189.診療所にまたドナドナされました
あの後、「またLINE入れます!」と言われて桂木姉妹に送り出された。
あれ? そういえば俺桂木さんの山に何しに行ったんだっけ? タマもちょっと不満そうな顔をしていた。
あ。
「タマごめん、神様探しはまた今度だってさ」
「……ワカッター」
「タマありがとうなー」
しぶしぶではあるがタマが返事をしてくれたのでそっと羽を撫でた。そうか、手が傷ついたままだったらニワトリにも反応してしまうかもしれないよな。そんなことは絶対に嫌だった。
診療所に向かうと、果たして相川さんの軽トラが待っていた。本当に来てくれたんだ、とほっとすると同時に申し訳なさを感じた。
「佐野さん、こんにちは。手、見せてください」
「はい……」
しぶしぶ両手を出すと相川さんが掴んで、まじまじと見た。男二人でおてて繋いでとかいったいなんの罰ゲームなんだろうか。
決してそこに愛は生まれないと思う。
「けっこうひどくなってますね。入りましょう」
「あの、手……」
「ああ、すみません!」
ナチュラルに俺の手を引いて診療所に入ろうとする相川さん。とんでもない噂が席巻しそうなので勘弁してほしい。タマとユマが俺たちを眺めながら何やってんのコイツらと言いたそうな顔をしていた。うん、本当に何やってるんだろうな。
気を取り直して診療所に足を踏み入れたら。
「こんにちはー」
「あ!」
受付にいた看護師のおばさんが俺を見て目を見開いた。そして後ろの扉を開け、
「せんせー、あの子来ましたよー。ほら、でっかいニワトリの子!」
大声で声をかけた。
俺、でっかいニワトリじゃないです。相川さんを見やると苦笑していた。
「あー、ニワトリの子来たのかー」
だから俺はニワトリじゃないんで。
診療所の先生がわざわざ出てきた。
「で、ニワトリは?」
「もちろん外ですよ?」
「そっかー。今日はどうしたの?」
先生は頭を掻いた。
「ええと、手の湿疹がひどいのでよく効く軟膏かなんかないかなーって……」
「一人ぐらしだっけ? それじゃしょうがないわよねー」
「そっかそっか。そんな時期だよね。おいでおいで」
診察室に手招かれて看てもらった。で、軟膏を出してもらえることになった。
「寝る前と朝と、後は適宜ね。一日に何回塗ってもかまわないから、使い切る勢いで使っちゃってー。あ、それから」
「はい? なんですか?」
「ゆもっちゃんに伝言頼める? もう生きてるスズメバチは持ち込まないでって」
「はい……伝えておきます」
相川さんと共に苦笑した。確かに虫籠の中に入っているとはいえ生きたスズメバチは嫌だよなって思う。確かあれは桂木さんの山で退治した時だったか。
「またなんかあったら来てね。あんまりひどいようなら町の皮膚科に行って。知らなければ紹介するから」
「わかりました。ありがとうございます」
俺が来た時は誰もいなかったが、帰る頃に一人二人とやってきた。午後でも意外と人は来るらしい。
隣の小さいプレハブで薬をもらった。
「相川さん、わざわざここまで来ていただいてありがとうございました」
そういえば桂木さんの山から直接ここまで来てしまったから、何も持ってきていないということに今頃気づいた。ここで別れてもいいのだがわざわざ呼び出した手前ちょっともじもじしてしまう。なんだもじもじって。乙女か。
「いいんですよ。あ、出てきたついでに佐野さんちにお邪魔してもいいですか? 川の様子を見せていただけたらと思いまして」
「あ、ああ。そうですね!」
そういえばもう一回リンさんとテンさんに来てもらいたいという話をしていたのだった。
「それでまだ目視で数がいるようなら、明日か明後日にでもリンとテンを連れて行こうかと……」
「あ。明後日は桂木さんのご両親が見えられるみたいです」
「そうなんですね。じゃあそれ以降にしましょうか。テンが冬眠の準備に入る前に行きたいので近々ですね」
「わかりました。明後日に関しては相川さんも声がかかるんじゃないですか?」
「? 僕は何もしていませんよ?」
相川さんが不思議そうな顔をした。いつもお世話になっている人、という話だったから間違いなく相川さんも入るだろう。桂木妹をN町で回収した時一緒にいたし。
リンさんテンさんがいなかったことで、タマも相川さんを招くことに異論はなかった。
川を見てもらって、お茶をして、帰り際に相川さんがとても真面目な顔をした。
「ちゃんと軟膏塗ってくださいね。毎日ニワトリを洗っているんでしょう?」
「ええ、まぁ……」
「できれば洗う前と後です。べたべたするかもしれませんが忘れずに!」
「はーい……」
信用ないなぁって思う。俺も治さないとまずいなとは思っているのでほどほどに塗るだろう。痒いのも嫌だし血が噴き出すのも嫌だし。
桂木さんからもらったハンドクリームを見る。そういえば一応パッチテストっぽいことはしてくれと言われた。肌に合う合わないはあるようなので。
ちなみに、タマは帰宅後すぐにツッタカターと遊びに出かけてしまった。ちょっとだけ悪いことをしたなと思った。
「ユマも俺に遠慮せずに、いつでも遊びに行っていいんだからな?」
ユマにぷいっとそっぽを向かれた。だからなんでだ。
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