593.思い出すけど風化していくもの

 翌朝、母さんは例によっていっぱいお土産を用意してくれた。


「母さん、こんなに悪いって」

「昇平はたまにしか来ないんだからいいのよ。お兄ちゃんやお姉ちゃんが来た時だって持たせてるんだから気にしないの!」

「……じゃあお言葉に甘えるけど」


 受け取らなかったら返さない勢いだ。ありがたいことは間違いないからもらうけど。


「ねえ、昇平」

「ん?」

「昇平が住んでる山に、私たちが行くことってできるかしら」

「ええええ」


 母さんにそんなことを言われて困った。


「何よ、ええええって。嫌なの?」


 母さんが首を傾げる。


「嫌だよ」


 さすがに即答した。

 うちのでっかいニワトリを見せるわけにはいかない。タマやユマはやらかさないかもしれないが、ポチが何かやらかす危険性が高いのだ。以前おっちゃんたちがいた時にしゃべったのはうかつだった。あれ絶対気づかれてるよなって思うけど、そんなところで気を抜いてはいけない。


「どうして嫌がるのよ」


 母さんは困ったような顔をした。


「人の手がいっぱい入ってて整備された山じゃないんだって。虫も多いし、マムシだっているんだからだめだよ」

「マムシがいるの!?」


 かえって心配をされてしまった。


「俺一人ならどうとでもなる程度だよ。でも誰かが来た時噛まれない保証はないからさ」

「母さん、止めておきなさい」


 父さんが窘めた。


「でも……」


 母さんは俺が心配なんだってことはわかる。


「昇平には彼女だっているんだろう。いくらなんでももう別れたりしてないよな?」


 父さんが言う。一瞬何を言われたのかわからなかった。

 あ。


「……うん。俺は大丈夫だよ」


 どうにか笑顔を返すことができた。あぶないあぶない。母さんにはいないってことはバレてるみたいだけど、父さんは信じてくれているようだ。さすがに少し胸が痛んだがここでいないなんて白状するほど俺もバカじゃない。


「……また来るから」


 いつになるかはわからないけど。

 そう言い残して逃げるように家を出た。軽トラに乗ってサングラスをかける。もう一年以上も経ってるんだから大丈夫だろうと思ってはいるが、知り合いに見られなかったとしても、俺が知り合いを見るのも嫌なのだ。こればっかりはそう簡単にどうにかなるものじゃない。

 高速に乗って、やっとほっとした。


「アイツら元気かな……」


 ニワトリたちを思い浮かべる。どう考えたって元気だろう。帰ったらまた「オミヤゲー!」と騒がれるに違いない。村の雑貨屋かN町のスーパーでなんか買っていってやった方がいいだろうな。

 サービスエリアで停まった時にスマホにメモを入れた。村の方に戻った時必ずスマホは確認するからこういったものはスマホに入れておくに限る。今はメモとか紙で書いても見ないんだよな。メモ自体どっかいっちゃうことも多いし、ひらひらしてて気になるのかニワトリが咥えてしまうこともあるし。正直やめてほしい。

 やっぱりスマホだな。

 そんなことを考えながらサービスエリアで相川さん、陸奥さん、桂木さん、おっちゃんち宛に土産を買った。

 さぁ後は帰るだけだ。

 思ったより混んでなかったので、昼前にはN町に着いた。このままおっちゃんちに行ってしまうとお昼ご飯を振舞われてしまう可能性があるからまっすぐ帰った方がいい。N町のスーパーでシャケの中骨缶を買う。その他に豚肉の細切れとかも買った。まさかこれがニワトリのお土産とは誰も思わないだろうなと遠い目をした。

 気を取り直して山に戻る。地元、N町、村へと軽トラを走らせて思うのは空気の違いだ。夏真っ盛りなのにやっぱり村の方が涼しく感じる。そして自分の山に戻ったら、暑いけど過ごしやすいという不思議なかんじだった。

 軽トラを停めたら、畑の方からユマとメイが駆けてくるのが見えた。

 胸が熱くなる。


「ユマ、メイ、ただいま!」


 ここで抱きしめるとか定番なのかもしれないが、二羽はそれなりに汚れていた。これは洗ってやらないといけないだろう。


「オカエリー」

「ピイピイ」

「片付けしたら洗うから待っててくれなー」


 ユマとメイの羽を撫でてもらってきた荷物等を片付ける。明日はもう村の夏祭りだ。シカ肉の串焼き、相川さんが味付けとか監修するんだったら絶対うまいだろうな。

 四阿で軽く二羽を洗う。

 離れたところでぶるぶるしてくれる二羽がかわいい。そうしてタオルドライしていたらユマに「オフロー」と言われた。

 言われるだろうなと思っていたから笑ってしまった。

 ほっとする。

 やっぱ俺はうちのニワトリたちが大好きだ。

 それにしても、と今更ながら周りを見回した。ポチとタマはこの暑い中どこまで行ってるんだろうな。


「ユマ、風呂は夜な。ちゃんとお土産買ってきたから、食べてくれるか?」

「タベルー」

「ピヨピヨ」


 シャケの中骨缶は今回三缶買ってきた。一応メイにはまだあげないでおく。一羽一缶とか贅沢だよなー。ツナ缶より高いのに。(本気のツナ缶はそれなりの価格はするが、俺が買うのは安いやつだ)

 昼は野菜と養鶏場から買った餌、そして豚肉を出した。夜に中骨缶を出してあげる予定である。


「ユマ、ポチとタマは?」

「デカケター」

「そっか」


 まぁそうだろうな。

 明日はシカの内臓ももらえるかもしれない。お昼ご飯にと買ってきた弁当を食べながら、この後の連絡などを考えたのだった。



ーーーーー

レビューコメントいただきました! ありがとうございます。


次の更新は3月3日(金)です。

それまでにまたいろいろお知らせ等あるかもしれません。

楽しみにしていただけると幸いですー。

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