押し活は学校で
茉白
第1話
「おはようございまーす!」
私は校門に立っている最悪機嫌の悪そうな先生に、最高の笑みを向ける。
「おはよう。」
低い声で返事を返してくれるが、それ以上の事は無い。
色々話しかけたいけど、次から次に来る生徒たちに目を光らせている生徒指導の先生としては、一人にかまけてはいられないようでがっかりした。
今日はお待ちかねの英語の授業の日だ。
「桃ったら、また冬木のこと見てる。」
ヒソヒソと友達にからかわれる。
「だって、こんな時しかまじまじ見られないんだもん。」
「あんなぶっちょう面のどこがいいんだか。」
「笑ったらかわいーところとか、低音ボイスとか、眼鏡とか。」
「はいはい、あばたもえくぼってね。」
難しくて退屈で、眠っている生徒もいるけれど、そんなの気にしないかのように粛々と授業は進んでいた。
教科書を朗々と読み上げる冬木の声に私はうっとりと聞き入っていると、一時間はあっという間に過ぎてしまった。
「春野桃、放課後生徒指導室に来るように。」
冬木に呼び出される心当たりはなかった。
制服も、髪形も、持ち物だって引っかかった事は無い。
授業中のおしゃべりが聞こえてしまったのだろうか?
一抹の不安を抱えながら、私は生徒指導室に向かった。
コンコンコン
「春野です。」
「入ってくれ。」
恐る恐る入ると、中には冬木先生と学年主任がいた。
「…私、何かしました?」
いつも元気が取り柄の私が小さくなっているのを見て、二人は顔を見合わせて軽く笑った。
ああっ、あの笑顔。
こんな状況にもかかわらずキュンキュンしてしまう。
「実は、次の生徒指導部の部長に春野を推薦しようかと思ってな。」
学年主任が言う。
「春野はいつも挨拶してくれるし、校則違反もないし、適材だと思って。」
冬木先生がそんな風に思ってくれていたなんて。
嬉しくて飛び上がりそうだった。
「まあそういう事だから、詳しい話は冬木先生に聞いてくれ。」
そう言うと、学年主任は部屋を後にした。
二人きりだと思うと緊張でドキドキする。
「嫌か?」
「嫌じゃないです、やりたいです。先生と。」
フッと冬木の頬が緩む。
窓からさす日の光を浴びて、キラキラと輝いて見えた。
「そう言ってくれると思ったから、春野を推したんだ。」
「先生が、私を?どうして?」
「元気で素直で正直そうな春野を信じたからかな。」
冬木が眼鏡をはずして眉間を軽くもむ。
眼鏡をはずすといつもより幼くて、思わず叫びそうになるのをこらえた。
「とにかく、これからよろしく頼むよ。」
「はい、一生懸命頑張ります。」
接点が出来た事に、私は天にも昇る気持ちだった。
これからは大手を振って傍にいられる。
何かにつけて話すチャンスが出来たことが嬉しかった。
「もう、逃がさないんだからね。」
卒業するまで付きまとって、絶対落としてやるんだからと私は決意を固めたのだった。
押し活は学校で 茉白 @yasuebi
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