150.ぼたん鍋は身体がとてもあったまるそうです
ポチは昼夜逆転はしなかったみたいだった。帰ってきてからそれなりに暴れたのかなと思ったけど、タマにものすごい勢いでつつかれたみたいだからそれで疲れたのだろうと思う。きっとポチのことだから正直に全部話してしまったんだろうし。どうしたって女子にはかなわない。(論点がずれた)
行く前に手土産どーすっかなとか考えたけど、ポチがイノシシを捕まえたんだからいいかと今回は持って行かないことにした。今度まとめて紅茶のセットでも贈ろう。おばさんには苦労かけっぱなしだし。
今日は桂木さんも来る予定だ。
「なんで連絡くれないんですか!」
と昨日の件について怒られたけど、
「女の子にイノシシ運ばせたりできないだろ。なんかあった時守れないし」
と言ったら、
「お、女の子! で、ででででもユマちゃんも女の子じゃないですかぁっ!」
とかわけのわからないことを言いだした。ユマと人間の女子は全然違うし。
「ユマ、山駆け上れるけど?」
「う……」
「前はポチたちと一緒だったけどイノシシ狩ってきたぞ」
「あーもう! そういうことじゃないんですよお!」
やっぱりよくわからなかった。とりあえず後で、と言って電話を切った。女子の心理はさっぱりわからない。
んで、陽が落ちる前に山を下りた。いつものように助手席にユマ、荷台にポチとタマである。荷台ってかなり揺れるんだけどよく乗ってられるなーといつも感心する。もちろん立って乗っているわけじゃないし、下に毛布も敷いてある。過保護だなっておっちゃんに笑われたけどいいのだ。うちのかわいいニワトリたちの為なら労力は厭わない。おかげさまでそれなりに身体は鍛えられたと思う。力こぶが見掛け倒しになっていないのが嬉しい。
おっちゃんちに着いた。
今日は駐車場が満杯である。
「やあ、佐野君。またニワトリがイノシシを捕ったんだって? すごいねえ」
「こんにちは、松山さん。そうなんですよ」
養鶏場の松山さんも来ていた。夫婦でいらしたらしい。
「佐野君のところのニワトリ、本当にすごいねえ。いつ見てもニワトリではないんじゃないかなって考えてしまうよー」
「でっかいですけど、ニワトリですよー」
なんつーかコカ〇リスっぽいけど。どこぞで実験動物状態になったらやだからニワトリと言い張らせてもらう。
「佐野君、いつもありがとうなー!」
秋本さんは上機嫌だ。
「いやー佐野君のおかげで臨時収入ができてとても助かるよー。おかげさまで解体の腕も鈍らないし!」
「それならよかったです」
そういえば解体だってただでやってもらえるわけじゃない。今回はおっちゃんがポチに頼んで捕ってきたからと、解体の費用は払わせてもらえなかった。なんか解せぬ。
「佐野さん、ポチさんすごいですね」
相川さんがやってきた。もちろんリンさんやテンさんは来ていない。そういえば家の横にドラゴンさんがいるのを見た。桂木さんはもう手伝いをしているのだろう。
「あら、昇ちゃんいらっしゃい。庭にポチちゃんたちの分を置いたから、足りるかどうか見てもらっていい?」
「おばさん、こんにちは。ありがとうございます」
みなでぞろぞろと庭に移動する。庭から縁側に上がる形だ。ビニールシートが敷かれている場所に野菜や生肉がどどんと置かれている。これがうちのニワトリたち用のスペースなのだろう。で、軽トラを停めた途端に駆けて行ったニワトリたちがどこにいったのかというと、庭の向こうにある畑である。キレイに整備されて秋植えをされているところはつつかないように言ってある。そちらの方を見やると、三羽とも何やらいろいろ啄んでいるようだった。多分虫がいるのだろう。
もう陽は落ちているので一気に暗くなるだろう。秋の日はつるべ落としとはよく言ったものだ。
今回ただ焼いただけで食べられる肉が少ないことから、松山さんのところから鶏肉も買ったらしい。やっぱり迅速に冷やすって大事なんだな。
女性陣はもう肉だの魚だの、野菜だのを焼き始めている。俺たちは庭から縁側に上がった。
「よーし、だいたい揃ったか?」
おっちゃんがみなに声をかけた。
「今回も昇平のところのニワトリが身体を張ってイノシシを狩ってくれた。まだまだイノシシはいるだろうが、これからも捕まえてどんどん食っていこうじゃないか! 乾杯!」
みなでコップを持ち上げてやんややんや言い合いながら乾杯した。ニワトリたちも一応空気を読んだのか、おっちゃんが乾杯! と言ってから肉や野菜をつつきはじめたからやっぱり優秀だと思う。
今回、松山さん夫婦、秋本さん、結城さん他仲がよさそうな人々、相川さんに桂木さん、桂木さんの知り合いの山中さん家族、それから近所の家族などいろいろな人たちが来ていた。俺はそれほど社交的な方じゃないけど、人がいっぱいいるところは嫌いじゃない。ましてイノシシを狩ったのはうちのポチだ。ほこらしい気持ちで焼いた肉を食べ、その後出された味噌味が強めのボタン鍋に舌鼓を打った。
確かにちょっとシシ肉が生臭いかんじもしたが、それほどは気にならなかった。これは秋本さんの腕がよいからだろう。秋本さんと相川さんが熱心に何やら話している。相川さんは狩猟免許を持っているからいろいろ聞いているのだろう。
「俺も狩猟免許取った方がいいですかね?」
なんとなく聞いてみたら秋本さんと相川さんに微妙な顔をされた。
「佐野君は……ニワトリがいるからわざわざ取らなくてもいいんじゃないかな」
「狩猟免許より、猛獣使いってかんじですよね」
猛獣使いって、それを言ったら相川さんの方がよっぽど猛獣使いっぽい。ここでは言わないけど。ちょっと猟銃なるものを持ってみたい気もしたが、そんな不純な動機で持っていいものではないだろう。そもそもそう簡単に買えないし。
そんなことを話しながらいいかんじに酒が回った。ポチが狩ったイノシシも食べられて万々歳である。
桂木さんの顔が一瞬浮かび、その後ドラゴンさんの顔が浮かんだ。ちゃんとドラゴンさんは食べただろうか。腹いっぱい食べられたらいいなと思った。
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