434.元庄屋さんの様子を見に

 圭司さんたちが帰る直前に思い出して、将悟君に図書カードは渡すことができた。とても恐縮されたけど気持ちだからと受け取ってもらった。中学入学おめでとう。

 明日は元庄屋さんに電話して、ちょろっと顔だけ出してこよう。

 家には上がらないかんじで。詳しくは圭司さんが話してくれるだろうし。

 それにしても、ホント不思議だよな。この山にいるのが物の怪と言われても不思議ではないが、ポチたちだったら物の怪も成敗してしまいそうだから、やっぱりおわすのは神様なのだろう。圭司さんにはああ言われたけど、ニワトリたちに手伝ってもらってできるだけ草木を刈っていこうと思った。

 将悟君がシシ肉を喜んで食べてくれてよかったな。ジビエだから臭みとかで食べつけない人もいるみたいだし。味噌漬けにしたからあんまり臭みも感じられなかったとは思うけど。

 ポチとタマが帰ってきたから羽などの手入れをしつつ足元などをタライで洗った。やっぱ相川さんのところみたいに露天で風呂作ろうかな。家の横に作れば排水もできるし。

 相川さんの顔が浮かんだ。でも話したら絶対手伝いますって言われちゃうしなー。今のところ金もないからとりあえず薪用の枝とか木を集めておくことにしよう。

 今日のニワトリたちのごはんには厚切りにしたシシ肉を二枚づつつけた。山登るの手伝ってもらったし。

 おかげでニワトリたちはいつもよりもご機嫌だった。

 なんかうちのニワトリ見てるとニワトリ=肉食みたいなイメージだけど普通はこんなに肉ばっか食べないよな。もちろん養鶏場から餌は買ってきてるから穀類とか野菜ももりもり食べてるけど、ニワトリってこんなに飯食べるもんか? やっぱ体格がでかいってのもあるだろうなー。これがなんかの病気とかじゃないならいいんだけど、とでっかくなったニワトリたちを見て少し心配になってしまう。

 かわいい俺の家族だからいろいろ考えてしまうのだ。

 相川さんにLINEを入れた。


「神様には引っ越しを拒否られました。神棚は買いに行く予定です。山倉さんのお孫さん、かわいかったです」


 返事はすぐだった。


「神様に意思表示されたんですか? それはすごいですね。神棚を買いに行く際はお声掛けください。お孫さんて、いくつでしたっけ?」

「神様の件については今度会った時にでも。お孫さんは今年中学生だそうです」


 神棚を買うのは早い方がいいだろうということで、さっそく明後日には買いに行くことにした。もう四月だし、いくらなんでももう雪は降らないだろう。神棚を置く台と天井までの高さとか幅を測ったりしないとなと思った。

 翌日はまったり起きた。人が来るとか、誰かのところに何時までに向かうとかそういうプレッシャーがないのがいい。ポチとタマは朝飯の後いつも通り遊びに出かけた。気を付けて行ってこいよと声をかけて送り出した。

 山倉さんに電話をかけた。


「おはようございます、佐野です。昨日はありがとうございました。圭司さんに話はお聞きになりましたか?」

「佐野君、おはよう。本当にありがとう。話は聞いたよ。ザリガニの件、言わないでいてすまなかったね」

「あ、いえいえ。それはもういいんで」


 元庄屋さんにも謝られてしまって電話口で頭をぺこぺこ下げてしまった。そういうわけにもいかないのだろうけど、もう気にしないでほしかった。

 おっちゃんも気にしてくれているみたいだから報告も兼ねてユマと山を下りた。おっちゃんがいなければいないでかまわないし。


「こんにちは~。昨日は顔出ししないですみませんでした」


 先に元庄屋さん宅に顔を出した。ユマは一応軽トラから下ろしたけど、すぐまた出ることは言ってある。


「まあまあ! 上がってください!」


 奥さんが出てきて促されたが、顔出しだけなのでと玄関先で断る。気を使わせても悪いし。


「それより、昨日何か気づかれたことってありますか? 何かあればおっしゃってください」


 お墓にも毎日行ってるわけじゃないし。


「いやいや、家も丁寧に使ってくれているみたいだし、廃屋も片付けてくれたんだろう? 本当は廃屋の始末はわしらがしなければいけなかったんだが……」

「いえ! あそこに住んでるのは俺ですから、そこは気になさらないでください」

「……何から何まですまない。……ありがとう」

「何かありましたら教えてください。できるだけ添えるようにしますので。あ、でも……お墓参りに関しては遅くとも前日までに連絡をいただけると助かります」


 昨日の今日だが元気そうでよかった。年寄りって、本当は毎日確認してもいいぐらいだしな。

 最近は監視機能付きの電気ポットとかあるらしいけど、そういうのは導入してるんだろうか。うちのことじゃないから聞きはしないけど。

 ユマを乗せて雑貨屋へ寄り、サラダチキンを買った。養鶏場から下ろされている品である。あそこの鶏肉、おいしいんだよな。ついでに硬めの煎餅も買った。やっぱ村で買えるこの硬い煎餅が一番だ。スーパーとかでは見ないけど、どっから仕入れてるんだろう。


「あー! ニワトリだー! 遊んで遊んでー!」


 そういえばまだ春休みだった。雑貨屋の外で待たせていたユマが子どもたちに見つかったようだった。


「ユマちゃん遊んでー!」


 なんでユマだってわかってるんだろう。なんか特徴あったかな?


「ごめん、今日はちょっと忙しいんだ。また今度な~」

「えー!」


 子どもたちに文句を言われたけどしょうがない。悪いけどこれからおっちゃんちに行くんだ。ユマが子どもたちに近づいて、ココッと鳴いた。


「しょうがないなー」

「わかったー」

「ユマちゃんまた遊んでねー」


 なんでだ。いったい何を分かり合ったんだろうか。子どもってわからん。フィーリングなのか? そうなのか?

 首を傾げながらユマを軽トラに乗せ、子どもたちに手を振った。

 そしておっちゃんちへ向かったのだった。

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