146.夜の山を登って

 夜の山を舐めんなってことで、露出は極力しないようにして、虫除けスプレーをしっかり撒き、頭に懐中電灯つけて、手にも持って、簡易リュックに飲み物とおにぎり詰めて(おばちゃんが握ってくれた)いざ出発。

 ポチはずっとタシタシと足踏みをしていたがこればっかりはしょうがない。うちの山じゃないし、しかも山道を行くのだ。本来ならこんな運動靴じゃなくて登山靴でも履きたいぐらいである。


「ポチ、お待たせ。あんまり早く進むなよ、俺たちはついていけなくなるからな」


 クァッ! といい返事をするポチ。だが俺は知っている。いいのは返事だけだって。


「ポチ、頼んだからな! ちゃんと俺とおっちゃんが通れる道を通ってくれよ!」


 そう言わないと道なき道を踏破するのでだめ押しは必要だ。ポチは首をあちらこちらに向けると、昼前に上った山道を進むことにしてくれたようだった。言ってよかったと思った。

 ポチは最初軽快にトットットッと上がって行ったが、俺たちがそのスピードについていけないことに気づくと速度を落とした。悪いけど人間はそこまで早く上がれないんだよ。昼間ならともかく夜だし。懐中電灯なかったら何も見えないし。

 足元も気にしながら、ポチの案内に従っておっちゃんと山を登ること約一時間。ポチがやっと足を止め、クァーーッ! と鳴いた。

 するとしばらくして、ガサガサガサガサッと草をかき分けるような音が近づいてきた。ユマじゃないかなと思ったが油断は禁物である。俺とおっちゃんは木の枝を持って腰を低くして構えた。イノシシの突進だったら即避けなければいけない。

 ガサガサッとすぐ側で音がしたかと思うと、ユマが顔を覗かせた。


「ユ、ユマ~~~~~~ッッ!!」


 俺は反射的にばっと両手を広げてユマが飛び込んでくるのを待った。が、残念ながらユマは俺の腕の中には納まらなかった。俺の服をツンツンと突き、来た道を戻る素振りを見せた。俺超恥ずかしくない?


「ついてこいって言ってるみたいだな」


 おっちゃんが俺の恥ずかしい姿をスルーした。一言ぐらいツッコミ入れてくれたっていいじゃないか。


「そうみたいですね」


 内心切ない思いを抱えながら、俺たちはユマの後についていった。

 んで。


「えええええ……」

「うわあ……大量だなぁ……」


 五分ぐらい進んだ先に、何故ポチとユマが戻ってこられなかったかの理由が倒れていた。暗いからわからないが、懐中電灯で照らすと草が倒れているのがわかる。ここまで二羽でどうにかして引きずってきたのだろう。


「……ポチ、本当にありがとうな」


 おっちゃんがしみじみ言った。

 そこには、大きなイノシシが一頭と、子どもより少し育ったようなのが三匹倒れていた。

 おそらく、すでに死んでいるのだろう。


「ネコでも持ってくりゃよかったな。どーしたもんか。このまま置いといてクマにでも見つかったらことだしな」

「この辺りもクマっているんですか?」

「なかなか降りてこねえだけでいるよ。特に今は秋だ。冬眠に備えて餌を探してるに違えねえ」

「それは困りますね」

「しょうがねえ、俺が朝までここにいるからお前はニワトリたちと戻れ」

「そんなことできませんよ!」


 俺はびっくりして声を上げた。思ったより俺の声は夜の山中で響いた。

 クァーーッ! とポチが鳴く。そして戦利品の側にもふっと座り込んだ。なんか羽が以前よりもふもふしているように見えた。


「ポチ?」

「お? 一緒に見張りしてくれんのか?」


 クァッ! と返事をするようにポチが鳴いた。朝までおっちゃんと一緒にいてくれるらしい。それなら安心だと思った。

 だって、ポチはイノシシを倒せるぐらい強いのだから。

 確かに俺がここにいてもしょうがない。こんな暗い中じゃ運ぶこともできないし、解体も難しい。それより早く戻っていろいろ連絡して、朝一で助っ人に来てもらった方がいい。


「ポチ、おっちゃんとイノシシを見ててくれるか?」


 クァッ! 任せろ、というようにポチが鳴いた。なんて頼もしいんだろう。


「おっちゃん、誰に連絡しますか?」

「あきもっちゃんには必ず連絡してくれ。あとは……うちのの方が詳しいだろう。ネコがあるといいが、下りはきついよな。縄と、吊るす用の棒があるといいな。ああ……とりあえず縄があればいいか。編んでもいいが時間がかかるしな」


 編むって、山の材料を使ってだろうか。できないことはないだろうが、茎だの葉だのの繊維をわざわざ取り出すなんて器用なことは俺はできない。せいぜいできて藁を編むぐらいだ。


「ロープと、ビニール袋ですかね。虫除けは置いていきます」

「おう、ありがとな」

「朝、できるだけ早く戻ってくるようにします」

「昇平、ありがとな。ポチも、ユマもな。本当に助かったよ」


 手を上げて、ユマと共に山を下りた。下りる時はそれほど時間はかからなかった。やきもきして待っていたおばさんに事の次第を伝えると呆れられた。


「三頭? 四頭? ポチちゃんは優秀ねぇ……昇ちゃん、ありがとう。ごめんね」


 解体を生業としている秋本さんに電話をしたり、相川さんと桂木さんに連絡をしたりした。そして、俺は風呂をいただいて寝た。

 本番は明日の朝だ。体力回復は必須なのである。


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