502.獣医さんが予防接種をしに来てくれた

 そういえば、タマとユマの卵は何で使われたかというとコーンスープになった。おかげで卵の味が濃厚でいくらでも飲めそうだった。

 しかしその頃にはおなかいっぱいで悶えていた。相川さんが大鍋で作ってくれたので、翌日まで楽しめた。中華コーンスープ最高である。中華料理店で食べるようなコーンスープが家で食べられるなんて! と前にも感動していた気がする。

 え? 卵好きなだけじゃないかって? もちろん卵料理は好きだ。

 桂木姉妹はおなかがきついとぶつぶつ言いながら、相川さんからのお礼だというお菓子を持って帰っていった。


「次はこういうことしないでくださいね。あれぐらいなんてことないですから」


 桂木さんはそう言って苦笑した。


「すみません、気持ちなので」


 相川さんは引き下がらなかった。きっと似たようなことがあれば、またお礼するんだろうな。相川さんは本当に義理堅いのだ。

 そしてまた大量にシイタケをいただいてしまった。ホント、どんだけあるんだろうな。

 それから一週間もしないうちに木本医師が訪ねてきた。もちろん事前に来る日は伝えられている。


「この間ぶりだね~。いや~、使い走りにさせられちゃったよ~」

「ありがとうございます。申し訳ありません」


 そう言いながらも木本医師はとても楽しそうだった。

 さて、今回は久しぶりの予防接種ということで、また事前に予防接種の必要性をニワトリたちに話すこととなった。タマは神妙に話を聞いていたが、ポチとユマは途中から話がわからなくなっていたらしくずっと首がコキャッと曲がっていた。お前らすっげかわいいな、コラ。

 で、またタマに説明を丸投げした。ジト目で見られてしまったがしょうがない。どこの世界にニワトリにわかりやすく説明できる奴がいるというのだ。俺がココッとか言ったって全く伝わらないぞ。

 タマがポチとユマに説明してくれたらしい。

 ポチはあからさまに逃げようとし、ユマは落ち着いていたことからきちんと伝わったのだろう。

 今朝は逃げようとするポチの尾を、タマが踏んで逃がさないようにしていた。もういっそのこと尾を縛り付けてしまおうかと考えたりもした。


「予防接種だよね。まずやっちゃおう。ちょっと待っててね」


 木本医師はうちに入ると手際よく準備をして、逃げようとジタバタしているポチからプス、と手早く注射をしてしまった。職人技だなぁと思った。そのままポチを押さえているタマ、おとなしくダンボール箱の中にいるユマにも打ってくれた。ありがたいことである。


「はい、もういいですよ~」


 木本医師がそう言うと、ポチはコケェエエエエエッ! と鳴いてすごいスピードで逃げて行った。いや、もう注射終わったし……。


「タマ、ありがとうな」


 タマに礼を言ったらタマは頷くように首を前に出して、ポチを追いかけていった。


「……予防接種の後ってあんなに動いて大丈夫なもんですか?」

「さぁねぇ。大丈夫なんじゃないかなぁ」


 木本医師が笑っている。前も何もなかったからいいことにしよう。


「本当はもっと間隔を狭めて予防接種もした方がいいんだけどね。こればっかりは金がかかるからなぁ。鳥インフルエンザとかにかかったら目も当てられないしね。ひよこが生まれてしばらくしたらしっかり予防接種しようね~」

「はい、ありがとうございます」


 サラダチキンを受け取ったり、お金を払ったりした。

 木本医師はユマの状態は見てくれたけど、卵に触れたりはしなかった。


「下手に人の手で触れると冷えたりしちゃうからね。もしかしたら一羽も産まれない可能性はあるけど……一応一か月ぐらい待ってみな。三週間つっても必ず三週間で産まれるわけではないから」

「わかりました」

「それに……有精卵じゃない可能性もあるんだよね?」

「そうなんですよ。だからなんともいえないんですよね」


 お互いに苦笑した。もしかしたら無精卵を温めさせている可能性も0ではない。でもできれば一羽は生まれてほしいと思うのだ。


「産まれるとしたらどんな子なんだろうねぇ。この子たちみたいに尾が爬虫類系なのかな。そしたら本当に羽毛恐竜だね」

「先生楽しそうですね」

「楽しいよ。この村ではいろんな動物に出会えて嬉しいね」

「先生が楽しいならよかったです」


 懐はかなり痛んだが必要経費だ。予防接種は個人で頼んだら法外な金額がかかる。養鶏場とついでにしてもらったからこの程度の金額で済んでいるのだ。

 また一週間後に来てくれると言われたのでお待ちしてますと答えた。お昼は養鶏場のおばさんが俺の分も持たせてくれたらしい。タッパーは今度行った時に返すことにしよう。

 みそ汁はうちで出して、養鶏場のおばさんの料理に舌鼓を打った。


「やっぱりおいしいですね」

「本当においしいね」


 木本医師はにこにこしながら食べて、帰って行った。白髪頭だからけっこう年がいっているように見えるけど、本当はそれほど年は取ってないんだろうか。とにかくこの村もそうだけど周辺に住んでいる人は年寄りでもアクティブだと思う。

 木本医師を見送った後スマホを確認したら相川さんからLINEが入っていた。

 なんだろうと確認すると、また仮想通貨が上がっていたらしい。画像がついていた。預けたお金以上になったら、その以上の分を換金してもらうことにしているが、今回は思ってもみなかった数字になっていた。


「これでお風呂の改築できそうですね」


 だからどこまでうちの風呂を改築したいんだよ。


「そうですね。ありがとうございます。せめてひよこが産まれてからで」


 そう返した。今は薪用の風呂釜とか売ってるし。薪ボイラーとかもあるしな~。ってことはやっぱり薪も溜めておかないとだめじゃないか。

 やっぱいろいろがんばらないとなと思ったのだった。


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470万PVありがとうございますー♪ これからもよろしくですー

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