一周年記念SS「佐野君が実家へ行っている間」
カクヨムで山暮らし~の連載を始めてから一年が経ちました。
今まで一周年記念とかやったことはなかったのですが、せっかくなのでSSをお届けします。
592、593話辺りの山でのエピソードです。
みんな身体はでっかいけど、まだ生まれてから1年半も経っていないのですよ~
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佐野が一晩いなくなるというのは、ユマとメイにとってそれなりにストレスである。
特にユマはいつまでも軽トラが下って行った道を眺めていた。
メイも佐野がいないと寂しいは寂しいが、ユマほどではない。それでも寂しそうにしているユマを見て、なんともいえないものが浮かんでいたようである。
ピヨピヨピイピイと鳴いてユマを呼ぶ。
「サノー……」
ユマが佐野を呼べば、木がざわざわした。
何かがユマを宥めようとしていることはユマにもわかっていたが、暗くなって夜が明けないと佐野は帰ってこないのだ。他の何かは決してユマの慰めにはならない。
ポチとタマは今日もマイペースに駆けていった。
夕方には村にいる湯本のおじさんがやってくるので、それまでには一度戻ってくるらしい。山の中は餌が豊富ではあるが、ニワトリたちは養鶏場の餌を殊の外気に入っていた。
ユマはかなり長い時間道路の向こうを見つめていたが、やがてハッとしたようにメイの元へと戻った。そして家の方へとメイを誘導する。メイはやっとユマにかまってもらえたのが嬉しいらしく、ユマにピヨピヨとまとわりついた。
夕方におじさんが来るので餌の準備はされていないが、家の土間には水が用意されているのだ。餌用のボウルの上に置かれた板を嘴で器用に外し、ユマはメイに水を飲ませた。
何故蓋がしてあるのかというと、水をそのまま放っておくとボウフラが湧く危険性があるからである。もちろんボウフラが湧いたところで一日二日で成虫になったりはしないが、これはもう佐野の気分としか言いようがない。
メイが水を飲んだ後はユマがボウルの上に板を戻し、また一緒に表へ出た。家のガラス戸は開けるのはいいが、閉めるのは難儀で、ユマはあまりうまくガラス戸を閉められない。どうしても1,2cm隙間が開いてしまう。
そういうのがうまいのはタマである。
タマは戸を開けるだけでなく閉めるのも上手なのだが、朝佐野を起こした後は佐野の部屋のふすまを閉めてはいかない。もう起きるのだから自分でどうにかしろということだろう。タマはなかなかにスパルタである。
日陰で草を摘まんだり、虫を摘まんだりしながらユマとメイは家の側にいる。
佐野がいない間は家を守るのだとユマはあまり家から離れた場所へは向かわない。
家の裏手に向かえば長い物がいた。ユマはバッと首元に噛みついた。そしてメイに示して一緒に食べる。メイも尻尾を足で踏みつけ、ガツガツと食べた。昨年よりは数は減ったが、たまにまだ姿を見かけるらしい。これとは違い、もっと長い物はあまりおいしくないようだ。ただ家の周りに出没すると佐野が危険なのでニワトリたちは追いやるようにしている。畑にモグラは出るが、ネズミはこの家の周りにはいない。
畑の虫を啄んでいると、車の音がした。
その音がするともうユマはいてもたってもいられなくなる。
けれどまだ暗くなっていないから佐野ではないだろう。
それでも期待はしてしまうのだ。ユマは駐車場の近くにトトトッと移動した。
軽トラが入ってくる。
「おう、ユマとメイか? 餌出しにきたぞ」
案の定それは村のおじさんだった。ユマはあからさまにガッカリした素振りを見せた。それを見ておじさんが苦笑する。
木々が密集している方からガサガサガサガサッと音が聞こえてきた。
「お、なんだなんだ?」
おじさんが軽トラから下りて慄く。
やがて顔を出したのは草まみれのポチとタマだった。今日はいったい何をしていたのだろう。
「なんだお前らか。草まみれじゃねえか、どこまで行ってきたんだ?」
おじさんは笑った。ポチがおじさんに近づく。
頭をまっすぐにしてココッと鳴き、オンドリの威厳を見せた。
「おう、ポチはかっこいいな。ちょっと待ってろよ」
ポチの草を少し払ってやり、おじさんは家に向かった。その足元にメイがまとわりつく。
「お? どうしたどうした?」
ピイピイピヨピヨと鳴いている。ユマは軽くメイの尾を噛んだ。
ピイイイイイイッ!?
メイは佐野がいないのに誰かが家の中に入るのを嫌がったようである。ユマも佐野ではない誰かが家に勝手に入るのは嫌だが、おじさんが餌を用意してくれるというのをわかっているので邪魔をするような真似はしない。
「ユマ、ありがとな」
おじさんはユマの意図を汲み、家に入って餌の準備をした。(その前にタマチェックが入り、おじさんは服の上から何度もつつかれた)ボウルに入った水も入れ替えたりといろいろする。
「まだあんまり汚くはねえか。汚すとしたらこれからだよなぁ」
土間をホウキで掃いたり、ペットシートも替え、おじさんはニワトリたちが住む環境を整えた。いろいろ豪快ではあるが、おじさんのやることは繊細である。
「そういや、この山の下の方に果樹が並んでるんだって? 今度見せてくれよ」
そうおじさんが気軽に言うと、ポチがクンッと頭を上げた。そして付いてこいとばかりに背を向ける。これから案内するつもりらしい。
おじさんは慌てた。
「今日じゃなくていいから! 次、次に来た時な!」
ポチは足元をたしたしさせていたが、なーんだというように踵を返し餌を食べ始めた。
「……全く、下手なことは言えねえなぁ」
おじさんはまた苦笑した。
ニワトリたちが食べ終えたのを確認すると、おじさんはボウルを洗い、台を端っこに置いて、その上にまた餌入りのボウルを置いた。
「これは暗くなって、また明るくなってからの餌だからな? 夜のうちに食うなよ」
ココッと今度はタマが返事をした。任せて! と言っているようである。
「昇平のニワトリは頭がよすぎていけねえ」
おじさんは首を傾げながら帰っていった。
車の音が聞こえなくなると、ユマはまた「サノー」と鳴いた。
寝て起きたら帰ってくるとはわかっていても寂しいことに変わりはない。
ユマは表へ出た。
西の空へと太陽が沈んでいくのが見えた。
風がふんわりと吹いて、ユマを優しく包んだがユマはかまわなかった。
ただただ、佐野がいないのが寂しかった。
翌日の昼頃になり、果たして佐野は帰ってきた。
ユマとメイが大喜びしたのは言うまでもないことだろう。
おしまい。
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楽しんでいただけたなら幸いです。
次の更新は3/7(火)です。
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お題「本屋」ではこちらの掌編を上げさせていただきました。
「オススメは店主の気まぐれ」
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どちらも短いのでよろしければ覗いてみてくださいませー
これからも「山暮らし~」をお願いします。
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