224.収穫があるのはさすがだと思います
俺がおっちゃんちに着いた時、まだ陸奥さんたちは戻ってきていなかった。
時計を見ると、三時ちょうどだった。さすがに戻ってくるにしても三時以降だよな。
「こんにちは~」
おっちゃんが縁側でお茶を飲んでいた。どうしてここの人たちはこの寒いのに縁側でお茶をしているのか。うちの山ではさすがに底冷えするから無理だな。
「おお、昇平。用事は済んだのか?」
「ええ大体終わったと思います。あとは明日松山さんのところへ行ってこようかと……あ」
「帰ってきたな」
先頭にポチ、その後ろを陸奥さんが歩いてきた。ポチがキリッとしている。ニワトリって戦闘特化の生き物だったっけ? いろいろ認識がずれそうな光景だった。
おばさんが気づいたらしくやってきた。
「あら、昇ちゃんおかえりなさい。お茶淹れてくるわね」
「陸奥さんたちも帰ってきたみたいです……よ?」
あ、獲物狩ってきたっぽい。一頭だけど。
相川さんと戸山さんが木の棒に鹿の足を括り付けて帰ってきた。この辺りにも鹿っているんだな。って、この辺り全部山なんだからどっかにいればこの山にいてもおかしくはないか。
「お疲れ様ですー」
「佐野君おかえり。鹿を見つけたから狩ってきたぞ」
「すごいですね~」
陸奥さんに得意そうに言われて素直に称賛した。鹿も野菜を食べたりするから農家にとっては害獣だ。捕れるなら獲った方がいい。木の芽とかも好んで食べるから林業でも天敵扱いである。でも鹿って捕まえる数に制限とかなかったっけ? 増えてきてるから制度も形骸化してんのかな。
「佐野さん、おかえりなさい。湯本さん、秋本さんには連絡してあるのでそろそろいらっしゃいます」
相川さんでも重そうにしていたからかなりの重量なのだろう。
「そうかそうか。お疲れ様」
俺は急いで倉庫からビニールシートを取ってきて陸奥さんと一緒に敷いた。直接庭に下ろしてもいいのだろうが、野生動物はどんなものを抱えているかわからない。ダニとかもそうだし病気などもそうだ。おっちゃんちの山は川が裏側にしかないらしいので急いで運んできたようだった。解体する人がいなければ解体もするらしいが、秋本さんが担ってくれる時は秋本さんたちに任せることにしているらしい。
「ポチ、タマ、ユマ、お疲れ。よくがんばったな」
三羽とも頷くように首を動かしてコッと鳴いた。うちのニワトリ軍隊かな。なんか揃ってたぞ。
「鹿ってどの辺りで見つけたんですか?」
「東側の……隣山との境ぐらいだね。迷い込んできたかんじだったよ」
鹿を下ろして、肩を押さえ首をコキコキいわせながら戸山さんが答えてくれた。
「東側、でしたか」
そういえばそっちの方は見なかったなと思い出す。どちらかといえば西側の方ばかり見ていた気がした。西側の隣山も別の所有者がいるはずだ。この辺りの山は村の人たちがほぼ持っているらしい。反対に川を挟んだ北側の山は俺たち外様の連中が山を持っていたりする。そういえば桂木さんの更に東側にある山、人が住んでいないと思っていたけどどうもその山の南側に人が住んでいるらしい。どちらかといえば隣村から近い方角に人が住んでいたからこちらの村では把握していなかったようだった。確かに隣村の方で活動されてたらわからないよな。そもそも山に住んでたら隣村ともそれほど接点はないかもしれないし。
「もしかしたら東側の山で繁殖してるのかもしれねえな」
陸奥さんが難しい顔をしている。
「東側の山って確か桑野さんの山でしたっけ?」
「ああ、東と南の山も持ってるんだがなぁ……」
おっちゃんが山を眺めながら呟く。桑野さんて、高齢で全然手入れができないんだっけか。家自体はおっちゃんちの隣の隣にあると聞いていた。
「交渉できるならそっちも狩りはさせてもらった方がよさそうだねえ。できるだけ狩っておかないとまた流れてきちゃうだろうし」
珍しく戸山さんが難しい顔をした。おっちゃんが頭を掻いた。
「そうだなぁ。でも今年は昇平んとこの山を回るんだろ?」
「うん、そのつもりだよ。相川君のところの裏山も毎年豊猟だけど、佐野君のところは全然人が入ってないはずだから更にすごいだろうね。もしかしたら一財産築けちゃうかもよ!」
戸山さんがにこにこしている。狩猟で一財産かぁ。どんだけ捕れるとそうなるんだろう。もちろん冗談だろうけど。
「うちのニワトリたちはお役に立てましたか?」
一番気になるのはそこだ。
「ああ、やっぱ佐野君とこのニワトリはすげえな。先導してくれるから歩きやすかったし、他にもイノシシの巣の跡は見つけたんだ。だから週末まで回ればまだ捕まえられそうだが、シカも逃げられそうなところを押さえてくれてなぁ。下手な猟犬よりもすげえぞ」
陸奥さんがご機嫌である。よかったよかった。
「それならよかったです」
あとでいっぱい褒めてやろう。
「佐野君のところのニワトリは猟犬ならぬ猟鶏だね~」
戸山さんが言う。猟鶏……そんな言葉があるのかどうかは知らないけどうちのニワトリたちがどこに向かっているのかわからない。
「この辺りはシカはいなかったんだが、どっかから流れてきたんだろうな」
おっちゃんがポツリと呟いた。
おばさんがお茶を淹れてきてくれたので、縁側でみんなお茶をしながら秋本さんが来てくれるのを待った。とりあえずニワトリたちの足は洗わせてもらった。
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