231.帰りもみんなでわちゃわちゃわちゃ

 帰り、お土産にイノシシ肉をいくらかいただいた。とても助かる。陸奥さんたちにありがとうございますと頭を下げた。


「本当にシカはいらねえのか?」


 陸奥さんに聞かれて頷いた。


「俺じゃうまく下ごしらえもできないので。おいしく食べてくれる人が食べてくれるのが一番です」

「この間もそんなこと言ってなかったか?」


 おっちゃんに突っ込まれたが、シカは本気でうまく調理できる気がしない。ニワトリたちの分はいただいたが俺の分は本当に大丈夫です。自分で調理してまずくなったら泣く。

 ちなみにシカの皮などは秋本さんがもらうことにしたので、シカの分の解体費用はチャラになったそうだ。きれいになめして売るのだとか。

 相川さんはけっこうな量を持って帰れるようだった。リンさんの分がほとんどなのだろう。人があまり食べないような部位もかなりもらったようだった。


「骨以外ならけっこうなんでも食べますから。きちんと秋本さんが解体して確認してくれているので獲物に病変もないことはわかっていますし。おかげで安心して食べさせられますね」


 相川さんはご機嫌だった。リンさんやテンさんは丸のみしてしまうぐらいだから骨も溶かしてしまうらしいのだが、やはり突き刺さったりする危険性はあるようだ。そういうのが取り除けるなら取り除いた方がいいのだろう。

 陸奥さんたちは改めておっちゃんたちに挨拶し、そこで一旦おっちゃんちの山での狩りは終わった。後はまた何かあったら連絡する形になるようだった。


「佐野君、早ければ明日だが、遅くとも明後日にはそちらへ行く。今回は何も用意しなくていいからな」


 陸奥さんはそういうけど、本当に何も用意しないでいいなんてことはないだろう。まだ煎餅あったかな。


「はい」


 一応返事はしておいた。幸先よく沢山獲物が捕れたのでみなご機嫌である。


「いやー今年は豊猟だな。町の料理屋も喜ぶんじゃねえか?」

「そうだねえ。いい小遣い稼ぎになるねえ」


 陸奥さんと戸山さんがそんなことを言い合いながら帰っていく。町の料理屋ってどうするんだろう。直接下ろしにいくんだろうか。

 俺と相川さん、桂木姉妹も暗くなる前におっちゃんちを辞した。


「おにーさんに会えなくなるのさびしー」

「免許取るのがんばってね」

「おにーさんはさびしくない?」

「元々そんなに会ってないだろ」


 桂木妹は相変わらず面白い。


「あのな、俺にはそういうこと言ったってその気になることはないからいいけど、その気もない相手にそういうこと言うなよ? かわいいから勘違いする奴出てくるぞ」

「……おにーさんだったらいいのに」

「大人をからかうなよ。何も出ないぞ」

「ちぇー」


 桂木妹は口を尖らせた。

 ついつい笑ってしまう。実際桂木妹は寂しいのだろう。でも相手は俺じゃなくてもいいはずだ。なんていうかこの子は、男がいて初めて安心するタイプなんだろうなと思った。そういう子っているよな。かわいくて側にいてあげたくはなるけど、その相手はきっと俺じゃないって思うからその手は取らない。早くいい男に出会えればいいと思う。今度は束縛強いストーカーみたいな男じゃなくて、本当に大事にしてくれるようなさ。

 ふと視線を感じてそちらを見れば、桂木さんがちょっと困ったような顔をしていた。目が合った途端こちらに近づいてくる。見なきゃよかったと後悔した。桂木さんがどうのというわけじゃなくてまだその、女性はな……。


「佐野さん、リエも一緒にどこか出かけましょうよ」

「……どこへ?」

「S町のショッピングモールとか!」

「却下」


 悪いけど女性の買物に付き合う気はない。姉と母の買物の付き合いでそこは懲りたのだ。


「ええ~? じゃあおいしいもの食べに行きましょうよ~」

「昨日散々うまいもの食べたじゃないか」

「そういうのじゃなくて~」


 言ってることの意味はわかる。多分外食したいんだろうなと思う。でも出かける時はユマが一緒だしな。レストランなどの場所に入ることは当分ないだろう。


「俺が出かける時はユマも一緒なんだよ。諦めてくれ」

「そんな~。佐野さんが冷たい~」


 冷たいとは人聞きが悪い。また視線を感じてそちらを見ればポチとタマとユマがいつになったら帰るの? って目で俺を見ていた。これ以上待たせたらおっちゃんちの山を登りそうだ。


「おばさんと行ってくればいいだろ。じゃあ、帰りますか」


 すでに挨拶は終えているのであとは思い思いに帰るのみだ。


「ポチ、タマ、今日は見回りはなしだからな」


 釘を刺したらタマにじいっと睨まれた。こりゃ帰宅したらつつかれコースかな。

 それでもだめなものはだめなのだ。


「もう帰ったら暗いからさ。見回りは明日にしてくれ」


 そうしてやっと俺は帰路についた。

 で、帰ってからどうなったのかって? もちろんタマにつつかれたよ。すげえ理不尽だなって思った。

 桂木姉妹に会えるのは桂木妹が免許を無事取得してからだろうか。マニュアルだからどれぐらいかかるんだろうな。ま、いくらなんでも春まではかからないと思いたい。


「さみしくないのかって? さみしいに決まってるだろ」


 呟いた。

 桂木妹っていうより桂木さんの姿が見られないのはな。

 まぁただ、そんだけだけど。

 ユマがコキャッと首を傾げた。ユマはかわいいよなって羽を少しわしゃわしゃさせてもらった。

 ホント、癒しだよなぁ。

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