?」
「グッ、えぇ、そりゃあ痛いでしょ…ゲホゲホ!」
「それじゃあ、これは走馬灯じゃあないね。走馬灯なら痛みなんて感じないはずだよ。それに君はもう死んだのだろう?走馬灯とは死ぬ前に見るものだから、これは紛れもない現実だ。」
「でも…」
「こんな記憶は知らない、だろう?」
「あなたはどうしてそこまで、僕の喋る手間を省くんですか…」
これじゃあ主人公として成り立たないだろう、セリフがない主人公なんてNHKの教育番組くらいしか許されないだろうに。
「まあそれは悪かった。君の思考を勝手に見るのは辞めるよ。まあその話はそこら辺に置いといて、本題に移ろう。いまこの瞬間、この世界は、君が死刑になった世界と別の世界線だ。世界線とはその可能性がある限り無限に存在する。今君が見ているのはそのうちのひとつに過ぎないのさ。君が死んだ世界線では私や簪ちゃんがどうなっているのかはよく分からないけれど、それがこの世界でも同じとは思わない方がいいだろう。だって、ここが何処で何をした世界線なのか分からないのだから。」
「つまり、僕はまだ生きていると…」
「あぁ、そういうことだよ。君は死んでなんかないさ。これは生きている君のどこかの分岐点の、死ななかったルートなのかな?いや、簪ちゃんと付き合わなかったルートなのかもしれないし、君の妹、あざみちゃんが…」
彼女が妹の話をし出した瞬間、僕は咄嗟に手が出ていた。
「やめろ。それ以上妹の話をするなら、貴方が誰であったとしても殴る。」
「いやぁ!怖い怖い。悪かったさ。これ以上妹さんの話はしないから、許してくれたまえ。」
こうして、僕と皐月さんは部屋を出て、待っていた簪と合流した。
「遅いですよ、2人共。一体何をしていたんですか?」
「いやぁ、ちょっとした事さ。それより!ここからが本題で、1番の見どころ!新メンバーの紹介だ!!」
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